1.29話 時の神
ご感想頂ければ有り難いです。
「レイリィ・セトリィアス・ミデニスティースよ。」
360°を全方向に回転させられているような、奇妙な感覚に襲われる。
どちらが上で、どちらが下なのか。
高波で沈んだサーファーの様に、まるで感覚が掴めない。
浮遊感といえば、聞こえはいいが、そんなに気持ちのいいものではない。
寧ろ、自己の位置感覚が分からない不安感が強い。
「レイリィ・セトリィアス・ミデニスティースよ。」
更に……目は、開けている……はず。はずなんだが、真っ暗闇だ。
一筋の光すらなく、何処を見渡しても、何も映らない。
……何処なんだ、ここは。
そういえば、一度死んだ時は、白い空間に居た。
だが、平衡感覚は、あった。あれは、ソールフレイヤの"別荘"だったからか?
……まさか。
オレ……死んだのか?
「レイリィ・セトリィアス・ミデニスティース!」
「……え? な、なに……?」
突如として、ヒステリックな声が、耳に届く。
が、何処から聴こえてきたのか……分からない。
「はぁー。もぉー。アンタさー。
せっかく神格高目系で決めようと思ってたのにさー。もー! 台無しじゃない。」
何処からか響いてくる苛立ち混じりの声は、少々落胆も含んでいる。
……神格高目系って何だよ。意識高い系みたいに言うなよ。
「え、なんすか?」
「ちょっと、どっち向いてんのよ。」
「いや、どっちって言われても。どっち向いてんだか、オレも分かってなくて……。」
「まったく。しょうがないわねぇ。」
――パチン
と、指を鳴らした様な音が、辺りに響き渡る。
同時に、世界に色が着いた。
どうやらオレは、その世界の中心――球体の内側に居たようだった。
しかも、何でだか全くもって分からないが、浮いた状態で。
その世界は、球体の表面に世界が拡がっている地球とは真逆――球体の内側に、樹々や花々が拡がっていた。
今居る位置からちょうど見下ろした辺りで、全ての植物が枯れ果てていくのが見える。
だが、その少し先から、新たな植物が芽吹いてる。
それは、時計の針が進むが如くに、成長し、真上辺りでは花をつけ、やがて散り、また真下で枯れ果てる。
目まぐるしく移り変わる風景。
この球体は、おそらく物凄い速度で回転しているのだろう。
「で、レイリィ。アンタさ……」
「はい?」
風景を見入っていたら、痺れを切らした様に話し掛けられる。
少し離れた所に居た、今のオレと同じくして、球体の中心に浮く……女神? なんだろうな、多分。
ソールフレイヤの様な、ふわっとした白い布を纏う、亜麻色の髪の乙女。……髪色、今のオレと被ってるぞ。
とはいえ、被ってるのは色だけで、この女神はストレートで、オレはゆるふわパーマだけど。
瞳の色も、オレより少し薄い感じのヘーゼルアイだ。
共通点もあるし、親近感を覚える所なんだろうけど、如何せん。見た感じ、18、9くらいの美女ではあるが、我儘そうな顔付きで、あんまり好みじゃない。
で、その我儘そうな美女は、訳の分からない事を言い出した。
「ん、やっぱやめ。まずはクイズ! アタシは何の神でしょう! 正解者にはー? 豪華景品をプレゼントー!」
「……はぁ?」
「なんなのよ。その顔。いいから答えなさいよ。」
「えぇ……」
うーむ。
ここが何処で、何でオレがここに居るのかとか、聞きたかったんだがなぁ……。なにゆえクイズ出されてんだか……。暇なのか? この女神。
まぁ……考えるか。
えーっと……グエンの世界は、火が多かったよな。
ここは、なんというか……生死を繰り返してる感じだ。
冥界……なのか?
それにしては、あんまり広くないし……
てか、端から端まで見える広さって、だいぶ狭いよな。
そんな狭い空間に、死者を収容し切れるだろうか……?
魂だけだからいけるって事なのか?
いや……そもそも、死者らしき者が見当たらないな。
死者と言えるようなものは……植物が、ひたすら生死を繰り返してるだけだ。
ん?
ここが冥界なら、"生"はおかしいんじゃないか?
うーむ。
生死を繰り返す……繰り返す……ねぇ……?
回る……巡る……季節!
……時間! か!
「時間?」
「お、やるじゃない。正解よ!
アタシは、創世十二神、序列三位! 時の女神、アイカフィアーよ!」
目の前の我儘そうな女神様は、ふふん! といった感じで、腕を組んで胸を反らした。
……んー。Cか、Dくらいだな。
「で、ここは何なんすかね? オレ、何でここに居るんです?」
「ん? あぁ。知りたい?」
「そりゃまぁ。」
「アンタさ、大猫族の長にキレて、神能使って、神力切れたワケ。」
「あー、はい。」
「で、意識だけアタシがここに呼んだのよ。」
「え?」
「ここは、アタシの精神世界って感じかなー。」
「はぁ。」
「何よー。気の無い返事ねー。わざわざ教えてあげてるのに。」
「で、オレ、何で呼ばれたんです?」
「あー、それよ! それ!
アンタさ、ソールフレイヤ姉さんの子なんだろうけど、アタシの許可無く時間に干渉し過ぎよ? 帳尻合わせするの、大変なんだからね!」
「え、リセット、ダメなんすか?」
「ダメってワケじゃないけど……今回は規模が大き過ぎよ! もっと遠慮しなさいよ!」
「そうなんだ……。それは、何かすいません。」
「まぁ、いいわ。アンタ、アタシの弟みたいなモンだし。」
「え? アイカフィアーさん、ソールフレイヤ様の子なんすか?」
「え? 違うわよ? どっちかって言うと、妹ね。」
「じゃあ、叔母さんなんじゃ……」
「はぁあぁぁぁ?! おーばーさーんー?!!」
ゴゴゴゴゴ……という効果音が背後で鳴りそうな表情をするアイカフィアー。それはもう、夜叉か羅刹か……。
神様も、そんなの気にするのかよ!
「あ、いや、何でも無いッス! アイカ姉さん!」
「……。いいわね……? それ。」
先程までの、目線で人が殺せそうな表情は、一瞬で和らぎ……心做しか頬を赤らめ、恍している。
「よし! アンタは今後、アタシの事を、そう呼ぶように!」
「分かったよ! アイカ姉さん!」
何やら気に入った様子だったので、子供っぽい感じで返事をすると……
「んんー……!」
アイカフィアーは、身悶えていた。
チョロい系女神だな。
「……あ! 豪華景品、あげなきゃね!
とはいえ、ここは精神世界だし、アンタは意識だけだし、物質はあげられないから……
そうねー。今後、ヤバい時は、サポートしてあげるわね!
あと、再逆行も使えるようにしてあげる!
その内、エルヴァルドに戻ってきたら、会いに来なさいよね!」
「うん。ありがとう! オレ、アイカ姉さんに会いに行くよ!」
……ヤバい。言ってて、ちょっと吐きそうだ。
とはいえ、喜ばれるのはいい事だからな。何とか乗り切ろう。
まぁ、エルヴァルドに戻ったら、会いにも行ってみるか。多分、悪いヤツじゃないだろうし。
「あ、でも、この世界の事は、ちゃんと憶えてないかもね。多分、記憶には残らないから。」
「え?」
「でも、意識のどこかには残るから! ちゃんと来なさいよ!」」」
アイカフィアーの声が、エコーの様に鳴り響いた……
……
…………
………………
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