1.39話 大猫の森へ
ブクマ数がまた増えておりました。
有り難い限りです!
「リオダーリ。お前、どういうつもりなんだ?何でオレ達を殺そうとした?」
「ぐっ……。うぅ……。」
「とーちゃん!とーちゃん?」
リオダーリは、未だ意識がはっきりしていないのか、子ライオンに反応も無く、オレの問い掛けにも応えない。
意識だけ置き去りな感じなのかなぁ、リセット。
一応、三分前に戻したって感じなんだけどな……。
でも、怪我人とか、もっと前に戻す事はザラだったんだが……
死にかけだったからだろうか?うーん。
と、思ったのだが、ふと、頭を押さえている事が気になった。
何だか、こんなシーン、前に見た様な……。
良く良くリオダーリを観察してみると、さっきまで着けていた冠っぽい頭飾りが無かった。
そういえば、身体しか戻してなかったか。
辺りを見渡すと、どうやら首が落ちた衝撃で外れていたようで、冠は石のステージ脇に落ちていた。
うーむ……。これ、もしかして……
冠を拾い上げてみると……非常に嫌な感じがした。
この感じ、憶えがある。
大猪族の時の首飾りの感じだ。
ほぼ確信していたが、念の為に冠に神力を通してみる。
脳髄にまで絡み付いてくるような、激しい憎悪の念が渦巻いていた。
……ナニコレめっちゃ気持ち悪い。これかぁー。
「レイ殿。どうかしたのかえ。」
「ああ、フウカ。これ、大猪族の時の首輪と同じ感じの呪いが掛かってる。」
「……なんと!そうであったかえ。」
どうやら、ルーキスナウロスの仕業らしいな。
顔、見えないかなぁ……と思ったが、やっぱり呪いが気持ち悪いので、仕方なく断念した。
前回も思ったが、これ……かなり強烈だぞ……。
もしかしたら、リセットしてるつもりでも、根深く残ってしまう部分があるのかもなぁ。
「レイリィ・セトリィアス・ミデニスティース様方……。」
「お?」
朦朧としたままだったリオダーリが、正気に戻ったようだった。
それを受け、リオダーリの方に向き直ると、奴は姿勢を正し……たかと思うと、徐ろに大きく仰け反り、そのまま仰向けに倒れ、言葉を続けた。
「誠に……誠に、申し訳無い。どうにかお許し頂けませんでしょうか……!」
……??
……あ、降参のポーズかな?あの格好。
大の字に寝てるだけにも見えなくは無いが……。
まぁ、こんな場面でそれはないよな?腹を見せるってやつなんだろう。
「んー。そうだなぁ……ルーヴもここへ呼びな。」
「は、はい……!」
――
連れてこられたルーヴは、首輪を嵌められており、鎖も付いていた。
二足歩行の獅子人が鎖を引いているので、まるで犬の散歩のようなのだが……
散歩の様相と明らかに違うのは、そこそこ傷だらけで、薄汚れているという所だろう。
そんな飼い犬は居ない……と、信じたい。
「お呼びか……。」
ルーヴはもう既に、心が折れてしまったのか、その声に覇気は無かった。
自信が溢れ過ぎて傲慢な感じだったあの時の姿が嘘のようだ。
まぁ、オレが小さくもしちゃったんだけど。
見た感じ……ここに戻ってから、大分痛め付けられたんだろうな。
「ルーヴ。リオダーリ。聞きたい事があるんだ。」
「なんだ……?」
「はい……。」
「この冠なんだが、強い呪いが掛かってる。攻撃性や凶暴性を高める感じのだな。それが、今回の一連の騒動の原因だと思う。
ルーキスナウロスがやったっぽいんだが……
んー……コレ、ぶっ壊してもいい?」
「な、呪いだと……!?くっ……!奴め……!
その冠は、族長の証だ……。壊すのか……?」
ルーヴは、呪いという言葉に、一瞬憤りを見せた。
が、壊すという事に対しては、残念そうな声でビクビクとした様子だった。
……あんなに俺様野郎だったのに。
「ははっ!うそうそ。壊れはしないと思う。
……リセット!」
呪いの冠を、只の冠にして……
「で……コレ、どっちに返せばいいんだ?」
その問いに、ルーヴとリオダーリは、一瞬顔を見合わせて、お互い俯いてしまった。
ちょっと意地が悪かったかな?
まぁ、これくらいはいいだろ。こちとら殺されかけたんだしな、二回も。
「まぁ、何でもいいけど、平和にいこうぜ?」
「ああ……。」
「はい……。」
――
獅子人達の宴は、お通夜みたいになってしまったので、不戦だけ誓わせて早々に出発した。
宴の準備をし直すのを待ってるのも退屈だったし、族長がどうのとか、そんな話はどうでもいいしな。平和であれば。
それにまぁ、あんまり大人数で騒ぐのは……好きじゃないんだよな。
ウィトとティグリの目的地である大猫の森は、草原から一時間程度だという話だったので、サクッと送って行く事にしたのだ。
ちなみに、ティグリは出発前に、元の状態に戻しておいた。
敵対の意思は無さそうだし、戻せば自力で走れるしな。
ティグリの元の姿は、中々立派な虎人だった。
「いやー、助かったニャ!」
ティグリは、ウィトを肩に担いで走りながら、上機嫌だ。
「てか、元の姿に戻したんだし、獅子達はあんなだし、オレ達が送って行く必要無くなったんじゃないのか?」
「ニャに言ってるニャ!助けてもらったお礼くらいするに決まってるニャ!」
「そうニャー。ウィトもそう思うニャー。」
という事らしい。
お礼とか、別に要らないんだけどなぁ。
程なくして、竹林混じりの森が見えた。
「着いたニャー!帰ってきたニャー!」
ウィトとティグリは、森の前でピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。
多分、これ、微笑ましい光景なんだろうけどさ……。
ティグリは、もう普通にデカいから……イカつい虎人だから……あんまり可愛くないんだ……。
なんというか、ゲンナリした。
もう帰っていいかな……?
「さぁさぁ、レイリィのダンニャ!こっちニャ!」
ダンニャて……。
オレまだ10歳なのに。見た目は、だけどさ!
あと、ダンナって言えないなら無理するんじゃないよ!
竹林混じりの森は、かなり密度が濃く、お世辞にも歩きやすくはなかった。
こうも密だと、枯れ木や倒木が目立ちそうなものだが、どういうわけか、それも見当たらない。
最早、緑と茶色の壁のように感じた。
「ここせまいー!」
ルビィは狼姿だとかなり大きいので、樹や竹に阻まれてしまう。仕方無く、人型になった。
そのままティグリに着いて行く。
しばらく木々の隙間を縫い、竹を掻き分けながら進むと、急に視界が開けた。
「ここニャ!」
円状の、広場といえる程の空間。
その広場からは、いくつか通路らしきものが延びている。
その有り様は、垣根で造った迷路のようだ。
広場の上空を見ると、樹々の枝が折り重なり、ドーム状になっていて、一部分しか空は見えなかった。
トト〇に出てきそうな光景だな。
実物を目にすると、なんというか、圧巻だ。
「こっちニャ!」
ティグリは、その通路の一つへと進んでいく。
跡を追うと、石組と土で構成されたらしきドーム状の建造物があった。
「ちょっと待ってて欲しいニャ!ウィト様が帰ったと報告してくるニャ!」
そういうと、ティグリとウィトは、その苔やら草やらで緑に覆われた建物に入って行った。
やはり、ここも入口に扉は無いようだった。
まぁ、そのほうが見た目の雰囲気は出てる気はする。
ま、それはそれとして。
ほんとにお礼とかいらないんだけどなぁ。
ありがとうございました。
またよろしくお願いします。




