2.2話 アーシアとかいう戦場にいるらしい
前回のあらすじ:これは酷い
この地に来てから見た景色たちは、明らかにテイルヘイムじゃないよなとは思ってた。
テイルヘイムは、とにかくどこも美しかった。
だが、この地は、海も澱んでいたし、ここも荒野だ。
空気までも、何やら重い気がする。
そして、空も暗雲が目立ち、日中の筈なのに薄暗い。
「ここってさ、どこなのかな?」
「アーシアだよ。」
目の前の頼りない西洋風の甲冑を着込んだ少女は、言葉と同時に兜を取る。
兜の下に隠されていたその姿は、黒髪黒目、褐色の肌。
エキゾチックな雰囲気を持った少女だった。
髪はショートカットで、少年と間違えても仕方無い感じだ。
「アーシア……?それって、国か何か?この世界?」
「国……だよ。世界……?は、知らないけど。」
「そっか。ニケはさ、そんなちっちゃいのになんで戦ってたんだ?」
「ちっちゃいって、きみよりは大きいよ!」
「お、おお……そうだな、そうだったわ。」
オレ、10歳だったわ。
確かに、ニケより小さい。
ちゃんと計ってないから分からんけど、多分、140cmくらいだろうなぁ。
ニケは……ウィトの人型くらいだ。150cmくらいかな?
「……アタシは、戦奴隷なんだよ。」
……は?奴隷……だと?!
「性奴隷にはなりたくなかったからさ……。」
な……せ……性奴隷だと……?!!
そんなシステムのある世界観なの?ここ……。
戦国の世じゃねーか!いやまぁ、めちゃくちゃ殺し合ってたけどさ……。
なんて所に飛ばしてくれてんだよ?!あの野郎!!
オレは密かに決意した。
ルーキスナウロス、今度会ったら絶対一発殴ってやる、と。
「で、あれ、なんであんなに殺し合ってんの?」
相変わらず凄惨に人々が飛び散り、血と肉片に変わり果てていく戦場を、親指で背中越しに差してニケに問う。
「えっと……よく分かんないけど……」
戦に居た筈のニケなのに、よく分からないと言う。
それは、纏めるとこういう事だった。
ニケは、戦奴隷だ。
敗戦地の奴隷狩りに遭ったらしい。
一応は、奴隷としての使われ方は選ばせて貰えたようだ。
戦奴隷になるか、性奴隷になるか。二択だったらしい。
選ばせる。
それは、本人に選択をさせる事で、境遇を受け入れさせ、少しでも役に立たせる為なんだろう。
……社畜時代を思い出すなぁ。ブラックな心理学だぜ。
で、ニケは戦奴隷を選んだ。
戦奴隷は、戦の最前線、矢面に立ち、突撃するのが役目だ。
だから、なにと何故戦っているだとかは、関係無いのだ。
当然、作戦すら知らないのだ。
それは、死ぬ事が前提の戦奴隷に教える意味が無いからだ。
行けと命令されたら行く。
戦奴隷には、それしか無いのだ。
なんとまぁ酷い話か。極まってるな。
「まぁ、色々教えてくれてありがとうね。」
「あ、うん。」
「で、さ。街というか、人がたくさんいる所、知らない?」
「知ってる。アーサから出兵したから。」
「ほう、アーサ。じゃさ、ニケ。アーサまで案内してくんない?」
ここで会ったのも、何かの縁ってな。
今更態々死地に赴く事は無いだろ。
死にに行くようなもんだし。
いやまぁ、オレも普通に困ってるんだけどさ。
情報不足過ぎてヘルプミーなんよ。
もうさ、ノーヒントが過ぎるよね。
「えっ……でも、奴隷紋が……」
「奴隷紋?」
「これ……。」
ニケは、甲冑を取り去り、上着を脱いだ。
その胸元に、焼印の様な物が刻まれていた。
痛々しい。
「命令違反をすると、これのせいで、死んじゃうから……。ここで戦ってないと……。」
はぁ……。
出陣した以上、どちらにせよ死ぬってか。
こんな幼気な少女になにしとんねんって話だな。
もうこの世界嫌なんだけど。嫌なんだけど!
ニケは、栄養状態が悪いのだろう。
浮いた肋が目立つ。
当然、胸に行く栄養も無いのだろう、膨らみもあまり無い。
オレの女体化時より小さいな……。
それもまた痛々しい。
ふむ……。
「ちょっと失礼。」
「え……あっ……」
さっと奴隷紋をリセット。綺麗さっぱり。
まぁ、今のオレにはそれくらいならすぐ出来るのだよ!
「えぇっ?!なにしたの?消えてる……」
「って事で、案内してくれないかな?」
「あ……うん。」
呆気にとられたニケは、ぽかんとしたまま頷いた。
ま、いいから早よ服着なよ。
――
元奴隷少女と荒野を歩く。
砂埃が舞う、でこぼこだらけの少し歩き難い地面。
痩せた土を泥濘の時分にでも大軍で踏みしだいて、後に固まったんだろう。
そんな場所を、歩く事……2時間くらいかな?
オレはともかく、ニケは辛そうだ。
「ニケ、大丈夫か?おんぶするか?」
「え?アタシより小さい子におんぶしてもらうとか……。それに、甲冑重いと思うし……。」
やっぱり甲冑重たいんだ?
そりゃまぁ、ガリガリに痩せた女の子には辛かろうなぁ。
こんな頼りなげな甲冑でもさ。
ふーむ。
名前でも付けるか?
あぁ、でも……ニケには使えないのかな?
神具。どうなんだろ?
ま、いっか!
やるだけやってみよ。
ちょうど良く座るに良さそうな岩がある。
まぁ、休憩がてらね。
「ニケ。ちょっと休もうか。ほら、ちょうど岩があるしさ。」
「うん。」
ニケは、やはり疲れてるのだろう。
力無い感じで、岩に腰を下ろした。
「ニケ。甲冑と兜と靴脱いでさ、ここに置いてよ。」
「え?なんで?」
「まぁ、いいからいいから。ほら、休憩してんのにそれ着けたままだと重たいだろ?」
「え……う、うん。そ、そっか。」
ニケは訝しみながらも従ってくれた。
素直で大変よろしいでございます。
さて……。
兜と甲冑はセットでいいか。
靴は別にして、と。
倒れる程は神力使えないからな、加減して……。
靴は、タラリア。甲冑はアイギスとした。
ニケにあんまりバレないように、背を向けてコソッと名付けてたんだが、やっぱり光るので、甲冑でバレた。
「え?なんか今、凄い光らなかった?」
「……えっ?は、ハゲてないよ?」
「……何言ってるの?光ったよ。眩しかったし。」
「ほら!オレ、フサフサだから!光るわけないよ?」
「頭とは言ってないよ!ちょっと、それ……」
甲冑は、ぼんやりと光ってしまっていた。
更に何故かカッコ良くデザインも一新されてしまっていたのだ。
ハゲネタで誤魔化せる筈も無かった。
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