残された者たち
前回のあらすじ:仮面じゃねーか!
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「くっ……!ご主人様を、何処にやった!!」
アマネは、激しい疲労から片膝を付きながらも、普段からは想像も出来ない程の激情を顕にした。
凡そ大声などとは無縁だった彼女が、叫んだのだ。
その表情は、まさに鬼と呼ぶに相応しいものとなっていた。
「あはははは!あのちびっ子、中々厄介そうだったからネェ……。ちょっと旅に出てもらったヨ!
ま、生きてたらそのうち会えるかもネェー?あはははは!」
だが、不気味な雰囲気を纏う神、ルーキスナウロスには意に介する素振りもない。
「ぐっ……!こ……この……!」
アマネは、彼女の生涯で初めて、余りにも大きな怒りを、その身の内に宿した。
その如何ともし難い激情に身を震わせるばかりで、上手く言葉すら紡げない。
「あはは。キミも相当厄介だったヨ?さすがにボクも疲れちゃったから、ちょっとお休みしなきゃだヨ。
あーあ。せっかく色々計画してたのにナァ……。」
そう言って、仮面の男神は肩を竦めた。
「じゃ!そーゆー事で!あはははは!」
そして言うなりに
――ミ゙ョ゙ン!
と、不快な音を残し、黒い靄の中に消えて行った。
先程までの激しい戦闘がまるで幻だったかのように訪れた静寂。
呼吸すら忘れて固まってしまっていたアマネを、無情な現実へと引き戻したのは、ルビィだった。
「アマネー!ボスはー?」
「ルビィ様……」
「レ……レイリィ様……、どうニャったの……?」
「ウィト様……」
「アマネ殿……大事ないかえ。」
「う……フウカ様……
うっ……うあああぁぁぁぁ……!!うあああぁぁぁー!!!」
それは、アマネには受け入れ難い現実だった。
雄大に聳えるマウラ山脈に、アマネの慟哭が谺する。
それは……獣の様でもあり、赤子の様でもあった。
――
「……ふぅっ……ひっ……ひっく……うっ……」
「……落ち着いたかえ?」
堰を切った濁流のように泣き暮れるアマネを、フウカはずっと抱き締めて、その背中や頭を撫でていた。
そのふわりとした所作は気品に溢れ、慈愛に満ちている。
「……も、申し訳……ござ……ひっ……いませ……ひっ……」
初めて漏らす嗚咽にも戸惑うアマネではあるが、フウカの豊満な胸に抱かれて、その温もりと感触に、何処か安らぎのようなものも感じていた。
「詮無き事ぞえ……。」
その光景を、ルビィは不安そうにただ見守っている。
ウィトにいたっては、落ち着き無く右往左往しており、挙動不審ともいえる程だ。
「おぉーい!大丈夫ッキかぁー!!」
そこに、ハヌマが一人走ってきた。
「ど、どうしたッキ?て、敵は?倒したッキか?
ん……?レイリィさんは……どうしたッキ?」
「……うぅ……ぐすっ……ご主人様は……ご主人様はぁ……うあぁぁぁあぁぁぁ!!」
ハヌマの質問に対して、再び泣き崩れるアマネ。
ハヌマは、突然の事に、そしてそれがアマネだという事実に、ギョッとした。
「な、あ……アマネさん!?ど、どうしたッキ?!」
「こなたらは、レイ殿をお護り出来なんだぞえ……。」
フウカが、ハヌマに力無く答えた。
「な、レイリィさんが……し、死んだッキか?!」
ハヌマは、青くなった。
ハヌマにしてみれば、レイリィの持つ神具の力は恐ろしいものだった。
それに、自身を救ってくれた神能も、計り知れないものだった。
そのレイリィを殺害する存在……。
そんな者が、この村に現れたという事実に、驚愕し、震えた。
だが、ハヌマには心当たりがあった。
低地の民の村で会った、怪しい神族だ。
あの存在なら、それも有り得るかも知れない。
「……ご主人様は!……ひっ……ひっく……ぐずっ……しっ……死んでっ……などっ……!ぐずっ……おりっ……ません!」
「そ、そうッキか。な、ならどこに……」
「ルーキスナウロスに……あの、怪しげな神族に……何処かへ転移させられて……」
怪しげな神族。
ハヌマの直感は当たっていたのだ。
完全なる上位の存在。畏怖すべきもの。
そして、神出鬼没。正にそういう存在なのであろう。
このテイルヘイム中の様々な所に、前触れも無く訪れた、災い。竜族の襲来に類するものだったのだ。
「そ……そうッキか……。で、これからどうするッキ?」
「……ボスをさがすよ!」
一番に口を開いたのは、ルビィだった。
彼女は、彼女がボスと呼ぶレイリィとは、前世からの縁なのだ。
「……ふむ。然して、大馬と大猿の問題は解決しておらぬえ。」
フウカは、長らく族長として一族を率いた身である。
種の安寧は気になるところなのだ。
「レイリィ様、仇討ちはするニャって、言ってたニャ……。こうニャるって、分かってたのかニャ……。」
ウィトは、普段の調子からは想像が出来ないくらいに、ショックを受け沈んだ様子だ。
自身も戦闘経験もあまり無く、そしてまだ若い。
どうすべきかの判断など出来ないのだ。
「私は……ご主人様にお仕えし、その傍に侍る者。必ずや捜しに参ります。
ですが……。」
アマネは、未だフウカに抱かれてはいるが、漸く少し落ち着きを取り戻した。
「転移かえ。」
「はい……。」
「ふむ。どちらにせよ、アマネ殿が居らねば戻る事すら能わぬぞえ。神狐の郷に戻らば、エルヴァルドへは行けるぞえ。レイ殿を捜すとしても、神界へ赴かねばならぬであろうな。」
「創造の女神様ですね……。」
「うむ。何か掴んでおられるやも知れぬぞえ。」
「ハヌマ様。」
アマネは、何かを決意したように立ち上がった。
「なんだッキ?」
「族長になるおつもりは御座いますか。」
「なっ……」
「私共では、ご主人様のような解呪は致しかねます。
私に出来る事は、斬る事のみで御座います。
おそらく、ご主人様のお望みとは異なりましょうが……。
少しでも犠牲者を減らすには、この方法しか無いかと。」
「断ったらどうするッキ?」
「今すぐ、ご主人様を捜しに向かいます。」
ハヌマは、悩んだ。
おそらくアマネには、早急に実現出来るだろう。
だが、同族の死は、ハヌマの望む所では無いのだ。
しかし現状では、彼女達の力を借りねば、どうしようもないのが事実。
「と、とりあえず……アマネさんも、他の皆も、消耗してるだろうから、休んで欲しいッキ。その間に、答えを出すッキ。」
「畏まりました。暫し回復に努めます。」
「ああ、そうして欲しいッキ。オラの家、四人くらいなら何とかなるッキ。使ってくれたらいいッキ。
オラは、クウんとこ行ってるッキよ。」
「畏まりました。」
そうして、アマネ達は眠りについた。
その身を寄せ合いながら。
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