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1.23話 お師匠さんと呼ばないで

 

 ふぁー。戻ってきた。神狐の郷。

 って、別にここ、故郷でもなんでもないんだけど。

 更にいえば三日ぶりだし、大した事でもないんだけどね。


 目の前には、注連縄の架けられた巨大な岩。

 その奥には、和風な……神社っぽい色使いの平屋造りの建物が並ぶ。


 そんな光景を見て、ちょっとホッとするのは、元日本人だからだろうかね。


 それとも……岩だらけ、火だらけの光景に馴染みが無いってのもあったのかな。


 とりあえず、手でも合わせとく?


「で、お師匠さん。」


 それはそれとして。

 二本の短い紫黒の角が特徴的な、和服美少女に話しかける。

 完全に和服候というワケでもないんだが、かなり和風ではある。何故か女物という感じではなく、折模様が上品な濃紺の上着と、漆黒の袴風という侍っぽい感じだが。


 そして彼女は、この世界に来て……というか、この世界に生まれて初めて見た、黒髪ストレートロングなのだ。

 肌も抜けるように白く、和服とも相まって、めちゃくちゃ清楚に見える。髪をアップにしたら、破壊力がヤバそうだ。


 そして、勿論とでもいうのか、当たり前の様に整った顔立ちは、濃過ぎず薄過ぎずで、バランスがいい。


 薄目の唇は、綺麗な薄紅色。そこから時折チラリと覗く、少し発達した犬歯……というか、牙も、八重歯に見えてくるから不思議だ。


 瞳色はグレーで、涼し気な目許。寒色系のアイシャドウとかでも似合いそう。


 色素的には完全に同じというわけでもないが、日本人にもありそうな顔立ちである。


 まぁ、正直……結構好きな見た目だ。なんというか安心感があるな。


 名前が無いらしいので、便宜上……でもあり、実質的にも師匠となる人である。だから、お師匠と呼ぶ事にするのだ。


 しかし……見た感じでは、どう見ても12、3歳位に見えるのだがな……。せいぜいがルビィが人型になったくらいの感じだ。

 まぁ、今のオレよりはちょっとお姉さんって感じだけど、そんな短期間で剣豪なんかになれるのだろうか?


 そう考えると、もしかしたら合法ロリ……

 ……見た目通りの歳では無いのかも知れない。

 リンコも三十路オーバーだったしな。


「師匠は止めて下さいまし。」


 そんな彼女は、遠慮がちなのである。


 まだまだ出会ったばかりではあるが、今の所……自ら話し掛けてくる事もあまり無い。


 褒めてみても、冷静に謙遜……というか、否定され、質問しても、返答は端的で淡白だ。


 女子といえば、どうでもいいような事や、愚痴ばかりを延々と所構わずブチ撒けてるイメージが強かったんだが……いや、それはオッサンとかも一緒か。

 クソ上司に連れてかれた居酒屋で何度も酷い目にあったわ。そういえば。


 ……とにかくまぁ、この世界ではそんな感じじゃないのかもね。

 単純にお師匠さんが、壁の厚いタイプってだけなのかも知れないが。

 ま、その辺に関しては、オレだって人様に偉そうな事言えない態度ばっかりだった頃もあるしな……。

 だからこそ


「えー?だって、刀術教えてくれるんでしょ?教えてくれるって事は、師匠だと思うんだけどなぁー。」


 と、敢えて軽い感じで言ってみるも……


「ですが、私は其の様な身分にございません。身に余る事にございます。」


 これである。

 格好も侍っぽいけど、言う事も侍っぽい。中々に頑ななのだ。


 それに、ちょっと勘違いしてたみたいで、ただ家庭教師に来てもらってる、んじゃないらしく……。


「えー、でも、御指導してくれるんでしょー?」


「それは勿論でございます。グエン様からも、其の様に仰せつかっております。そして(わたくし)は、既に貴方様の従者です。如何様(いかよう)にもお使い下さいまし。」


 という事らしいのだ……。

 既に従者って、何?!どゆこと?!と、気付いた時には後の祭りである。


 面接した憶えもないのに、何だか派遣社員さんが来たなぁと思ってたら、実は本社から捩じ込まれてた正社員だったオチの子会社の社長って感じ?


 とはいえ、今更お帰り頂くわけにもいくまい。ご厚意ってやつなんだろうしなぁ……。まぁ、可愛らしいし、いいかぁ。


 そんな空恐ろしい会話をしていたら、あっという間に中央の館に着いた。相変わらず門番?の赤い狐が両サイドに鎮座している。


「あ、どうも。戻りました。フウカは奥かな?」


「これはレイリィ様。お戻りになりましたかえ。フウカ様に、お通しする様に仰せつかっておりますえ。

 フウカ様は、奥におられますえ。」


「了解。ありがとう。」


 赤い狐とのそんなやり取りを経て、ちょっとした不安を(いだ)きつつ、奥へと向かうのだった。


 ――――


 案の定である。


「もぉぉぉぉー!ボぉぉぉぉスぅぅぅー!」


 ルビィにしがみつかれ、ひたすらに舐められる事、体感15分。

 そろそろ解放してくれまいか。お師匠さんがドン引きなさっておりますよ。


 あと、フウカさんや。

 居るなら、にこやかに微笑んでないで、そろそろ助けてくれんかね。何ですかその笑顔は。また新しいパターンですね。ほらもう、ねちゃねちゃのビシャビシャを通り越して、ふやけてきた気がするんだ。へるぷ。


 と、他力本願でもいかんので。


「ルビィ。遅くなって悪かった。

 神力は、どう?安定したか?」


「う?あ、ふひひ。」


 ルビィは、得意気に不敵な笑みを浮かべると、少し距離を置いた。


 そして……


「みててねー!」


 と、全身から光を放つ。そして光は粒状になり拡散し、やがて収束すると、狼の形を成した。


 おお……?戻れるようになっとるやないかい!


「え、ルビィ、狼に戻れる様になったのか?」


「うん!きのうできた!ふひひ。」


「すごいじゃないかー!」


 わしわしと撫でてやると、しっぽの風圧で後ろにいたフウカの銀の髪がたなびいた。……深窓の令嬢みたいには見えないからな!


「さて。レイ殿、ルビィ殿。そして、刀鬼殿。

 今後について、語りましょうかえ。」


 今後しばらくの間、この神狐の郷にて、神力の修行をするという事になっていたが、刀術もやる事になったので、どう進めるか決めるという事らしい。


 テーブルらしき物のある部屋に移動し、(扉は無いのだが)話し合いという流れになった。


 テーブルは円卓で、一番奥にフウカが座ったのだが、隣にお師匠さんを座らせようとしたところ、お師匠さんは身に余る事として、それを固辞。

 何故かフウカの向かいに座ったオレの、右後ろ辺りに立っている。


 オレの左隣にはルビィが座った。あー……これ、車の助手席だな?さては。


 遅れてリンコが人型で現れた。


 手にはお盆を持ち、湯呑みが五つ。それぞれの席の前に、全裸で配っていく。非常にシュールな絵面である。ここはソフト・オ〇・デマンドじゃないのですがね。

 そろそろ服を着ようぜ!と言いたいのだが、どうにも獣族の常識には、服を着るという概念が無いようだ。基本毛皮着用だもんなぁ、生まれつき。仕方ないのかもね。

 まぁ、タダ見出来るって凄いよね。ラッキーだね。とでも思っておこう。

 冷静に考えると、耳や尻尾はあるけども、あんな美少女達が、だ。全裸で彷徨くところを見た事が、前世で一度でもあったか?という話だ。あるワケがないのだ。そう、あるワケがない。


 誰も咎めないんだし、ここではこれが自然なのだから、受け容れてしまえばいいのだ。豪に入れば郷に従え。ここは、"異世界"なんだしな。


 とはいえ、慣れてしまえば、美少女の裸も、ただの風景かも知れないがな。

 銭湯の番頭さんや、産婦人科医のようにな。


「では、目的から目標を定め、そこに至る過程を、段階的に整理した計画として立案致そうかえ。」


 おい!どこのリーマンだ、あんた……。社畜のトラウマ抉るんじゃないよ。


 そんなこんなで、オレとルビィの修行計画が立てられていった。

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