1.35話 秒速イリュージョン
ほぼ料理回です。R指定では無いハズです!
「んんー!美味いニャー!」
「これは……大変美味ぞえ……!」
「この様な料理が……」
「ハフハフ……ハムハム……」
いやぁ、我ながら、本日の出来は素晴らしい。皆も夢中になってるな。善き哉善き哉。
本日のメイン料理――鰻の蒲焼き、山葵添え。
醤油と果汁を混ぜて作ったタレで仕上げた逸品。
少し特殊な果汁を加えた事で、タレには爽やかな香りと、少しトロミがついた。そのお陰で、タレの付きも良く、醤油の香りもより洗練された様に思う。
ホカホカと湯気を点てる鰻を、一口齧る。
鼻腔を突き抜け、脳髄に刺さる、芳ばしい醤油の香り。そこには、山葵と果実の爽やかさが加わり、パリッと仕上げた皮の間から濁流の様に流れ出す、凄まじく濃厚な脂を、その甘みと旨味を強調する様にして、それでいて優しく包み込む。
ふわりと仕上げた身は、適度な弾力を伝えつつも、数回の咀嚼で、まるで雪解けの様に、儚く消えていく……。
嗚呼……全身が痺れんばかりの感動にうち震える……!
ううむ……天然鰻最高か!止まらん……!
鰻は、一人につき、まるっと一尾あった筈なのに、最初から無かったかのように、秒で消えていた……。
なんて事だ!!?大成功だが、失敗だ!美味すぎた!
これは、米と合わせたら、殺人級だな。ある意味無くて良かったかも知れん……。
ま、まぁ……。そんなに焦らなくても……。
鰻は一瞬だったけど、鮎はたくさんある……し……
「……あれぇ??」
余りの衝撃に、我を忘れていたようだ。
気付いた時には、塩鮎と味噌鮎が、一匹ずつしかいなかった……。何処へ消えた?!あんなにあったのに!!
「これも美味かったニャー!」
お、おまえか……!この一瞬でか?!イリュージョンかよ?!!ダイ〇ンも吃驚だわ!!
ま、まぁ、いいさ。最低一人につき、一品ずつ行き渡ってはいるだろう。オレにもゼロじゃないしな……。うん。良しとしよう。まだ焦る時間じゃあない。さぁいこーか。
気を取り直し、鱒の刺身に手を伸ばす。
……甘い。非常に甘みがある!サーモンなんかより遥かに濃い味わい。程良い脂感、ぷりっぷりの歯応えに、醤油の香りと塩味、山葵の爽やかさと刺激で、KO寸前……パンチドランカーになりそうだ……!
だが――そうなる事は……無かった。
「これおいしーねー!」
ほぼ無言で貪り食っていたルビィは、刺身が特に気に入った様だった……。
これまた、気付いた時には……もう無かった。炙りに至っては、一切れも食えなかった……。あ、フウカが炙りを抱え込んでやがる……。くっ……!皆食うの早過ぎねぇ?!
ま、まぁ、いいさ。美味しかろう。美味しかろうとも。
ふっ。オレには味噌汁もあるのさ。これは一人一杯だからな。焦る事は無いんだぜ。ホントだぜ?
木を削っただけのお椀を手に持ち、ズズっと吸い込む。
あぁ……ホッとする味だぁ……。
しっかりとした森昆布とキノコの出汁に、魚特有の脂が加わり、少し尖った味噌の味にも、しっかりと調和している。これに鰹出汁が加われば、寿司屋の赤出汁って感じだなぁー。
……寿司屋の赤出汁だと、キノコは無いか。海老とかだな。
ん?
「そういえばさ、この川下って行くと、海に出るんだっけ?」
ラスイチになってた鮎の塩焼きに手を伸ばしながら、質問する。
うむ。鮎もサッパリしてて美味い!
サッパリしつつも、しっとりとした口当たりで、更に口溶けまでいいときた。昔食った鮎と、全然違うなぁ……。
「そうだニャー。海に行くのかニャー?」
「いや、大猫族の拠点に行くつもりだが。」
鮎の美味さに驚愕しつつも、ティグリとの会話は続く。
「オイラ達の住処は森の中ニャー。海からニャと、ちょっと遠いニャー。」
「ルーヴ達の所は?」
「アイツ嫌いニャー。」
「族長なんだろ?」
「そうニャけど、アイツはヒドイ奴ニャ。」
なんでも、神狐の郷への襲撃に関しては、森の一派は渋々従っていたらしい。それというのも、前族長の娘が人質になっていたからだという。前族長は、森の一派で、虎人らしい。
まぁ、本当の事なんだろう。確かに酷い話だ。
お、鮎の味噌焼きも美味いなー。柑橘系の果汁を垂らすと、更にえらいこっちゃわ。濃厚な味噌に爽やかな柑橘は合うからなぁー。またこれ、身の味も全然負けてなくて、調和が取れてるわ。シンフォニー。
「ルーヴ達、そろそろ着いてるとは思うけどニャ。
子供になってるから、失脚してるかも知れんけどニャ。でも多分、まだ人質解放されて無いニャー。平原のヤツラがそんな簡単に手放すとは思えんからニャー。」
「ふーん。同じ大猫族でも、派閥というか、覇権争いがあるのな。」
「そうニャー。めんどくさいんニャー。
あ、そうニャ!アンタ、強い神族ニャろ?ニャンとかして欲しいニャ!」
「えぇー……。オレ別に強くは無いぞー。」
「まぁまぁ、そんニャこと言わニャいでさー。
これ上げるからー。いいニャろー。」
と、ティグリはどこに隠していたのか、鱒の炙りを差し出してきた。
それ、オレが作ったヤツやないかーい!
「んー。まぁ、南半球行きたいからさ、どっちみち通るんだろうけどさー。皆はどう思う?」
「ご主人様の御随意に。」
「レイ殿にお任せするぞえ。」
「なんでもいいよー。」
……どっちでもいいらしかった。
ちなみに炙りはめっちゃ美味かった。
――
「おおー!海だぁー!」
「海……青いですね。」
「ほう……これが海かえ。」
「あおいねー!」
「……そんな珍しいかニャ?」
森を更に二時間程走った先に、海が広がっていた。
その海は、昔見た沖縄の海の色の様に、透き通る碧だった。
砂浜は、あまり広くはないが、降り積もった雪のようだ。
海岸線は、南西に延びている。どうにも進行方向とは違う為、少し残念ではあるが、この光景とはお別れだ。
これからは東に向かわなければいけない。
テイルヘイムは、総じて風景が美しい。空も、樹々も、山も、川も、そして、海も。
超自然的で、幻想的なのだ。この星を創った――いや、環境を整えた神族は、どういう気持ちだったんだろうな。
少なくとも、この星の住人を憎からず思ってたんじゃないだろうか。
海風が、髪を撫でていく。
滅ぼされた獣神の末裔、獣族かぁ……。
ルーキスナウロスに狙われたのも、もしかしたら、そこら辺りに理由があるのかもな……。
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