1.14話 命名の儀式、ですか?
さてさて。
おひぃさんの名前も、無事"フウカ"と決まった所で。Let's 修行なのかと思ったら……?
「では、命名の儀式を所望するぞえ」
何やら儀式が必要とか。
そういうの、苦手なんすけど……。
「命名の儀式?」
「こなたの頭に手を置きて、"この者にフウカの名を与える"と、宣言してもらうだけぞえ。簡単であろ?」
……まぁ、所作自体は簡単ですね。
何だか儀式とか、偉そうな感じがして、ちょっと照れるというか、抵抗感があるんだよなぁ。
とはいえ、やらないと納得してもらえそうもないし、仕方ないか。
目の前に片膝を立て跪く、九尾の銀髪美女。
……騎士かよ。アンタ巫女装束だよ。
心の中で、ツッコミを入れつつ、その――立派な狐耳の間に、そっと手を置く。
美女の頭に触れるとか、あんまり経験が無いぞ。ちょっと緊張しちゃうじゃないか……。
高まる心臓の鼓動を、必死に抑え込み
「この者に、"風花"の名を与える。」
と、絞り出した。
すると、身体から何かが――ゴソッと抜けていくような感覚に襲われた。
神能を使い過ぎた時のような感覚……
そして、目の前の狐耳美女は、オレの手が触れている部分から順に、徐々に淡い光に包まれていった。
その光は、白銀色に薄い青や緑の粒が混ざったような、不思議な色合いをしていた。
光は段々大きくそして強くなり、くるくると渦を巻くように、次第に彼女の全身を包んでいく。
「おぉ……?」
つい漏らした少し間の抜けた声が、この不思議な光景の作る神秘的な雰囲気をぶち壊しに……は、きっとしてないと願いたい。
あと、写真撮りたい。
「素晴らしい力ぞえ。」
……何やら不穏な台詞が聞こえた気がする。
さっき言ってたヤツだな?コレが。
オレが何かしらの能力をあげちゃった感じなんだな?
ご所望の品をお届けしちゃったのね?
これ、とんでもない事になったりしないよね?
光の粒達が、彼女に吸収される様にして収まると……
白銀の頭髪に、所々水色や緑色の部分が出来ていた。
何というか、見た目が更に派手になりましたね。
ヴィジュアル系バンドの人ですか?
「おひぃさん……じゃない、フウカさん。」
語り掛けると、不意に人差し指で口許を塞がれた。
そして、彼女は妖艶な微笑を浮かべ
「フウカ、と呼んでたもえ。」
と、至近距離で囁いた。
――グハッ!やめたげてー!残りライフがもうないのー!オレもう瀕死ー!
「フウカ。それで、何か力が手に入ったわけ?」
気を取り直し……というより、もう誤魔化しに近い感じではあるが、キリッとした感じに取り繕う。
内心フラフラ……てか、クラクラしてる。
だが!男には!やらねばならぬ時がある!
それは、今!武士は食わねど高楊枝ってやつだ!
「ふむ……。風と、氷……おそらく、名前に因んだものかと思うぞえ。」
「へー。リセット能力って訳じゃないんだ?」
何か思ってたんと違うってやつっぽい。
「そなたの能力を受け継ぐのであれば、この名付けでは不可能ぞえ。」
そういうもんなんだ?
よく分からんけど、名前に込めた意味とかの方が大事って事?
それで、母神様、あんなに名前に拘ってたのかな?
オレのリセット神能って、結構変わってる能力なのかな。
フウカやリンコが使ってた炎の神能は、確かにシンプルだもんな。そんで、"カグラ"と、名前もシンプル。オレの呪文みたいな名前とはずいぶん違うよな。うーん。
で、まぁ結局オレは、神力を使って、フウカに風と氷の力を与えたって感じなわけなんだな。ふーん。命名の儀式ねー。なるほど。
「で、姫。御満足頂けましたかな?」
「勿論ぞえ。」
と、いう事は、いよいよルビィの修行パートに入る訳ですな?
「じゃあ、ルビィの指導を頼める?」
フウカは、右手でそのたわわな胸をトンと打ち(プルンという効果音があるなら、絶対鳴ってた)
「あい承ったぞえ。」
と、気風の良さそうな事を言う。
いや、ギャップ……。そういう攻め方もするんだ?
いやまぁ、本人に攻めてるつもりは無いんだろうけどさ。
ルビィは美少女だが、ルビィだし、ソールフレイヤも絶世の美女だけど、母神だし、何かあっても動揺し過ぎる事は無いんだがなぁ。
フウカは……まだ慣れないなぁ。関係性なのか、雰囲気なのか……。何だろなぁ?
――その時、オレは重大な事に気付いてしまった!
前世では、女性経験もあったのだが……
新しい身体って事は……DTやんけ!
……落ち着け。まだ焦る時間じゃない。
ここではまだ、10歳だし、目が覚めて活動しだして、二日だ。
DTだろうが、何の問題も無い!いや、むしろ、そうじゃない方がおかしいだろ!
そう、実は確認したのだ。
前世でやった事無かったから、中々気付かなかったが、カメラ的なものがあるんだから、自撮りしたら今の姿見れるんじゃない?と。
で、やってみました。
――普通に少年姿だったのだ。
まぁ、手足が少し小さい気がしてたから、ある程度予想してたけどね。
デカいルビィ(あの時はまだ狼だった)と、一緒に写ったから小さく見えたってワケでも無かった。
確認した画面に映ったのは、亜麻色の髪の乙女……では無く、亜麻色の髪の少年だったワケだ。なんでやねん!
少し切れ長の奥二重の目が、辛うじて和テイストを残している感じがしなくも無いが……、泉に映った髪色は、まんまだった。光の加減じゃ無かったのだ。
母神様の髪色よりは、ちょっと暗めのトーンだし、瞳の色もグリーンなような、ちょっとブラウンなような、マーブルっぽいような不思議な色をしていた。何ていうんだっけ?ヘーゼルアイ?
そもそも、創造の神能で創られたオレが、母神様の遺伝子っての、受け継ぐ感じで生まれてるのか謎だから、似てなくてもまぁ、別に不思議は無いんだけど。
てか、神族って、遺伝子あるんだろうか?どういう原理で繁殖するんだろ。まぁ、今はいいか。そんな予定ないしな。
とにかく。今のオレは、日本人だった感がほぼ無い見た目に変貌していた。ただ、自分でいうのもなんだが、わりと美少年だと思う。前世の姿は思い出せないけど、おそらくは神族となって、大分グレードアップしてそうな気がしてる。
成長スピードや老化スピードがどんな感じなんだか分からんけど、きっとそれなりのイケメンになれるだろう!
だから、早く美女耐性付けないとな!
今生では、自由に、いい感じに生きて、幸せになるのだ!