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1.22話 お土産が増えてました。

冒頭部分は、前世の事を夢に見ている話です。

 

 夢を見ていた。


 あれは、前世での事。

 霞みがかってて、鮮明じゃない部分があったが、きっとそう。


 季節は――春。

 桜が満開の堤防を、やっとの思いで手に入れた旧式の愛車――YAMAHAの伝説の名機RZ250で、気分良く走っている。2サイクルの振動が心地良い。

 陽光に照らされた桜と、少し強い春風の中を、景色もバイクも、愛でる様にゆったりと走っている。

 本来はゆったりと走る様な機体では無いのだが、花見ついでだ。

 桜色のシャワーを浴びるのが、バイクをかっ飛ばすより気持ち良く感じるのだ。


 不意に、目の前を横切る黒い影。

 完全に油断していた。風景に酔いしれ過ぎていた。脊椎反射的に、咄嗟にフルブレーキを掛けた。

 だが、それは悪手だった。当然ながらタイヤは派手にロック。

 愛車はジャックナイフを経て、横倒し状態になった。

 が、勢いは止まらず、路面を文字通り滑っていった。


 そんな光景を、眼下の端に一瞬捉えるが、視界は眩しい空、桜並木、アスファルト、と目まぐるしく反転を繰り返した。


 ――オレは、愛車がジャックナイフしてしまった時点で空中に投げ出されていた。

 そのまま空中を回転して、堤防の斜面に背中で着地した。そして、その勢いで斜面を滑り落ちていった。


 眼前に勢い良く水面が迫ってくる。

 いや、迫っているのは自分なのだが、勢いを止める事が出来ない。

 遠くで、ガチャンと破壊音が響く。



 ――落ちる!



 その瞬間、ハッと目を見開いた。


 茶褐色のゴツゴツした天井……が、見える。


 額にジットリと汗が浮かんでいる。

 部屋が、暑いようだ。


 ……ん?部屋が暑い?どこ?ここ。


 えーっと……。


 あぁ、そうだ。

 火神――グエン・オージンの名付けをして……多分、倒れたんだな。

 神族だからかな?やたら力を吸われたのは。

 いやー、びっくりしたー。


 起き上がり、伸びをする。


 ――コンコンコン


 すると、ノック音がした。

 おお、扉があるじゃない。それだけでも、何だか文化的な感じがするぞ。


「はーい。」


「失礼しますナ」


 入ってきたのは、二足歩行の猫。明るい茶色だ。手にはお盆のような物を持ち、その上には湯呑みのような物が乗せられていた。


「お目覚めになられたンですナ。これどうぞナ。薬湯ですナ。」


「おぉ……?ありがとう。」


 受け取った湯呑みを口に運び、一口。水気が乾いた口中を潤し、そして拡がるフレーバー。


「ぐへっ」


 めっっっちゃ苦い!こ、これは……目が覚めるわ!

 気付け薬って、そういう感じなんだっけ?!

 強烈だ!100%カカオとピーマンとセロリの苦味とエグ味を抽出して煮詰めたようだ!なんっっじゃこりゃ!


「良く効く薬湯ですナ。お代わりしますかナ?」


「いやー、もう大丈夫!大丈夫です!意識もすっかりバッチリです!」


「うナ。それはよかったですナ。」


 ふう……。酷い目覚めだぜ……。もう一杯は地獄だろ。

 ダメ、絶対。気付け通り越して、あの世逝きか廃人まっしぐらだぜ。ペディ〇リーも真っ青だね。

 あ、廃神か?


 しかしまぁ、懐かしい夢見たなぁ。あの後、こーやって病院のベッドだったんだよなぁ。二ヶ月入院したんだっけ。愛車は爆死して廃車だったし、散々だったなぁー。


 ハッと、刀が気になった。

 周囲を見渡すと、壁際に台座があり、飾るように置かれていた。良かった。

 よく見れば、台座の前には皮っぽい何かが置かれ、その上に、閉じられた扇子がある。

 なんだコレ?


「あ、それは火神……んナ、グエン様からの贈り物ですナ。刀帯と、羽織の神具でしたかナ?」


 え、まだくれるの?確かに刀には帯要るけど。神具まであるとは……気前良過ぎだぜ。


 てか、あの後どうなったんだろ?

 ……オレ、そんなんばっかだなぁー。前世から引き継いでんのかねぇ?目が覚めたら違うとこにいるパターン。

 ま、それはいいや。


「それはありがたいな。で、グエンさんは?」


「奥の間に居られますナ。」


「おっけー。分かった。ありがとう。」


 それら品々を持ち、寝かされていた部屋を後にした。


 ――――


 コンコンコン


「グエンさーん。居ますかー?」


 扉をノックして、声をかける。


「おお!目覚めたか!丁度良い!来い来い!かっはっはー!」


 何やら機嫌が良さそうね。と、ガチャりと扉を開ける。

 すると、そこには眩いほどに輝きを増した感じの火神――グエンと……

 小さな角が生えた、可愛らしい少女が居た。


「かっはっはー!新たな名のお陰でな、嘗てより神力が強まったぞ!感謝する!

 おお、気付いたか。その神具はな、火の力が篭っておるぞ!役に立つ事もあろうから、持って行くが良い!」


 こちらから何か聞く前に、勢い良く説明を始めたグエン。

 なんかちょっと眩しいぞ。神々しさが増してるというか。起き抜けの目にくるな、コレ。


「それとな、この者をお主に仕わす。鬼族の者だ。

 以前、刀使いの剣豪達の記憶を与えてな。こう見えて凄まじい腕だ。刀術を学ぶが良い!かっはっはー!」


 鬼娘は、表情一つ変えず、ペコリと会釈する。


 え?急展開過ぎて、ちょっと分からないぞ?

 寝てる間に何があった?!


 ……よし、落ち着いて、一つづつ聞こうか。


「えーっと。グエンさん。色々とありがとうございます。」


「なんの!お主にして貰った事に比べればな、大した事は無い!かっはっはー!

 もし、今後自身の地を興すのであれば、言うが良いぞ。鍛冶師などもやろう。」


「え、マジすか。そんな事になるか分かりませんけど、その時は是非!」


「かっはっはー!ああ、そうしろ!」


「で、あの後、オレどんだけ寝てたんです?」


「ああ、確か……三日か?」


 おおぅ、三日か!結構寝てたな……。ルビィ、拗ねてないといいけど。いや、多分無理だな。ルビィだし。


「思いの外、早い目覚めであったな!神力枯渇からの回復に、随分と早いものだ!流石であるな!」


 え、そういう感じなの?三日で早いんだ?まぁ、それは今はいいか。


「あと、フウカは?」


「帰ったぞ。郷にて待つそうだ。」


 まぁ、三日だしね。そりゃ帰るか。直ぐ帰るなら問題ないって話だったしな。ま、一応転移石の使い方も教えてもらったしな。帰りは大丈夫だろ。


「分かりました。えーっと、その子の名前は?」


「名か。無いぞ。好きに付けるが良い!かっはっはー!」


 うわぁ、またこのパターンかよー。

 グエンの部下だから、名前が無いとかそんな事だろうか?

 そういえば、フウカのカグラって襲名名明かせない話も、火神を憚ってたんだろうしな。堂々とフウカって名乗りたいがために、まさか……

 まぁ、それはいいや。


 このずいぶんと可愛らしい少女?も、わざわざコーチに来てくれるんだし、御本人さんと相談して、呼び名くらいは決めようかね。


「この神具は、フウカの持ってた物と似てますね。」


「ああ。顕現する形は違うがな、似たようなものだ。今のその衣より、刀を持つに相応しくなろうな!かっはっはー!」


 こうして、刀と帯、羽織の神具、そして刀術の師匠を連れて帰る事になったのだった。

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