1.34話 迷子の迷子の子猫ちゃん
野外料理回です。R指定では無いはず!
クコの森は広大で、その中にはいくつか川が流れている。
郷の西を流れる、鱒っぽい美味い魚がいた川や、館裏にある滝の川など、大小合わせて10以上あるらしく。お陰で森は潤い、実り豊かな……
まぁ、恵まれた環境なのだ。
何せ、森の北部には自生した蕎麦があるらしいからなぁ……。いつか蕎麦打ちしたいところ。十割蕎麦は打った事無いからな、難しいだろうけどさ。
まぁ、それはいいとして。
オレ達は、その中の一つ、南に向かって流れる川に沿って南下していた。残念ながら、誰も道を知らないので、とりあえず確実に南に向かえる方法を選択したのだ。
それに、休憩するにも、開けた場所の殆ど無い森の中より、時折見当たる河原がいいというのもある。
川には魚もいることだしな。森には偶に虫が出るし。虫は好きじゃないんだ、オレ。ここの虫、やたらデカいし。それに、あんまり食欲の湧かない見た目だしなぁ。
そんなこんなで、少し広めの河原を発見した。
そこで休憩である。
「よーし。魚、とるかぁー!」
ここは随分と下流だからか、川幅がかなりある。対岸まで20mくらいありそうだ。水深もそれに伴い深いのだろう。
ぱっと見たところで、魚影は目視出来ない。
「ルビィもとる?」
「いや、いい方法があるんだ。
ルビィはフウカと一緒にキノコとか採ってきてくれ。」
「はーい。」
「アマネヒメちゃーん。網出して?」
「こちらに。」
アマネは、いつも侍っぽい格好をしてる。だから侍だと思ってたんだが……。実は忍者かも知れない。暗器や、投網や、ロープなんかを、いつも携帯していたのだ。
何処にしまってあるのか、甚だ謎なのだが……
体力修行の時の的とかも、それで作ってたしなぁ。
まぁ侍だろうが、忍者だろうが、どっちでもいいんだけど……どっちもカッコイイしな!でも、忍者だったとしても、覆面はしないでおいて欲しいな。せっかくの可愛い顔が、見えなくなるからな。まぁ、似合いそうだけどさ。
「じゃあ、構えといてね。オレは、これで……」
淡墨を抜き、少しだけ神力を込めて、川に向かって振り下ろした。
――ピシャーン!と、小さく雷鳴と閃光が走る。
しばらくすると、魚がたくさん浮いてきた。
計 画 通 り!(ニヤリ)
思った通り、凄い漁法だぜ。流石、禁止されてるだけあるなぁ。神力込め過ぎたら、悲惨な事になりそうだが……。
「じゃあ、アマネ!回収よろしく!」
「かしこまりました。」
この場はアマネに任せて、オレは火の準備をする事にした。
といっても、アマネは、慣れた仕草で投網を繰り返し、瞬く間に魚を集めきってしまったのだが。
――
パチパチと、音を立てる薪。火の準備はOKだ。
着火アプリより、煉華の方が火力的に直ぐ火がついて便利だぜ。上手く熱量を調整したら、炭も簡単に作れるしなぁ……。くくく……。
今回は、薪の両サイドに石組みをして、半竈にしてある。直火でない熱も、欲しい品があるからな。
皿もまな板も、アマネに木で作ってもらった。石鍋もある。
そして 今日は、ちゃんと刃物もあるので、臟の処理も骨の処理も、バッチリさ。
捕れた魚は、中々に大量で、35匹いた。
例の鱒っぽい魚と、鮎っぽい魚、それに何と……鰻っぽいのがいた。沢山捕れたし、余ったら、雪月花で冷凍処理でもいいな……とは思うが、恐らく余らないだろう。
鰻……か。
恐らくは、日本人にとって、至高の川魚。
そのグロテスクな見た目からは想像もつかない豊かな味わい、そして栄養価は、正に川魚の王だ。そんな魚が人数分手に入ったとは、過分に僥倖だと言えよう。
これは、全身全霊を込めて、誠心誠意努めなければ……!
アマネに作ってもらったまな板に、電気ショックで大人しくなっている鰻を乗せ、寸鉄の様な暗器で目打ちをする。鰻といえば、背割りだ。
鰻は5匹。その5匹全てを丁寧に処理していく。
処理の終わった鰻は、いい感じの大きさに小分けして、アマネの投擲用の針っぽい棒手裏剣を串代わりに、等間隔に通す。
通し終わったものは、タレに漬け込んで置く。
後で醤油ダレで蒲焼きだなぁー。ぐふふ。
鮎は、塩焼きと味噌焼きにしよう。
鱒は、刺身と、味噌汁だな。酢と米が有れば、寿司なんだが、生憎持っていないしな。それはまたいずれだなぁー。
鮎と鱒の処理を終えて、塩を振った鮎と、味噌を塗った鮎を火の周りに挿し並べていく。味噌はホイル焼きが出来れば良かったけど、まぁ、無いからな。アルミホイル。
鱒は、刺身にした分を、木で作ってもらった皿に盛り付ける。
少しだけ皮付きの切身を残してあるが、これは炙りにするのだ。
勿論、山葵は発見済だ。石を割ったもので、すりおろしておく。ふわりと辺りに爽やかな香りが広がっていく。素晴らしい。
今日は山椒が無いから、刺身にも鰻にも山葵を添える事になるな。
お次は、森でフウカが採ってきたキノコ類と、森昆布を石鍋に入れ、水から火にかける。こうすると、ここのキノコ類は、乾燥してなくても、中々いい出汁が出てくれるのだ。そのまま具になるし、最高だ。
特にこの、舞茸っぽいやつ……香りも凄くいいし、食感もコリコリで、味まで素晴らしく、お気に入りなのだ。
それに並行して、蒲焼きにかかる。
醤油と甘い果汁を混ぜて味を整えたタレを、ペタペタ塗りながら、じっくりと焼く。
醤油の焦げた匂いが鼻腔を刺激しよる。反射的に口腔内には唾液が出番待ちをしだしている。
あぁー!いーい匂いだぜー!たまらん!
おっと。鍋がいい感じに煮えてきてるな。
そろそろ鍋に鱒のブツ切り投入!少し色が変わった所で、味噌を溶かして……
くー!たまらんぜ!
「なんだかいい匂いがするニャー……」
「ふふふー。そうだろー、そうだろー?美味そうだろー?
って誰だよ!!?」
作業に夢中になっていたら、いつの間にか隣に、涎を垂らした子虎が……居た。
えぇー……
「ティグリだニャー。」
ニャんだと?あ、名前か。誰だよって言ったから、素直に答えてくれたのね。
「大猫族ですね。先週まで郷に居た者かと。」
「キノコを採取しておったらの、見付けたぞえ。
道に迷ったと言うのでな、連れてきたぞえ。」
「ルビィがみつけたー!」
「え。一週間ここの辺りに居たってか?」
「そうだニャー」
「仲間は?」
「はぐれたニャー。お腹空いたニャー。」
あらぁ。迷子ですかい。ウチの犬のおまわりさん……いや、狼さんと狐さんが見付けたのね。
「ティグリ?だっけ?」
なんというか、一端の責任は感じる。確かに、攻めてきたのはコイツらだけど、子供に戻したのはオレだしなぁ。
コイツも大人だったら、迷子になってないかも知れないしな。
「まぁ、もう少しで出来るから、食う?」
「いいのかニャー?出来るの待つニャー」
「おう。期待していいぞ!」
色々と足りない物がある野外料理ではあるが、景色もスパイスになるからな!
しっかり味わってくれたまえ!
ありがとうございました。
またよろしくお願いします。




