1.9話 あったらいいな!を形にしました。転移装置とかいう便利な機能をご紹介!
大猪族の件を同行すると言い出したおひぃさん。
カランコロンと、小気味よい音を響かせ、階段を降っている。
その白木の下駄は、歩きやすいのか? と疑問に思わなくも無いが、まぁいいか。
ここの雰囲気にはバッチリと合っている。
それに、それにだ。
巫女装束の嫌いな日本人男子は、居ないだろう。
神聖な雰囲気で、セクシーさの無いあの衣装は、背徳感を煽るのだ。
それが逆に興奮を誘うのだ……!
然し、然しだ。
今、目の前に居るその衣装に包まれている存在が、あまりにも妖艶過ぎて……妙にしっくりと似合ってはいるのだが……
なんというか……セクシー系のコスプレイヤーみたいだ。
なんだろう。この気持ち。
上手く言い表せない。
コレジャナイ感と、アリガトウゴザイマス感が、綯い交ぜだ。
「ここぞえ」
下らなくも大事なことを考え込んでいたら、九尾が足を止めた。
え?
大事なことだよね?
てか、ココ、注連縄岩だ。
……んん?
大猪族の所に行くんじゃなかったのか?
何故、注連縄岩?
「大猪族のところ行くんじゃないんですか?」
「うむ。これなるは、転移石ぞえ。今は……三箇所ほどなれば、転移出来るのぞえ。」
「転移ですか?」
ほう。便利そうだな。流石異世界。やっぱりそんなのあるんだな。どんな仕組みなんだろうか。
それに、三箇所限定らしいが、どこへ行けるんだろう。
どこでも行けるってわけじゃないんだな。
うーむ。
どこでもドアって欲しいよなー。
てか、欲しかったよ。前世で。
交通費って、馬鹿にならないもんな。時間も無駄にかかるしね。
ま、行けるのが三箇所って話でも、長距離を即移動出来るなら上等過ぎるよね。
「こたびは、神泉の森へ転移するぞえ。」
へー。行けるんだ?
ここに来る時は、走ってきたけどね。
まぁ、走ったのは、主にルビィなんだが。
てか、こんな便利なものがあるなら教えといてくれよ……。シンザーリルさんよー!
いや、まぁ、色んな風景も見れたし、魚も美味かったからいいか。
そういう旅の醍醐味的なのも大事だよな。
ルビィが変身した件は、ちょっと困ったけど、それもパワーアップになるなら、結果オーライなのかな。
九尾は、巨岩の前に立ち、手を触れる。
すると、岩の中央辺りに何やら模様が浮かんでくる。
「傍へ寄りゃえ。もそと近う。」
九尾はこちらを見据えてすっと腕を伸ばす。
その仕種、そしてその腕、爪の先までもが蠱惑的で、なんとも艶めかしい。
あと、表情がヤバい。扇情的過ぎる。
なんというか、眼福……を通り越している。
こんな人……前世ではお目にかかった事無いぞ!
耐性が……悲鳴をあげている!
言われた通り、傍に行くと、その伸ばした腕を、するっと腰に回してきた。
ふわりと花の様な香りがした。
えっ……あ、ちょっ……まっ……
「行きたるは、神泉の森。」
軽く魂が抜けたような……自身の存在感が振れた気がした刹那、周りの風景が変わっていた。
目の前には、先程の注連縄岩よりふた周り程小さい岩。
そして周囲は、間隔が広い木々。
……おぉ。見覚えがある。神泉の森っぽい。
これが転移石か。すごいな……。
「大狼を訪ねるとするかえ。」
オレが呆気にとられている間に、九尾は勝手知ったるといった風に歩き出す。
こういう行動を見てると、"お姫様"というより、リーダーって感じがするな。
まぁ、お姫様って実際に見た事は無いのだがな!
「お、そうだ。」
ふと思い立ち、神スマホを取り出し、地図アプリ的なものをポチッとな。
神泉まで、200メートル程か。近いな。
このアプリ的なもの、勝手にマッピングしていってくれるらしいから、活用しないとね!
っても、あの人どんどん先行ってるけど。
カツコツと音を立てている九尾の後を追う。
少し歩くと、見覚えのある、白い岩肌が姿を現す。
その割れ目の前に、例の黒い狼が。
「……こ、これは! おひぃ様。わざわざ御身で。」
「うむ。あー……、黒いの。息災かえ。」
……名前、思い出せないのか、知らないのか。
まぁ、黒い、よな。あいつ。黒い。
「は。御覧の通りで――。
族長をお呼びしまする。お待ち下され。」
「うむ。」
あの黒狼が、何だか恭しいな。そんな感じなのか。
まぁ、"神"狐の民だもんな。大狼族、よりは格式高くても不思議はないか。
そして間を置かじと、シンザーリルが姿をみせた。
「おひぃ様。お久しゅうな。」
「シンザーリル殿、息災かえ。」
「そうですの。先立っては、そちらのレイリィ様に世話になり申してな。我ら大狼は救われ申した。
して、レイリィ様。ルビィの姿が見えませぬが……」
シンザーリルはキョロキョロと周りを見渡している。
この世界に於いては、ルビィの実祖父だけあって、やはり心配のようだ。
今生のルビィは、恵まれていたようで、何よりだ。
そういえば、ルビィの両親って、どんな感じなんだろう。そのうち機会があれば、聞いてみようかな。
「ああ、ルビィは、神狼になったみたいで。
急な神化だったからか、今ちょっとダウンしてる。神狐の民に預けてあるから、大丈夫。」
「……なんと! 神狼とな!」
シンザーリルは、目が飛び出るんじゃないかというくらい見開いた。
やはり大狼と神狼では、だいぶ違うって事なんだろか。
「そうぞえ。こなたが、手解きを頼まれたのえ。」
「なるほど……。それは重畳。ではおひぃ様、ルビィをよろしくお頼みしますぞ。」
シンザーリルは、目を細めて嬉しそうだった。
まぁ、この九尾、只者じゃなさそうだもんな。
「して……御二方は何故こちらへ?」
おお、そう、それだよ。
大猪族のところ行くはずだったよな?
ルビィが寝てるから、戦力でも借りに来たのかな?
「うむ。チョモラ山へ向かう途上での、久方振りに訪れただけぞえ。こちらからの方が近い故のう。」
単純に近道だったのか。なるほど。ついでに挨拶したわけね。
「なんと。大猪族の元へ、御二方で向かわれるか?」
「そうぞえ。」
「うーむ……。話し合いでは、済まぬと思うが……。
ならば、ルビィの代わりに、ロブレートをつけましょう。ルビィ程では無くとも、腕は立ちますぞ。」
「いらぬえ。レイ殿にも、存分に働いてもらうゆえ。こなたらに任せるえ。」
あ、そうすか。
まぁ、極力争いは避ける方向でいきたいもんだな。
「むう……。左様ですか。……御無事を。」
お見送りしてくれるシンザーリルは、複雑そうな表情をしていた。まぁ、怪我人たくさんいたもんなぁ。
「さ、参ろうかえ。」
蠱惑的で小悪魔的な笑顔を向けてくる九尾。
あー……。
その笑顔は、なんというか……違う所に連れて行かれそうデスヨ。
そうしてオレたちは大狼族の元を後にした。