1.20話 神様は暇なのかもしれない
最初絡まれて、どうなる事かと思ったが。
火神は、とても良い物を、気前よくくれた。それも、いくら自分の眷族が連れて来た者とはいえ、初対面の怪しい小僧に、だ。
この世界には、通貨は無いらしいが、何かしら恩返ししたいとこだなー。
んー。オレに出来る事といえば……
「火神さん。封印、何とかしましょうか?」
「……なんだと?」
「オレの神能で、何とか出来るかも知れないんで。」
「ほう……。」
先程までテンション高く笑っていた火神が、難しい顔をして、腕を組む。
ワイルドな顔立ちに、次第に深く刻まれていく眉間の皺が、途端にシリアスな雰囲気を創り出していく。
「……何か問題でも?」
「うむ……。我の力が解放されたと、最高神に知られるとな……。恐らく、争いの火種になるだろうな。」
おおぅ……。火神だけに、火種っすか。
てか、何年経ってんだか知らんけど、最高神ってそんな根に持つ感じなんだ。
「無論、エルヴァルドに戻らねば、知られはせぬだろうがな。思えば奴に最後に会ったのも、千年程前か。」
やっぱり千年単位だった。
まぁ、それは予想してたからいいとして。イマイチ納得出来ないなぁ。何千年も封印しっぱなしとかさ。
気ままに暮らしてはいるんだろうけど、そんなの自由とはいえないだろ。
あ、何かちょっとイラッとした。やっぱ、何とかしてあげたいなぁ。
うーん。火神っていうくらいだし、実際は強いんじゃないのかな?
それが、こんなビビらないといけない存在なんだろうか?最高神って奴は。
まぁ、今まで聞いた部分だけでの判断だと、嫌な奴っぽい感じはするけど。
「あの、最高神ってそんなに強い……というか、危険なんですか?」
「うーむ。我も、大戦については、聞き及んだ知識しか持ち合わせておらんが……。
奴は、忠実な配下を多数抱えておる。神使隊と呼ばれておる、奴に力を与えられた存在……その多くは、奴の子等だ。」
「子供ですか。」
「ああ。そうだ。奴は――その力、地位を存分に使い、数々の女に子を産ませた。神族を始め、種族も多岐に渡る。その子等が成長し、神使隊に取り立てられたのだ。
その子等は、神族では無い者が多数ではあるが、神獣や神竜――神族にも及ぶ者や、異形の化物もおってな。独力では敵うまいよ。」
「そうなんですか。多勢に無勢って事なんですね……。なるほど。確かにそんなのに目を付けられると、平和に暮らせ無さそうですね……。」
「うむ。敢えて火種となりそうな事をするのもな……。
今の我でも、神族として最低限の力はあるしな。」
「分かりました。封印を解きたくなったら言って下さい。」
「ああ。その時は頼む。」
火神は、先程まで豪快に笑っていたのが嘘の様に、儚気な笑顔を作った。きっと、色々思うところがあるんだろう。今のオレには、何千年の時に及ぶ事象など、想像すら出来ない。
何かしら、彼の力になれる事があればいいんだけど。
と、思ったのも束の間。
「……あ、そういえば。オレ、父親居ないんですけど……?」
引っかかっていた事をついつい。
「おお、そうか。お主は創造の力で生み出されたのであったな。
その様な事が出来るのは、神族といえど――いや、創世十二神にも、創造の女神のみよ。」
「へー。ソールフレイヤ様って、凄いんですね?」
「何だ、知らんのか。最高神に次ぐ位置、そして力だぞ、あの女神は。
……だからであろうな。お主に内包される神力が、凄まじく思えるのは。」
「えっ?神能使うと、割とすぐ枯渇するんですけど……?」
「それは当然であろう。リセットだったか?その様な現象を起こすのに、どれだけの力を使う事やら。我には想像も付かぬぞ。」
なるほどなぁー。
まぁ、そりゃそうか。ある意味時間にまで干渉してるって感じだしなぁ。タイムスリップするのに発生させるエネルギーって莫大なんだっけ?知らんけど。
まぁ、タイムスリップそのものをしてるってワケじゃ無いんだろうけどな。
とはいえ、リセットまでの過程で、色々便利に使えるわけだしな。鑑定だったりさ。確かに負担はデカそうだ。
ふーむ。てことは、あんまりその辺深く考えてなかったけど、最初から十数回使えた事の方がおかしいのか。フウカがオレを上位だとかなんとか言ってたのも、そんな感じのことなんだろうか。
てか、あの母神様、マジで説明雑だなー。まぁ、いいけどさ。美人だし。
ん?てか、創世とか何とかって話出てたけど、あの女神様、一体幾つなんだろ。創世って世界創ったとかそんな話だろ?地球ですら億単位だしな……。うーむ。
まぁ、聞かないけど。
しかし、単体で出産……というか、生命体?創るとか、やっぱり規格外ってやつなんだなぁ。
あー、何かそんな怪しい話、地球にもあったな。処女壊胎だっけ。
……ちょっと違うか。
いやまぁ、それはいいや。
それよりも……
「そういえば、火神さんの母君はご存命なんですか?」
「我と同じ様に、封印を施されてはおるがな。生きてはおるな。
創世十二神の一柱、大地の女神よ。」
なるほど。だから、土の民とやらがここに居るのか。
てか、神族って多いのかな?どれくらいいるんだろ?
そういえば、そんな事すら知らないや。
ま、いいか。エルヴァルドに帰った時にでも分かるだろうしな。
とりあえずルビィが元気になるまでは、旅に出ることもないしな。
「そうなんですね。ご存命なら何よりです。
で、何かして欲しい事とかありますか?
こんな良い物頂きっ放しってのも、気が引けますよ。」
刀を掴み、グイッと火神の目の前へ掲げると、火神は、またも豪快に笑った。
「かっはっはー!お主、律義よな!
良し、分かった!時折、訪ねて来てくれ。土産話でも持ってな!かっはっはー!」
オレは、あんたの孫か!
いや、まぁ、封印された神様なんて、暇なんだろうけどさ……。それでいいのかよ……。




