1.52話 山頂で、今後のプランを練り練れん
アマネの背に乗り運ばれて、斜面に沿って飛ぶ、この眼下に広がる山脈は、マウラ山脈というらしい。
北大陸と南大陸の交流を妨げる要因の一つである、という言い方もあるが、攻められる事の無い天然の防御装置と言う事も出来るだろう。
森が切れた辺りからは、急に斜度がキツくなるようで、徐々に真上に昇っていく感覚になっていく。
徒歩での登頂だったなら、クライミング的な事をする羽目になっていたかも知れないな。
ルートにも拠るかも知れないが。
うむ。アマネ様々である。
疲れてるだろうし、後で労ってやらねばな。
この斜面、遠くから見ていた感じだと、シンプルにハゲた部分といった印象だったが、山らしく普通に岩肌だ。
灰色がかった巨大な岩達。
中々に鋭く切り立っている。
墜落したら痛そうだ。
そう。痛そうだ、で済むんだよな。今は。
とはいえ、勢い付いたら、下まで行っちゃうだろうな。
それは避けたい所。だから、試さない。試さないよ?
しかしまぁ、前も後ろも凄い風景だなぁ。
お、あんな所に湖?泉?碧い部分があるな。
少し窪んだ草地に囲まれ、美しい青碧を湛えるそれは、切り立った岩肌とのアンバランスさが、かえって絶景を創り出していた。
泉だけでは無い。
振り返れば、濃緑の絨毯と、薄浅葱の海岸線、見上げれば紺碧の空。
南大陸も、中々に美しい風景だ。
だが、不思議な事に、山脈に雲は架かってはいない。
多分、上空の気温が低くないからだろうな。
今も全然寒くない。
普通に結構な高度まで来てそうなんだけどさ。
不思議な仕様である。
「あそこがオラの修行場だッキ!」
風景を楽しんでいる間に、目的地付近まで来ていたようだった。
「ウィト、ハヌマの修行場で降りてもらうように、アマネに伝えてくれ。」
「ニャ!分かったニャー。」
――
ハヌマの修行場は、山頂の一角、尾根伝いの鞍部の少し広がった平坦な場所だった。
周囲にはオブジェの様に槍状の岩が幾つもある。
良く見れば、不自然に抉れた様になった岩や、真っ二つに割れた岩も目に付く。
なるほど、修行場ね……。
もしかして、この広場も造ったのかな。
修行の一環とか言って。
何となく、ハヌマってそういう事やりそうだよな。
脳筋っぽいというか。
なんせ、蜂と素手でやり合ってたもんなぁ。
そら刺されますわ。
「アマネさん、ここに座るといいッキ!多少の力場になってるッキ!オラがいつも循環修行をしてる岩ッキ!」
「有難う御座います。」
アマネは、やはり疲れた様子だった。
元々、ただの鬼族だったアマネではあるが、修行に明け暮れた事により、神力は少し備わっていたし、使い方も解っていた。
だから、名付けで手に入れた力もいきなり使えたワケだ。
だが、そんなアマネでも、変身して空を飛ぶという合わせ技を長距離で、というのはキツいんだろうな。
車だって飛行機だって、動かすのにはエネルギーがたくさん必要だからなぁ。まぁ、そんなもんだろうな。
ハヌマが神力ポイントに案内してくれたみたいだし、とりあえず、しばらくまた安静にしといてもらおうかね。
「アマネ。ありがとうな。お疲れさん。」
「いえ……。当然の事でございます。」
「まぁ今後もあるし、しばらく休んで回復しといて。」
「……勿体ないお言葉。有難うございます。」
さて。今後のプランでも考えますかね。
と、ぶらぷら歩き出す。
ふーむ。しかしまぁここ、山頂だけあって、見晴らしは中々良い。立地の確認とかにはもってこいだな。
周りを観察しながらてくてく歩き回っていたら、ウィトがててっとやってきた。
なーんか、コミカルだよなぁ、コヤツ。
「レイリィ様ー!ウィトは頑張ったニャ!たまにはニャでニャでして欲しいニャ!約束したニャ!」
何用で来たのかと思えば、ありもしない約束とかいう寝ぼけた事を言っていた。
多分、寝てるんだろう。
盛大な寝言だな。すごいすごい。
「ニャ!?どこ行くニャ?!」
お、アレがハヌマ達の村かな?この山、割と平坦な場所もあるんだな。上から見ると、棚みたいだな。
建物の数はあんまり多そうじゃないけど、結構しっかりした感じの家が建ってるのが見える。
――ピョン!ピョン!
「ニャ!ニャ!レイリィ様ー!レイ……ニャ!」
物見櫓みたいなのもあるな。
防備にも気を使ってるのか。
基本的には平和だって話だったし、何に対しての防備だろうな。
種族間でないなら、化物や竜族とか、そんなところなんだろうか。
とはいえ、山脈を越えての敵襲がある事は想定して無さそうだ。
山側には、特に防衛施設みたいなものは無いし。
となると、過去には種族間抗争みたいな事もあったんだろうかな。
まぁ、この天然の防御施設が中々の難易度だし、空でも飛べないと易々とは越えられないだろうからな。
普通の獣族なら、攻め込むなんて論外だ。
そんな感じかもな。
――ピョン!ピョン!
「ニャ……!ニャ……!」
ふむ。
山裾からしばらくは濃緑って感じで、まぁ、大分遠そうだけど、その先は草原か。
あの草原の方に、大馬族の縄張りがあるんだっけ。
低地の大猿族とやらは、どの辺まで進軍してんだろうなぁ。
もう戦いは始まってるんだろうか……?
だとしたら、死者とかもいるかも知れないんだな。
オレは、死者は蘇生出来ないと思うし……
どうやって収拾付けたら良いんだろ……。
今までは、何とか死者が出なかったから、平和的解決が出来たと思うんだよなぁ。
――ピョン!ピョン!
「ニャ……!レイ……様……!」
うーん。
なるべく早く行って、争いを止めたくはあるが……。
とはいえ、皆がベストに近いコンディションにならないとな。
無理を押して、こっちに被害は出したくないしな。
そういえば、森に続く道は塞いであるんだっけ。
まぁ、行くとしたら、塞がってる所だけ飛んで行くのが良いか。
通れるようにしてしまうと、ハヌマ達の村が攻められるかもだしなぁ。それは良くない。
「うニャー!無視なんてヒドイニャ!こうなったら最後の手段ニャー!」
と、不穏な事を言って、ウィトが飛び付いてきた。
そして、オレにしがみついたまま光に包まれ……
「さぁ!ニャでニャでするニャ!」
全裸美少女になりやがりました。
何してんだコイツ?!
「ほらほら!今ニャらレイリィ様みたいな姿ニャ!小さくニャいニャ!ちゃんと見えるはずニャ!ニャ!」
いやマジかお前マジか!!オレが真面目に今後のプラン練ろうとしてたのに!!なんなんコレ?!ツッコミ待ちなん?!
「あー!ウィトずるいー!」
と、ルビィも気付いて走ってきた。
そして、オレは二人掛りで揉みくちゃにされたのだった。
いや、ルビィ!助けるとこ!!
ありがとうございました!
またよろしくお願いします!




