1.47話 天翔る
ご感想頂けてめちゃくちゃ嬉しかったので、ちょっと長くなりました。
――ビシャビチャ……
と、嫌な音を立てて、ゆっくりと近付く黒い何かは……
海から上がって数歩進むと……
――ビチャン
と、その場で蹲る様にして倒れ込み、その歩みを止めた。
そして、情けない感じの声を上げる。
「レイリィ様~~~。絡まったニャ~~~。失敗ニャ……。助けて欲しいニャ……。」
ウィトが海からやってきた。
なんでやねん!
コイツ、ティグリより酷でぇ。なにしてんのよ。
モゾモゾと芋虫か何かみたいになっているウィトに近付いて、その前でしゃがみ込む。
「ウィト、なにしてんの。」
「ニャ……、神能で……ニャみを……」
ニャみ?あぁ、波ね。
「ニャみを操ってニャ、海藻とか、さかニャとか、集めようと思ったニャ……。」
さかニャ……魚ね。
「で、思ったよりひどいことニャったニャ。」
ふむ……。
津波とか来なくて良かったわ。
波を操るのも、水流自体を操る訳じゃないんだからなぁ……。
無茶しやがって……。
ちゃんと適切な指導のもと、用法用量を守ってお使いくださいよ。
「そっか。まぁ、被害出なくて良かったわ。
ウィトは……今日はご飯抜きだなー。」
「ニャ!?ニャんでニャ!?ニャんでニャんニャ?!」
ニャが酷い。
めちゃくちゃ焦ってるな。
コイツも食わなくて平気な身体になったんだがな……。
「いやまぁ、危ない事したから?反省?的な?」
「ニャ!ほら!これ、レイリィ様好きニャ?!昆布とワカメニャ!とってきたニャ!」
昆布より、海苔……が……食いたい……。
が、海苔は、加工して初めて海苔だしなぁ。
今は、そんな道具もなければ、時間もない。
まぁ海藻は、出汁も取れるし、普通に美味いけどさ。
「採ってきたというか……、捕らわれてるというか……。ぐるぐる巻きだなぁ。」
「……そろそろ取って欲しいニャ~~~。」
「はっはっはっ。よしよし。」
スっと黒い塊になった元白虎ウィトを持ち上げ、てくてく歩きだす。
「ニャ?!どこいくニャ?!」
「や、みんなのとこ。ご飯の準備とかしてくれてるから。」
「そうかニャ」
「アマネー!」
「はい。」
「鍋の材料。ウィトが、ほら。ほいっ」
ほいっとウィトをアマネに向かって投げる。
ウィトが、鍋の上に差し掛かった所で、アマネが動く!
目にも留まらぬ早業で、ワカメと昆布は鍋にIN。
ウィトはクルリと着地した。
拍手!パチパチパチ!
「わー!すごいねー!」
ルビィも喜んだようだ。
ルビーレッドとオーシャンブルーのオッドアイがキラッキラである。キラッキラ。
「ニャ!ニャにするニャ!斬られたかと思ったニャ!」
「え?昆布とか、取れただろ?綺麗に。
アマネならこんなん出来ると思ったんだよなー。
素晴らしい技だった。うん。
ウィトも、やっぱちゃんと着地したしな!さすが!」
「ま、まぁニャ!ウィトだってやれば出来るニャ!ニャっふっふ。」
ウィトは得意気になった。
後ろ脚で立ち前手を腰に当て、胸を張っている。
のだが……
「ウィトや。そなた、何をしておったのかえ?」
「ニャ?!フ……フウカ様……。」
何やらフウカは御立腹の様子だった。
ビクゥッと飛び上がるウィト。
うーん。危ない事してたの、バレたのかしらねぇ……。
「神力のおかしな流れを感じたぞえ。何をしておったのかえ?」
「ニャ……ニャ……ニャ……」
先程までの得意な様子が……段々と丸く縮こまっていく。
うわぁ……美女が怒ると怖いっていうけど……確かに迫力あるわぁ……。こわぁ……。
――
あの後、ウィトは、見事に撃沈した。
まぁ、仕方ないから助け舟は出した。
ご飯もあげたよ?
ちなみに、晩御飯は海鮮鍋と、鴨の味噌漬けだ。
今日は蟹も取れて、魚も取れて、まぁ贅沢な鍋だったな。
蟹を丸ごと鍋にINされてたんだが、なんとまぁ不思議なことに、アクが全く出ないのよね。
蟹から出るエキスは、全てが芳醇な出汁。
そこに、プリップリな海魚を投入したわけですよ。
ええ、もちろん刺身でいける新鮮なやつですよ。
クツクツ優しく煮込むパターンと、サッとしゃぶしゃぶするパターンと、両方楽しんでしまいましたとさ!
この世界、川魚も濃厚な味わいなんだが……
海魚は、と言うと……
あれ?押し返された?と、一瞬思う歯応えがあるおかげで、食感を極限まで楽しめつつ、長く味わえるという贅沢仕様。
そして、これまた不思議なことに味付けしなくても、ほんのり塩味なんですわ!
かるーく垂らした醤油の香りと、蟹出汁に彩られたそ奴は……
まさに絶品!の、一語に尽きた。
海まで遠かったけど、来たかいあったよねー
って、旅行じゃないけどさ。
んで。鴨は、半分だけ蒸して仕上げた。
あと半分は、冷風を当てながら燻製中。
蒸し焼きもふんわり仕上がって最高だったなぁー。
味噌で漬けてあるから、固くなると思うだろ?
それがそんな事は断じて!全く!ないんだよなぁー。
皮と肉の間にまでしっかり味噌は染み込んでた。
それを蒸して仕上げてみたら……
もうね、肉の部分は雲だったね。ふっわふわ。
蓋を開けた瞬間の、香りの飛び散り具合もやばかったなぁー。
勝手に食欲の引き出しを全部開けちゃうからな。
そんな強引さならアタイwelcomeよー!って感じ。
味噌味の鴨脂と、雲のような肉。
旨み圧縮砲って感じさ。オレは撃ち抜かれたよ。秒でな。
そして、そんな風にやられちまったオレは今。
満天の星空の下、海の見える露天風呂を満喫中だ!
砂浜に穴開けて作ったんだぜ!くくく……。
ふぁあぁ~、なんという贅沢な時間なのだ……。
骨身に染みるぜ〜!
美味いもん食って、星の輝く空、それに照らされて煌めく水面。
そんなロケーションと天然のBGMに囲まれた露天風呂だぜ?
喜びに身体が打ち震えるってもんだろ!
天にも昇る気分とはまさにこのこと!
今ならあの星と星の間を走れそうだぜ!気分だけなら。
とはいえ、まぁ……
例の如く……オレは今、女の子なんだがな……。
よくよく考えなくても、オレ以外全員女なんだよなぁ……。
だからまぁ、風呂は女の子なのさ。
この先もきっと、ずっとそうなのさ……。
しかし、せっかく作った最高の露天風呂なんだが。
フウカもルビィもウィトも、あんまり長湯は好きじゃないみたいだから、既にいない。
だが、いつものように、アマネは隣に居るんだがな……。
ある意味、これも贅沢なんだろうか……。
「ご主人様。」
「ん?」
「明日の海越えは、私にお任せ下さいまし。」
「あぁ、うん。頼むよ。アマネが優秀で助かるよ。ありがとう。」
「……そ!そんな……!勿体のう御座います……!」
「いやいや、本当にさー。アマネが居なかったら、ここまですんなり来れてないだろうしね。
あ!すごく今更なんだけどさ。ちょっと聞いていいかな?」
「……はい?何で御座いましょう?」
「アマネって、獣族じゃないけどさ……
こうやって、オレと一緒に風呂入ってるじゃない?」
「はい。御一緒させて頂いております。」
「見られてやだなーとか、無いの?」
オレの質問に対して
「えっ……。」
と、アマネは驚いたような、悲しいような表情を一瞬みせた。
そして、
「私は……私の全てはご主人様のものですから。
隠し立てする様な事は、断じて御座いません。」
と、いつもより力強く言った。
何かよく分からん返事がきて、ちょっと困惑していたら、
「……ご迷惑……でしょうか……?」
と、伏せ目勝ちに聞かれてしまった。
何故そんなこの世の終わりみたいな顔してんのよ?!
「いやいや、迷惑なんて!無い無い!むしろオレが迷惑掛けてるかなって思ってさ?」
「其の様な事は御座いません!私は、ご主人様のお役に立つ事こそが本懐で御座います!ご主人様が迷惑などと!そんな事が有り得る筈がございません!」
……うーん。
なんだろう。上手く聞けなかったわ。
まぁ、追々だなぁ。
そもそも、常識が全然違うんだしな。
すぐに理解出来る訳がないよなぁ。
「……夜空、綺麗だなぁ。」
「はい。」
と、無理矢理話題転換して、ロケット脱兎した。
――
朝。
岬に立つ。5人の旅人だ。
といっても、あんまり旅人っぽい格好では無いのだが……。
巫女フウカ、侍アマネ、神布ルビィ、毛皮ウィト。
今は全員人型である。
一応服も着てる。着せた。
「じゃ、アマネ。よろしく。」
「かしこまりました。」
返事と共に、アマネが光を発した。
淡い光は、徐々に激しく光度を上げる。
光が一度収縮する様に集まった、次の瞬間――辺り一面に拡散して、収束した。
光が収まると、アマネは、龍に成っていた。
竜ではない。龍だ。
闇御津羽天弥媛神。
このクソ長い名前、実は日本神話に出てくる神様の名前をくっつけたりして付けた。
龍神だったり、水神だったり。
で、こうなった。
龍だから、空も飛べるはず。
まぁなんというか、素晴らしいチートでございます。
刀もそれぞれ、打刀は黒極、脇差は影喰と、名付けてある。
これまた恐ろしい能力が使えるんだが……まぁ、実験以外で使った所は見た事が無い。
素が強いからなぁ、アマネは。
あんなエグい能力、使うまでもない。
「あ、そうだ。出発前に言っておく事があった。」
忘れちゃいけない注意事項ってね。
「もし、ルーキスナウロスに出会して、戦闘になったとして、だ。
相手は、得体の知れない神族だ。めちゃくちゃ強いかも知れない。」
「神族であるなら、弱いなどという事は、有り得ぬであろうえ。」
「そう。そう思うワケよ。だから、もしオレが負けて、死んだりしたら、皆は故郷に帰るんだぞ。」
「な……!ご主人様!!私が!必ずや、お護りして見せます!」
「いやいや、一応だよ。念の為。仇討ちとか、しなくていいからって事。じゃ、行こうか!」
皆は頷いていたが、アマネは、納得いってなさそうだった。
でもまぁ、仇討ちなんて、オレは望んでないという事は伝えておきたかったんだよなぁ。
あの呪いを掛けた奴に、勝てる気はあんまりしてないし。
「おおー!すげー!飛んでるなぁー!」
まぁ辛気臭い事はそれくらいにして、暫しの空の旅を楽しみますかね!
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