1.16話 便利な機能?!転移石を使おう!
「恩に着るぞえ。では、参ろうかえ。」
神狐の負傷者を治し、部屋を後にする。
「フウカ。出掛ける事、郷の皆に言っておかなくていいのか?」
今にも鼻歌でも聴こえそうな程、機嫌良さそうな顔をして、カランコロンと石畳の廊下を進む、この郷の長に聞いてみる。
「すぐ戻るのであろ?なれば問題無いぞえ。」
……自由か!
まぁ、いいか。本人がいいって言うんだしな。何だか楽しそうだし、わざわざ水を差す事もあるまい。
それよりも、火の民の地ってどんな所なんだろうなー。
火を噴く山って、火山だよな?そんな所に住めるもんなのか?穴蔵掘ってるんだっけ。どんな種族なんだ?土竜か?土竜人か?でもまぁ、知的生物なら、能力や道具や技師があれば、穴くらい掘るか。人間だって、トンネルを作りまくってたしな、地球では。
などと、考えている間に、転移石前に着く。
「転移石の使い方であったな。」
「教えてくれるんだ?」
「今後の事も在ろうしな。
そなた、何れ他世界にも行く積もりなのであろ?」
バレてたー。顔に出てたのかな。おかしいなー。オレってば、ポーカーフェイスのつもりだったんだけどなー。生前は、仏頂面だとか無表情だとか笑顔が無いだとか、会社で散々言われたんだがなー。
まぁ、いいか。隠して生きなきゃいけないって事は、今更無いだろ。
「そうだねー。色々見て回りたいかなー。せっかくだしね。」
「ふむ。なれば、転移石もであるが、身を守る術も必要であろうえ。ルビィ殿と共に、暫しの間は神狐の郷で修行してゆくが良かろうえ。」
「そうだねー。せっかくだし、世話になるよ。」
「うむ。」
フウカは、何だか満足そうに頷いた。こういう笑顔もズルいよなぁ。
「あ、そうそう。火の民の地で、刃物も調達したいな。」
「刃物?あれは神力を持たぬ者が使うものぞえ?
中には稀に神具もあるにはあるが……。造れる者が限られるぞえ。」
「そうなんだ?まぁ、刃物あれば便利そうだし。」
「ふむ。欲しいというのであれば、止めはせぬが……。
先ずは転移石であるな。傍へ寄りゃえ。」
「あ、はい。」
指示通り、隣に立つ。相変わらず、花の様な香りがふわりと鼻腔を擽りよる。お香でも焚き付けてんのかな?ちょっと深呼吸してみていいデスカ。……しないけどな!
「転移石はの、神力を使うぞえ。」
「って事は、神力が無いと使えないと?」
「そうなるぞえ。
先刻使うた、大狼族の地に在った転移石は、大狼族が使う事は出来ぬのえ。
元は、神泉を創った神族が置いたものと伝わっておるのえ。
古き話であるがの、こなたら神狐の民と友誼を結んだ際、その頃の神狐の長が、この石と繋いだという話ぞえ。」
あー。だからシンザーリルさん、転移石の事なんにも言わなかったのね。使えないんじゃそうなるわな。
てか、泉の神ねえ。女神だったら、斧でもくれるのかな。実用性考えたら、鋼の斧がいいよな。
てか、金属って今の所見てないな。火の民の地には鍛冶屋?鍛冶師?が居るらしいから、金属器はあるにはあるんだろうけど、希少なのかな。どんなのがあるんだろうか。中々に楽しみだ。
「さ、石に神力を通して、行く先を探すのえ。
この石は、三通りの道があるぞえ。
脳裏に浮かぶであろ?」
言われた通りに神力を通してみると……
脳内にイメージが浮かぶ。三又に別れた道が、薄らと光っている。
文字が書いてある訳じゃないらしく、どれが何処の道かは分からない。色分けされている訳でも無い。
だからさっき使ってた時も行先を言ってたのかな。
確かに……これなら知らずに使ったら、知らんとこに飛ぶかもなぁ。不親切極まりないわ。なにこれ。
「三つ、見えたけどさ、どれも同じように見えるんだけど……。」
「見えたかえ。行く先を指定しえば、その道が判るぞえ。」
「え。じゃあ、どんな道があるか知らないと行けないわけ?」
「そうなるぞえ。」
旅〇扉より全然酷い!何その排他的なシステム?
そんなんだったら、行先が一箇所だけの方が迷わないよね……。ん?まさか光の道の失敗って、それもある?道標無しで砂漠の真ん中にでも置かれる感じ?だとしたら、そりゃ失敗するわな……。
「で、行先は火の民の地だっけ?」
「いや、転移石が在るのは、火の山ぞえ。
この転移石は、神泉の森、火の山、火神の社に繋がっておるぞえ。
火の民の地と申さば、範囲が広過ぎる故な。」
……言い回しが細かいな。
バス停みたいな感じだろうか?電車の駅では間隔が広過ぎる的な……。石から石に飛ぶのなら、範囲がどうとか関係無いような気もしなくはないんだけどなー。
ま、やってみますかね。
「えーと。火の山。」
地名を唱えた次の瞬間、三叉の道の一番左側が少し強く光った。
こうなるのかー。一応正解したら判るのね。
「一本、道が光ったね。」
「その光の道に意識を乗せるぞえ。」
……ちょっと何言ってるか分からないです。
いや、まぁ、多分、神能使う時みたいな感じだよな。
意識を集中して、一際強く光っている道に神力を注いでいく。
すると――自身の存在感が希薄になった。
「うおぉ……。」
気が付けば、いつの間にか目の前の景色が変わっていた。
赤茶けたゴツゴツした岩肌、そこら中に転がっている尖ったデカい石、ブツブツした黒っぽい石、ガラス状になった岩……。
なんというか、殺風景だな。
周りに草木すら生えていない。こんな所で、真面に住めるんだろうか?どう見ても火山地帯って感じだぞ?
転移石の在るこの場所は、少し窪んでいて、それなりに平坦だった。周りが小高いので、全体像が分からない。
周囲を観察していたら、ふとムワッとした熱気を感じた。火山のせいだろうか。どうやら下からも横からも熱が来ているようで、暑い。あと、ちょっと臭い。硫黄かな?これなら確かに温泉っぽいの、どっかにあるかも。
「ふむ。使い方は理解出来たようであるな。」
「お陰様で。」
「では、参ろうかえ。」
フウカは、デカい石がゴロゴロ転がっている未整備の地面を、例の下駄でカツコツと事も無げに歩いていく。
バランス感覚どうなってんの。
そういえば、オレ、革っぽいペラペラの靴というか、草履だけど、大丈夫かなー。前世の身体なら確実に血が出るぞ、ここ。
まぁ、置いて行かれない様に、ついて行かないとね。
ありがとうございました。
またよろしくお願いします。
PV数というものが見れるというのを、今日知りました。