1.12話 風呂に入りたい件
ジレイ(と、デカい大猪たち)に送ってもらい、一路神泉の森へ。
てくてく歩いた行きと違い、あっという間に森へ着いた。
大狼族と、一悶着あるかな?と、少し不安ではあったが、負傷者も元通りだし、ジレイもしっかり詫びを入れたので、特に大きな問題は起きなかった。
勿論、オレやおひぃさんからの補足説明はあったけどね。
あのヤバい神具も見せたしね。
ちなみに、オレたちが到着した時、ロブレートはやっぱり割れ目の前に居て、大猪族を見るなり牙を剥いていたけど、その後シンザーリルが貫禄をみせていた。しっかり諌めるとは、さすがの長である。
シンザーリルも、今回は呼ばれる前に出て来てたしな。
大猪族の足音は、とても目立つ……というか、耳に付くらしい。まぁ、煩いよね。デカい斫り機みたいな音だもんな。そりゃ気付くよね。大狼族、耳良さそうだしさ。
「今回の事は、誠、助かったぜよ。
ワシらぁで役に立てる事があったら、遠慮のう言うてくれ。借りは、きっちり返すきに。」
と、言い残し、ジレイは山へ帰って行った。
山の食料事情は結局のところ未解決だし、今後は種族間の交流を深めていく方針に纏まったらしい。幸いなことに、神泉の森では食料問題とは無縁の状態らしいからな。
ま、神頼みよりは近所の親切な人に頼った方がいいよな、とは思う。
少なくとも、前世ではそうだった。と、オレは思うんだが……。まぁ狂信的な輩はいたか。
その辺り、この世界の常識ってどんな感じなんだろう。
親族より神族!みたいな事、あったりするのかな?
まぁ、神が身近に居る?世界なワケだしな。それならそれで、不思議は無いのかな。
何はともあれ。
大猪のスピードは、中々速かったし、問題もスムーズに解決した。最初はどうなるかと不安だったが、思ってたより、早く戻れそうだ。
戻れそう……なんだが。
大猪は、質量がデカいからか……乗り心地はあんまり良くなかった。
頭の位置より背中の位置の方が高いって事も、関係あるかもだが。
まぁ、乗り心地に関しては、そもそもオレの騎乗能力が低いだけかもだけど。
前世で生き物に乗った事といえば、乗馬体験くらいしか無いしな。
しかし……、しかしだ。
大暴走してた時にも、チラッと思ってたけど。
乗ると、しっかり実感した。
大猪は、走り方が……埃っぽい。
埃っぽいんだ。
なんというか、柔軟性が無いというか、クッション性皆無で……非常に振動が伝わるし、ドタドタとした感じなのだ。だからなのか、埃を巻き上げまくる。舞い上がった土煙の中を進んで行く感じなのだ。服やら髪やら何なら目や鼻や口にまで、お焚き上げのように埃をトッピングしてきやがる。もう気分は五里霧中さ!
……とても汚れた気がするのだ。ワタシ、汚されちゃった。ってやつなのだ!
つまり、風呂入りたい。
あと、大猪には、もう乗りたくない。いや、もう乗らない!
え?フリじゃないよ?ガチのヤツだから!フリじゃないよ!求めるはフロ!フロだよ!
「おひぃさん。神狐の郷に風呂とかあるかな?」
というわけで。転移石に向かう道中、セクシー狐に訊ねてみる。
「……?フロとは?なんぞえ?」
「えっ……?」
「ん……?」
――見つめ合う二人……
時は、その歩みを止めたかのように、静寂を奏で……
じゃねーわ!
オレは視線でレーザービームは撃てねーよ!
いやぁ……、魔性だなぁー。なんか吸い込まれそうですわ。
金色の瞳って、見慣れないからかな?ちょっと耐性が足りない気がする。
「いや、あの、温かいお湯を溜めて、浸かる感じの……。
温泉とか、風呂とか、無いのかな。」
「浸かる……?」
「そうそう。それで、身体をキレイに洗ったりね。疲労回復効果もあるし……」
「湯に……浸かるのかえ。変わっておるの。何の罰じゃ?それは。」
きょとんとされた。なんだよ、その顔。初めて見たよ。その金の瞳、そんなに丸くなるんだね!
えぇー?てかさぁー、和風っぽい服装して、和風っぽい建物なのに?風呂文化無いのかぁー。なんでだよー!異文化過ぎるだろー!大体風呂は罰じゃねーよ!それは釜茹での刑だよ!
日本人といえば、だよ?世界の人々から、狭い家に住んでる割に、湯槽のある風呂をわざわざ作る不思議民族って、揶揄されるくらいの風呂好きなんだぞ!
毎日風呂入るのが、当たり前なんだぞ!
温泉の素とか入浴剤とかも豊富にあるし、シャンプーやらリンスやら、ボディーソープやらも、凄まじく種類が多いんだぜ!
お風呂で遊べる玩具もたくさんあるし、果てはお風呂にテレビが付いてたりとかするんだぞ!
ジャグジーとかめっちゃ気持ちいいしな!
それに、自宅風呂だけじゃなくて、銭湯や温泉施設はもっと凄いんだぞ!
もう殆どアミューズメントなんじゃないかってくらいの所もあるんだぞ!
まぁ、オレとしては、景色の綺麗な露天風呂が一番なんだけどな。
天は望月、星は瞬き。湧き出る温泉、脇に清流。せせらぎに蛍舞い、虫唱う。あれは最高だったなぁー。秘湯って感じだったなぁー。帰り道、ちょっと遭難したしな……。
いや、まぁ、そんな事はいい。過ぎた事だ。というか、前世だ。
とまれ、どうやら生活環境が変わり過ぎたようだ。
よし。いつか、家を建てるなら、風呂も作ろう!
それがいい!
いや、チャンスがあれば、温泉を作るのも有りだな!
「さ、戻ろうかえ。」
風呂に思いを馳せている間に、転移石前へと到着していた。
「熱い水ならの、火の民の地にあると聞いておるぞえ。いずれ行くが良いえ。」
おお?それらしきものがあるのか!?
それは俄然楽しみになってきたなー!
「行たるは、神狐の郷」
――目の前の岩が、二回り程大きくなる。
神狐の郷だ。
眼前に広がる光景は、和風っぽいんだけどなぁ。
注連縄を巻かれた巨大な岩といい、石畳に、白い砂利敷きといい、あの朱色の大柱も……
神社だろ!と、言いたくなるな。
だが、神狐の郷には、風呂が無い。
まぁ、無いものは無いんだから、仕方ないね。
というわけで!汚れは"リセット"する。
やっぱ、便利だな!この能力。風呂にありつけるまでは、これで耐え凌ぐとしよう。