2.4話 アーサ到着……したけどさ。
前回のお話:ニケが飛んだ
アーサの街。
遠目から見ても、城塞都市なのかと思うくらいに、巨人が造ったと云われる壁は、大きく、高く聳えていた。
壁際まで辿り着くと、その壁は見上げようにも首の可動域が限界を超えてしまう高さだった。
そんな壁の内側に入る為の門は、全部で4箇所と、あまり多くは無く、更に大きくも無い。
精々が3mあるか、というところだろう。
オレとニケは、西門に辿り着いた。
すんなり入れるのかと思っていたのだが……
少し苦戦していた。
「で?金は?ここを通りたいなら、ちゃんと払ってもらわないとなぁ?ガキだろうがなんだろうが、一人一万リアーだ。」
目の前の門番を名乗る男は、にちゃりと下卑た笑いを浮かべながら、値踏みする様にしてニケの全身をじろじろと見渡している。
「なあ、ニケ。一万リアーって?どれくらいの価値?」
「えっと……、1ヶ月分の生活費くらいかな?」
「はぁ?!高過ぎないか?!ぼったくりバーかよ?!」
「なんだ?ボウズ。文句があるなら中に入れねぇだけだぜ?ま、金がねぇってんなら、仕方ねぇな。
優しい優しい俺様が、選択肢を与えてやってもイイんだぜ?」
コイツ……気持ち悪い笑いを浮かべやがって……。
あまりいい予感はしないが、一応聞いておこうじゃないの。
「選択肢って?」
「なぁに、簡単な事よ。この嬢ちゃんを一晩俺様に貸すか、荒野に帰るか、だ。
さぁ……どうする?どっちでもいいんだぜぇ?」
そう言って、門番の男は、益々その顔を醜悪に歪めた。
うーむ。
さすがにこんな提案をされた経験は無いなぁ。
「レイ……」
その顔を見たニケは、怯えきった様にこちらを見ていた。
見ように拠っては、ちょっとあざとい感じだ。
まぁ、そうね。オジサンそういうのには、弱いよ?
ふはは。ちゃんと、期待には応えようじゃないですか。
オレは、ニヤリとして、門番に答えた。
「中々の提案だな。
そうだな……せっかくだから、三日くらいでどうよ?」
「ほう?三日もか!ボウズ、お前、分かってるじゃねぇか。しゃーねぇな、無一文だってんなら、宿代くらい恵んでやるか。ほれ。」
そう言って、門番は、硬貨らしき物を3枚投げて寄越した。
「商談成立だな。」
オレは硬貨を受け取ると、すっと、右手を差し出す。
門番は、その手を握りしめた。
「三日後に、またここに来いよ。壊れてなけりゃ、ちゃんと返すからよ。」
壊れてなきゃって、お前……
まぁ、いいさ。
「そうか。三日な。リセット!」
「へぁ……?」
――
門を潜ると、そこは雑多な空間……簡易なテントが立ち並ぶ、難民キャンプのような光景が広がっていた。
そして、なんとも言えないキツい悪臭がお出迎えしてくれる。
そんな中を進めば……
お世辞にも綺麗とは言えない衣服を身に纏って、ただ座り込んでいる老人。
走り回る元気も無さそうな半裸の子供……全裸の子供もいる。
ガリガリの赤子を抱えた、幸薄そうな顔をした、頬の痩けた女。
固そうな地べたに寝転がる老婆……。
目に付くのは大体そんな感じ。
誰も彼もが、衣服や住居どころでは無い、飢えてるんだぜ!という様子が丸出しである。
そして、若者の姿は無い。男も、女もだ。
何となく理由は想像が付くが……。
更に見渡していると、視界の端に嫌な物が映る。
隅の方に追いやられ並べられているのは、死体なんじゃないのか?
なんか、鼠っぽいのが大量にちょろちょろそこらじゅうに這い回ってんだが……。
……酷いな。
この世界、マジで嫌なんだけど。何でこんななのよ。
いやほんと、こんなの求めてないんだって……。
オレの平和で平凡で平穏なライフは一体何処にあんだよー。
むしろゴリゴリライフ削られてんぞ!この世界は鑢かなんかなの?!
「レイ。さっきのアレ、なに?」
「ん?」
「あの門番、ボーッとしちゃってたけど?」
「え?もんばん?ナニソレオイシイノ?
オレ、そんなの知らないなー。あ、ひと狩りいこうぜのやつかなー?」
「ひと狩りいこうぜのやつってなに?」
ああ、そうだな。知るワケないよな。すまんすまん。
「まぁ、気にすんなよ!無事に門も通れたし、小銭も手に入れたしな!」
「え、うーん……。」
「で、これ、いくらあるの?」
同じ様な形をしている硬貨。
中央には箸が通りそうなくらいの穴が空いていて、大きさは500円玉よりも少し大きそうだ。
それが、三つ。ニケに見せる。
「30リアーだね。」
「で、何が買えるの?」
「少し食料とか……あと、安宿に泊まるくらいにはなるかな?」
聞いた感じ、生活費三日分では無さそうだな……。
ニケを三日間楽しむつもりの対価がそれか。
貸せというに、オレの三日間を保証するつもりは無かったのか、あの門番。
まぁ、オレもニケを差し出すつもりは毛頭無かったがな!
そもそも、ニケはオレのもんじゃねぇしな。
ニケの人生はニケの為にあるもんだ。
「で、宿なんて何処にあんの?見た感じ、ボロいテントくらいしか見えないけど。」
「この辺りは、スラムだからね。街の南側かな。そっちはここよりはマシだから。」
「へー。じゃ、案内よろしくね!ニケ先輩!」
「へっ?先輩って何言ってんの!」
「ニケって変なとこツッコむよねー。」
「えっ?アタシ、変?レイの方が変だよ!」
「ははっ。まぁそうかもなぁー。」
そんな感じで、街の南地区へと向かう事にした。
いつの間にか日も随分と落ち、月らしきものが顔を出していた。
その錆びたように赤茶けた月は、何だかこの世界を象徴しているかのような、不気味な色だった。
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