1.24話 スローな暮らしIN神狐の郷
修行パート開始です。一応ですが。
「ボスー!おきてー!」
今日もルビィが、起こしに来る。
時刻は、五時。早朝だ。
与えられた部屋に、時計は無いのだが、神スマホには付いている。
ルビィは時計などに頼らずとも、毎朝決まってこの時間に起こしに来るのだ。体内時計凄いな。
ただ、起こしてくれるのは有難いんだが、毎朝毎朝顔中舐め回すのは止めて欲しいかな。
……どうにも犬の時のクセが抜けないらしい。
まぁ、前世の記憶があると、そんなもんかも知れないが。
オレもそんな事ばっかだしなー。
そうそう。
起こしに来る――といっても、実は同じ部屋だったりする。寝床に突撃してくるだけだ。
オレとルビィ、お師匠さんは、同じ部屋なのだ。
寝床は別なんだがな。
とはいえ、ルビィはこっそりオレの寝床で一緒に寝てる時もあるっぽいが。
どうせなら、狼のモフり布団してくれたら良いのに。寝る時は決まって人型なんだよな。
というより、なるべく人型でいる事も、修行の一環らしい。
何故一緒の部屋なのか、だが。
部屋が余ってない、というわけでもなく、主従関係だと"そういうもの"らしい。
いつからそんな関係になってたのかは知らないが……。
お師匠さんもお師匠さんで、朝は早く、オレがルビィに起こされる前には、起きている。
そして、刀の手入れをしているのだ。
彼女の刀は、その昔――火神グエンさんから下賜された物だそうで、黒い刀身の打刀と、これまた黒い刀身の脇差の二振りだ。
多分、同じ刀匠なのだろう。
双方共に、湾れ互の目箱乱刃で、複雑な模様は完璧なまでに表裏対象。肉は薄いが、鎬は高く、反りも浅い。
妖しい魅力に溢れる刀だが、銘は無いそうで、神具でも無いらしい。
持たせてもらったが、かなり重かった。オレの打刀より、三倍位は重いかもしれない。
彼女は――そんな重たい刀を、小枝を振るように自在に操るのだ。
あの小さな身体のどこにそんなパワーが隠されてんだろうなぁ……。不思議だ。
ちなみに、修行でオレの相手をしてくれる時は、本当に小枝を持って相手をしてくれるのだがな。オレは白刃を使うのに、だ。
それでも、全く付け入る隙も無い。恐ろしい強さである。いつもいつも、ボロボロにされるのだ。
今日も今日とて、そうなるだろう。
単純な武器術で、お師匠さんに勝てる奴って居ないんじゃなかろうか。と、最近ずっと思ってる。
そんな感じの修行生活が始まって、既に二ヶ月程が過ぎた。
この二ヶ月で、色々あった。
最初は、午前に神力の修行をしていたのだが、オレもルビィも倒れてしまう事があったので、今は午前に刀術と格闘術、体力修行をしているのだ。
とはいえ、お師匠さんには毎日ボロボロにされてるんだがな。
まぁ、お蔭さんで、傷や疲労感だけをリセットするのも、慣れてきたからね。時間割的にはこっちの方が効率的だわな。
午後からは、神力、神能、神具の扱いなどを中心に修行する。
その過程で、オレの愛刀達は、銘を付けて神具となった。
一振づつ銘を付けたが、その度に倒れた。
まぁ、いつぞやの神様に名付けた時の様に、三日とかは寝込まなかったけど。
とはいえ、倒れるくらい神力を注いだというお陰で、かなりのモノに仕上がったらしい。
脇差は、『淡墨』。
打刀は、『煉華』。
野太刀は、『雪月花』と、それぞれ付けた。
まぁ、割と見たまま安直に付けたわけだが……。
結果。淡墨は、雷。煉華は、炎。雪月花は、氷雪の力を持った。
付いた能力も名前通りで、ありきたりな感じだが、結構便利だったりする。
なんといっても、お風呂沸かせる様になったからな!
素晴らしい事である!刀でお風呂沸かすってどうなのって感じだけど、全然良いのだ!入れないよりはな!
まぁ、キツイ修行後の、お楽しみタイムってやつですな。ちなみに、電気風呂にも出来るんだぜ!濡れても平気な刀で良かったぜ!
――
さてさて。そんなワケで。
今日も今日とて、たのしーたのしー修行の始まりデスヨー。
先ずは、起き抜け一番。
オレ、ルビィ、お師匠さん、リンコと連れ立って、館裏手の森の中にある滝壷に向かう。
そこで、水浴び……というか水垢離というか、滝行っぽい事をするのだ。
何の意味があるのかは詳しくは分からない。
まぁ、説明によると、自然と自己とを一体化する感覚を養うんだとか。これは、神力修行においても、刀術修行においても、大事なんだとか。
「ボスー!みずあびきもちーねー!」
「……オレは温かい風呂がいいよ。」
「御二方とも。集中して下さいまし。水を、大気を、そこに宿る神力を、感じるのです。」
「そうぞえ。特にルビィ殿は、移り気でいかぬぞえ。神狼といえば、嘗て神族を屠った者もおったと聞くぞえ。きちんと修行に励めば、そのようにも成れるはずぞえ。」
「えぇー。」
「ご主人様。ルビィ様。今後、他世界に旅立たれるおつもりと伺っております。」
「あぁ、そのつもりだね。」
「私も、微力を尽くしお護り致しますが……化物共は、そう易しくありません。
フウカ様もグエン様も、それをご心配されておられるのです。」
そうなのだ。
危惧していた通り、モンスター的なのがいるのだ、この世界。
化物と呼ばれるそれらは、嘗ての大戦の時に生み出された、"負の遺産"らしい。
それぞれが住みやすい環境の場所に巣食っているらしいのだ。
どこにいるんだかは、全然個体差があるようで、数も多くはないらしいが……。
まぁ、旅行気分でいきなり出くわしたら危ないという感じらしい。なんせ、お師匠さんですら倒すのに一日掛かりって事もあったらしいからな。
いつか出くわした巨大蟷螂は、別に化物ではないとの事だ。まぁ、ヤツは登場してすぐに火達磨になって、退場してたしな。
「まぁ、ちゃんとやりますよ。まだ死にたくはないしな。
リセットも、どの程度まで可能なのか、まだまだ底が見えないしね。
それに、刀術だって、ちゃんとやらないと、せっかくの良い刀が無駄になるからなー。」
「ルビィも、ボス、ちゃんとまもる!」
「では、そろそろ戻るかえ。」
滝行の後は、朝食だ。
実は神食(例の岩塩的な物)があれば大丈夫な感じの者も、この郷には多いのだが、お師匠さんはそうでは無いし、それに合わせて皆で摂る事になっている。
メニューとしては、焼いた肉や魚が多いな。肉は何の肉だかは聞いていないが、鳥っぽい感じが多い。野菜っぽいのもある。
神狐の民が、材料の用意から調理までしてくれるのだが、最初はまぁ、料理って感じでは無かったな。素材って感じだった。
何度か手伝いつつ教えたら、近頃は割と良い感じになってきた。
館に戻り、食堂に行く。
お、今日はスープもありますな。魚と野菜のスープと、焼いた肉に卵を乗っけてあるな。この魚、脂がのってて美味いんだよなぁー。
調理部の皆さん、やるじゃないですか。
では、ありがたく。
今日も美味しくいただきます!
ありがとうございました。
またよろしくお願いします。
明日も続きを投稿します。