1.15話 そうだ。火の民の地に行こう!
命名の儀式とやらも無事終わったので、いよいよLET'S 修行かな?と……
当のルビィを見てみると、石の台の上でぐったりといった様子で寝そべってる訳なんだが……。
こんなんで、修行出来るのか?
「ルビィ、大丈夫なのか?あんまり元気無さそうに見えるけど……」
「うんー。ちょっとちからがはいらないかもー」
「未だ神力を体内に留める事、循環させる事に慣れておらぬのえ。詮無き事え。」
フウカによると、ルビィは今、神力がダダ漏れって感じらしい。
神力が切れると気を失い、最悪死ぬんだそうだ。
神力は、神族や神獣の生命エネルギーらしいから、どうやら唯のMPという訳では無く、HPも兼ねてるっぽい。
……オレ、ヤバかったんじゃない?アレ。
うっかりブラックアウトしたもんな。
気を付けないとだなぁ。
母神様の話では、神力は鍛えたら増えるって話だっけ?ちゃんとやらないとだな。
「てことは、ルビィはここから動けない感じ?」
「しばらくはそうなるぞえ。」
「えー!そうなのー?ボスはー?」
んー、どうするかなぁ……。
修行って感じに、まだなりそうも無いしなぁ。
修行なら、一緒にやるのも悪くないだろうけど。
ルビィと一緒に石の上で寝てるのもなぁー。神化ってのも大変なんだなぁー。
ん?まさか……オレが10年も寝てたのって、そういう事か?!うーん。なんかそんな可能性はありそうだな。
まぁこうして考えてばっかいても仕方ないよなぁ。
ルビィの回復に幾日かかかる、のか。
何しようかなー。んー。
あ、そうだ。
ちょっとだけ火の民の地ってとこ、見に行ってみたいな。
温泉的なものがあるかもって話だしなぁ……。
話くらい聞きに行っときたいかも。
「神狐の負傷者治したら、ちょっとだけ火の民の地っての、見て来るよ。」
「えぇー!」
置いてきぼりと聞いて、不満気なルビィに
「大丈夫。直ぐ戻るよ。」
と、頭を撫でながら諭す。ルビィは渋々といった表情をした。
まぁ生命に関わるんだし、今は安静にしてておくれ。
「で、フウカ。火の民の地って、転移石で行けるんだよね?」
「行けるぞえ。……とはいえ、案内役が必要ぞえ。」
「え?そうなの?危ない感じ?てか、どんなとこなの?」
「どんな?火の神の加護を受けた、火の民が住まう地ぞえ。火を吹く山の中程に、穴蔵を掘って住んでいる者が多いかの。そこには鍛冶師もおるぞえ。
転移石のある場所ならば、特別危険という訳では無いのえ。
とはいえな、転移石の使い方がの……。
分からぬと、おかしな場所に飛ばされる事もあるぞえ。こなたも先代から教えを受けたのえ。」
おかしな場所に飛ぶー?それ、危ない感じやないかーい。
あれ、ただ便利ってワケでもなく、危険な代物なのか。
ふーむ。そんな事なら使い方はちゃんと聞くしかないなぁ。さすがにおかしな所に飛ばされたくはないし。
てか、鍛冶師とか言ったか?!
刃物欲しいぞ!調理用と、護身用!
まぁ、お金持ってないから、とりあえず見学だがな……。
いつか刀欲しいなぁ!前世では偽物しか手に入れれなかったからなぁ。この世界に刀、あるのか知らんが……。
「じゃあさ、転移石の使い方、教えてもらえないかな?」
「ふむ……。」
フウカは、少し考え込んだ。
「せっかくだからの、こなたが案内致そうかえ。
ルビィ殿は、回復までまだ幾日か掛かろうしな。」
え?せっかくって、何?どゆこと?
転移石の使い方教えて貰ったら、一人で行くんだが?
生憎だが、孤独は慣れてるからな!
ってか、前世の後半戦は、ほぼ一人行動だったから、他人と居るの、ちょっと疲れるかも知れん……。
特に、観光目的なわけだし?普通に一人でフラフラしたいんだが……。ましてやこんなセクシー狐とだなんてなぁ。
「いや、使い方さえ教えて貰ったら、大丈夫よ?
フウカは、神狐の長だから……ほら、忙しいだろ?」
「大猪の問題も片付いたゆえ、ルビィ殿が回復せなんだら、時間はあるぞえ。」
くっ……!暇だと言うのか……!
暇だから付いてくるってか?リンコ……は、部屋から出て行ったんだったな。郷の者達にフウカの名前を周知しに。
戻ってきたら、止めてくれるだろうか?
オレには、良い断り文句が浮かば無いぞ……。
「郷の皆が、心配しないのか?」
「特段、其の様な事はなかろうえ。何、心配せずとも転移石の使い方は手解き致すえ。新たな名を戴いた礼とでも思うてくれたら良いえ。」
礼だとぉ?アレは大猪族の件とかルビィの件を相談した条件のはずだろー?!使い方教えてくれるだけでいいんだよ。何でわざわざついてこようと……。なんだ?フウカも火の民の地に用でもあるのか?うーん。外出したい派なんだろうか。
つーか、郷長責任攻撃も効かないみたいだなぁ。この郷、完全なるトップダウン形式なんだな?割と好きな様に出来ちゃうんだな?
これは詰んだか……。リンコが居ても、止めれない感じかもなぁ。
「んー。とりあえず、負傷者治しに行こうか。」
「ふむ。では、参ろうかえ。」
「ルビィ、すまんけど、ここで回復しててくれな?」
「うんー。」
はぁ……。自由にフラフラしたかったんだがなぁー。
ま、いいかー。
とりあえず、神能使いますかね。これも修行ってね。
――
フウカに案内された部屋には、赤い狐が三頭、蹲っていた。大狼族の時と同じく、意識は無い様子。
でも、フウカの言ってた通り、大狼族に比べると確かに負傷者少ないな。
ま、サクッと治しますかね。
さてさて、どんな感じかな……と、一番手前の赤い狐に手を当てる。
……ふむふむ。これは意外と……
怪我前の映像を選び取り、各々設定していく。
まぁずいぶん慣れてきたもんだ。安らかに眠る狐は可愛いものである。
「ほお……。レイ殿の神能は、やはり不思議であるの。」
フウカはオレが順番に三頭を治す間にそんな事を言っていた。
この三頭。
情報を読み取ったところ、前世のオレより歳上だった。
大狼族って、それ位の歳だと、全員当たり前に二足歩行だったんだよな。
もしかして、狐人は居ないのかな。そういえば見てないな。この種族は、変身するタイプなんかな?
「フウカ。素朴な疑問なんだけどさ。」
「何ぞえ?」
「二足歩行の狐は、居ないの?大狼族みたいなさ」
「ああ、嘗ては、こなたらも其の様に成った、と伝わっておるがの。随分と昔の話ぞえ。
神狐の民――とは、種族全体が神獣故な。総じて神化するのえ。
尤も、才無き者は、火が操れなんだりと、個々の神力には差があるがの。」
「へー。獣族って訳じゃないんだ?」
「うむ。元は獣族であるが、な。
故に、このテイルヘイムに住まうのえ。」
「テイルヘイム?」
「……む?
知らぬのかえ?この獣族の住まう世界の名ぞえ。」
「……獣族の世界?世界が何個もあるみたいな言い方するね?」
フウカは、その長い銀のまつ毛が綺麗な目を、丸くした。そして、やれやれだぜ……という感じの表情を作り、憐れみの目を向けてきた。承〇郎?
「……そなた、目覚めたばかりと申しておったが……、何も知らずして此処に居るのかえ。」
そうなんすよ……。何故かそうなってるんすよ。何でなんすかね?気付いたら空にいたんすよ……。ワケ分かんねーッスよ!
例えるなら、DI〇の能力を初めて体験した時の〇ルナレフくらいに、何が起こってるんだか分かってないぜ!
「ふむ。なれば、こなたの知る範囲ならば教えようかえ。」
「それは有難い!」
そんな流れで、フウカは色々教えてくれた。
因みに、母神様の住まう地は、エルヴァルド、らしい。
この世界は、実はいくつかの世界に分かれてて、その中で一番上の位置にあるのがエルヴァルドという事だ。
一番上とはいえ、天空の城みたいに空に浮いてる、という訳ではなく、ネイドスの真ん中には、光の道というものがあって、それを介してそれぞれの世界が繋がってるらしい。
光の道は、各世界を繋ぐ橋――というか、柱というべきなのか――。それが世界を支えると共に、その道を通じて、各世界を往来する事も可能なんだとか。
ただ、そこを使って他の世界へ行くのは、成功率が低いとの事。何でそうなのか、フウカは使った事は無く、ハッキリ知らないらしい。
他世界へ移動する場合、通常は神族なんかが気紛れで造った転移石頼りの移動になるそうだ。
(とはいえ基本的に、他世界に移動する事や、移動する者は、滅多に居ないらしい。)
確かに、こんなの、一つの球体の上で暮らしていると思ってた地球人的な感覚からは、理解しにくい話だけどさ。
ファンタジー世界に来たのは分かってるから、受け入れる事は出来る。
が、実際、あんまり想像しきれては無い。まだ実感してないからな。
おそらくは、神話世界の話のように、多層の世界観という感じが近いんだろう。とりあえずはそんな感じに理解しておこう。
光の道……いや、柱か。移動成功率が低いって、なんでだろうな。光……の性質が地球と同じなら、まぁそもそも渡るだとか支えるだとかは無理だしな。何かしら別の特性があるんだろうけど……。多分、神力が深く関わってはいそうだな。神力が足りないと落ちる、とかそんな感じかなぁ?まぁ実物見てないし、なんともだな。
しっかしなぁ……。
そもそも説明して貰ってすら無かったってさ……。
酷くない?
ここは、千尋の谷なんすかね。
まぁ、文字通り落とされた訳なんですが。
谷ですら無かったけど。雲の上からだったけど。
ま、いいや。
こうして少しづつ知って行くのもいいだろう。
先は長いんだし、情報過多だと処理し切れないかもだしな!
まぁ、何やかんやと、フウカにはお世話になってしまったので、暇潰し?にお付き合いしますかね。