1.27話 スローな暮らしIN神狐の郷④
多分、R15だと思います。お風呂回です。
本日の夕食には、とんでもないご馳走が有った。
味噌だ。
そう。あの……夢にまで見た、味噌だ。
その味噌が、香りの良い葉の上に、ちょこんと乗せられている……。
実は、火神の国に、味噌が有ったのだ。あの洞窟の何処かに、発酵室なんてのがあって、色々作っているらしい。考えてみたら、あの国の住人、酒呑んでたしな!そらそうか!
てか、神の地には、地球にある様な食材や調味料は、大体あるらしい。基本的には、他種族に与える為に作ったものという事だが、神々も、その中で気に入った物があると、食したりもする様だ。
この食卓に置かれてる豆味噌は、火神の酒のツマミらしい。お師匠さんが、シレッとお土産に貰ってきていたのだ。GJ過ぎる。天使か。
「お師匠さん……。」
「師匠は、止めて下さいまし。」
「抱きしめても、いいですか……。」
「えっ……、な、何故でしょう?ご……御所望でしたら、か、構いませんが……、私の様な者など、恐れ多い……」
珍しく慌てた様子のお師匠さんの言葉を遮って、ギュッと抱き寄せた。サイズ感は、オレと変わらない。そんな小さなお師匠さんは、折れそうな程細く、そして柔らかかった。
「ありがとう……!味噌、ずっと食べたかったんだ!」
「え……、あ……」
「あぁー!ずるいー!ルビィもー!ルビィもしてよー!」
何やらルビィが騒がしかったが、それは後でフォローすればいいとして。今は、お師匠さんに感謝の意を伝えつつ、神の温もりを伝えるのだ!
いつも無表情なこの鬼娘も、心做しか紅潮している様な気がする。イイネ!
それと、この鬼娘、薄らとラベンダーみたいな匂いがする。何でか知らんが、落ち着く匂いだな。
ラベンダーの香りは、安眠効果があるって聞いた事あるな、前世で。
忌み嫌われるどころか、安らぎを与えれるんじゃない?これなら。
なんて考えてたら、いよいよルビィが割って入ってきて、強引に頭を撫でさせられた。
まぁ、味噌に舌鼓を打ちますかね!
――
夕食の後は、腹ごなしに軽く散歩をする。
まぁ郷の敷地内の短い道中なんだがな。
この後のお楽しみタイムまでの、僅かの一人時間を満喫だ。
うーん。今日も、夜空が綺麗だわぁ。
満天の星空の中に、巨大な発光物がたくさんある。
というのも、この世界――というか、この星は、母星の中に小星があって、光の柱で繋がっている。何回聞いても不思議な構造だけど、そうなってるらしいから仕方ない。
夜になると、光の柱が遠くで淡く光ってて、テイルヘルムより上空にある小星の柱側約半分が、ぼんやりと光る。
それはまるで、巨大な月が四つもあるかのようだ。
一際巨大な赤い星は、火神の星らしい。
ちなみに、月――に該当する衛星は、一応ちゃんとある。太陽に相当する恒星も、ある。ただ、まだ経験してないけど、上空の小星達との兼ね合いで、月食や日食はわりと起こるらしい。
それは、下の階層になればなるほど、増えるとの事。まぁ、そらそうかって感じだけど。
小星は、歯車の様に柱の周囲を回っているらしいから。そのせいで、白夜ならぬ、碧夜なんてのが起こる地域があるらしい。光の柱に接触している地点が、日没後も仄かに明るいという。地球でいう所の、赤道ライン上のみらしいが……太陽光では無い、淡い碧光に包まれる夜は、さぞかしムーディなんだろうな。
いつかはルビィやお師匠さんと、見に行ってみたいもんだな。
そんな話とかも、火神に色々教えて貰ったのだ。
とはいえ、まだまだ分からない事だらけだ。いつか、知識の神とやらに会いに行って、色々教えて貰おうかなーと、思ってたりする。
でも、今はただ、この不思議で美しい夜空を楽しむのだ。
――
散歩の後は、一日の締め括り。
そう、お楽しみタイム。
風呂だ。
しかも、露天風呂なんだぜ。
修行生活に入るにあたり、急ピッチで作って貰ったのだ。勿論、オレも手伝った。当然だ。
出来上がったのは、岩と、ヒノキっぽい匂いがする木で出来た、露天風呂と、洗い場だ。
控え目に言って、最高の出来だ。
もう何か、ここでゆるーく暮らすのもアリかなって思うくらい、最高の出来だ。
まぁ他世界への旅なんて、いつだっていいんだしなぁ。
そんな露天風呂。
お湯の準備は、オレの仕事だ。
とはいえ、神具でちょちょいなんだが。
それもまぁ当然なのだ。ルビィやフウカなんかはあんまり好きじゃないみたいだからな。使用率が低いのだ。
オレにしてみたら超絶楽しみなお風呂タイムではあるが、少しだけ残念な点もある。
それは、シャンプーやボディソープが無い事だ。
代わりに、いい匂いがする花や薬草をすり潰した物を使って洗うのだ。泡立たないから、変な感じなのだ。タオル的な物も、この郷には無いので、手洗いである。
とはいえ、汚れ自体はリセット出来るので、オレの場合は、洗うが主眼では無く、浸かるが目当て……だったのだ。
広くて、良い香りが漂う、温かい露天風呂に、毎日入れるのだ。なんと素晴らしい事か!生きてて良かった!いや、死んだんだけど。生き返って良かった、とでも言うべきか?まぁ、その辺はどうでもいいや。とにかく素晴らしいのだ。
さてさて。
お湯の準備が終わったら、もう一つ大事な準備がある。
最早オレにとっては、作法というか、マナーになっている。
オレは、風呂に入る時は、女になる。
そう、性別リセット……女体化だ。
何故かって?それは……
「ご主人様。御身体、洗わせて頂きますね。」
という事だ。
断じて自分の女体に興奮しているからでは無い!
歳の割に発育が良い身体だったけど、所詮は自分の身体なのだ。不思議な感覚ではあるが、幸か不幸か、視覚的に興奮を覚える事は無いのだ。
なんでも、お師匠さんは、刀術の先生だけでなく、オレの身の回りの世話もするように。と、グエンに申し付けられたとかで、そんな事までしてくれるのだ。
しかしだ。
いくら今オレが子供ボディとはいえ、だ。
こんなシチュエーションが毎日だと、いつレイリィJrがレイリィアダルティースに覚醒するか、気が気じゃない。
あまりにも危険だ。
そんな理由で、お風呂に入る時は、女の子なのだ。
ちなみに、風呂初回は男の身体だった。
何故かお師匠さんが付いて来たなー……と思ったら、彼女は、当然のように洗おうとしてきた。
オレは、やんわりと断ったんだが……
「やはり……私の様な賎しい者が、高貴なる神族であるご主人様の……その御身体に触れるなど、許される事では……ありませんね……」
と、死んだ魚の目をしながら呟いていたので、断わる事が出来なかった。
あんなに凄い刀技を持ってるのに、自己肯定感低過ぎやしませんかね。
そうしてその日、オールハンドで身体の隅々まで綺麗に洗われてしまったのだ。
オレは、何とか耐える事が出来た。正直、ギリギリの攻防だったと思う。
見た目が好みの範疇である美少女が、全裸で御奉仕。
カップはB。破壊力はS。効果は抜群だ。
オレは、昔の権力者とかじゃないんだ!そんなシチュエーションに対する防御力が低いのは、当然なのだ……。
……精神修行の一環なのかも。もしかしたら。
お師匠さんは、一仕事終えると、心做しか満足そうだった。達成感というやつかも知れない。
そういう気持ちを少しづつでも味わっていけば、自己肯定感も上がるかも知れないな、と思ったのだ。
そうして、その次の日から、オレは女の子になったのだ。(お風呂だけ。)
「お待たせいたしました、ご主人様。」
「あ、うん。」
ま、まぁ、待ってないよとは言いづら……
ってか、気配も無く背後に立ってるんだもんなぁ。オレじゃなかったら悲鳴上げてるぞ。
「やー。いい月だねー。」
「そうですね。」
「あ、そうそう。今日さー」
お師匠さんに、蟷螂やっつけた話をしてみたけど、やっぱり反応薄かったなぁー。
先は長そうだね。
ありがとうございました。
またよろしくお願いします。