表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/115

1.8話 神狐の姫

 

「御目通りの間に行くぞえ。」


 石畳の廊下を、てちてちとリンコが先導する。


 脚の動きに合わせて左右に揺れる、ふさふさしたしっぽを眺めながら付いていく。


 振子のように揺れる金色のしっぽは、神々しいまでの輝きを見せ、オレを誘惑してくる。

 アレは、きっとモフりヘブンだろう。そんな気がしてならない。


 その揺れるしっぽを見ていると、ふと思い出す。

 昔、狐飼いたいとか思ってた時期があったな、と。

 結局、実現はさせれなかったのだが。


 そういえば、ルビィが大人しいなと思って背中を見たら、寝ていた。やっぱり疲れてたのかな。


 急な変化ってのは、色々と負担がかかるもんだよな。

 季節の変わり目は風邪ひきやすいしなぁ。

 早いとこ、馴染めるといいのだが。


 しかし、この建物も、扉というものがないな。

 やたら長い廊下の所々に、部屋への入口らしきものが点在しているが、扉的なものが一切見当たらない。


 大狼族の洞窟にも、扉は一切無かったよな。

 この世界には、扉という概念が無いのか? 技術が無いのか? 謎だ。


 お? リンコ、止まったな。


「おひぃ様。リンコ、只今戻りましたえ。」


 リンコが、一際広そうな部屋の前で立ち止まり、中に向かって声を掛けた。

 まぁ、扉が無いから、ノックは出来ないわな。


「お()りえ。」


 中から、美しく澄んだ声がした。


 しかし、ただ綺麗な響きという訳でもなく、頭の中に重く響く様な、中々のプレッシャーを感じる。


 リンコに続いて中に入ると、広間の様になっていた。


 その広間の奥の方には、石の台? があった。


 その上に、金色の瞳をした、大きな白銀の狐がいた。


 その狐は、所謂(いわゆる)伏せの姿勢をしていたのだが――リンコの三倍くらいありそうだ。


 そして、ふさふさのしっぽが……たくさんある。

 いち、に、さん……九本。

 モフりヘブンをいきなり超えてきた。ヘブンがフィーバーしてやがる。なんという事だ! あのしっぽ郡に包まれてしまったら、どんな事になってしまうのだろうか……。


 想像を絶するとは、まさにこの事!


 魅惑のしっぽに目を奪われていると、九尾の狐が声を発した。


「神族かえ。」


 九尾の狐は、"おすわり"の姿勢になり、金色の瞳をこちらに向けた。


 その澄んだ声は、さっきよりも幾分か柔らかい。


「はい。アズ神族ニルヴァ、レイリィ・セトリィアス・ミデニスティースです。長いんで、レイとでも呼んでもらえれば。」


「レイリィ・セトリィアス・ミデニスティース殿かえ。よう来られたえ。

 こなたは、神狐の民の長。皆からはおひぃと呼ばれておるぞえ。

 名は、故あって明かせぬぞえ。許したもえ。」


「そうですか。おひぃさん。よろしく!」


 軽く会釈をする。


 九尾の狐は、あまり警戒した様子は無かった。

 お願い事も、聞いて貰えるかも。


「大猪族の件で来ました。ですが、他にもお願いが出来てしまって。」


 九尾の視線が、ルビィに注がれている。そして、一瞬何かを悟るように、目を伏せた。


「ふむ。その背の娘の事かえ。神力を授かったかえ。」


 おお? 鋭いな……というか、分かるのか。

 見た目通りの実力者って事だな……。


「神食を与えたら、何故かこんな事に……。」

 事の経緯を簡潔に説明する。


 九尾の狐は、すくっと立ち上がり、語り出す。

 その立ち姿は、堂々として、神々しいまでの気品が感じられた。


「神狐の民はの、その昔、初代が火の神より神力を賜ったのえ。

 以来、その力を代々受け継ぎての、こなたで九代目ぞえ。

 なればの。そこな神狼の娘に手解きは(あた)うぞえ。」


 そして、優雅にこちらへと歩み寄りながら、言葉を続ける。


「但し。条件が二つあるぞえ。」


 そう言うと九尾の狐は、白、金、銀、朱などの多色の光彩を放ち、煌めく粒になった。


 そして再び形を成していくそれは、徐々に人型に集まる。


 おぉ、これが変身能力か。


「まず一つ。こなたも大猪の件、同行するぞえ。」


 ドヤ顔で台詞を決めた、九尾の狐だったはずのそれは……全裸の美女に。


 またこのパターンか!


 例の如く、頭には大きな狐耳。そして、しっぽがある。しかも九本。モフりヘブンがフィーバーだ。

 頭髪は、さらりとしたロングで、白銀をベースに、朱色が所々アクセントになっている。

 瞳は金。少しつり目がちで、勝気な印象を受ける顔立ちは、可愛いというより、美人と言わざるを得ない。

 豊満でいて、均整の取れた肢体は、どこぞの女神様を彷彿とさせる。

 だが、薄紅をさしたかのような頬と、白粉を塗したかの様な白磁の肌は、和風の新婦か花魁か、といった様相で、その醸し出す雰囲気は、妖艶さを纏っている。

 見た目年齢は、24、5歳といったところだろうか。


 ……なるほど。


 しかし、オレには確認しておかねばならぬ事がある!


「あの、同行はいいとして。

 ……その格好でですか?」


「不服かえ?」


 九尾よ、キョトン顔するな! 不服ってか、アンタ無服だろ! 獣族、恐るべし……。


「そこな娘、ルビィ……というたかえ。

 リンコや。神狐の間へおやりゃえ。神力が尽きかけておりようぞえ。」


 少し離れて控えていたリンコが、金色(こんじき)の光の粒になる。


 まさか……。


「承知しましたえ。」


 人型に集まった金色の粒は、金髪金眼狐耳しっぽの全裸美少女に。


 やっぱりな! そうだと思ってたよ!


 変身したリンコは、ルビィを抱えて歩いて行った。


 全裸で。


 もうさ、こいつら……獣族ってか、裸族なんじゃ……。


 え……?


 まさか……服無いのかな? ここにも。


 ちらりと自分の格好を確認する。


 うん。おひぃさんに渡す分とか、もうないぞ。腰布を装備してるだけの、立派な半裸だ。


 第一、この腰布は、オレの最後の良心……。

 これを取ってしまえば、何が起こるか分からないんだぜ……?


「さ、参ろうかえ。」


 ふいと妖艶な笑みを浮かべ、おひぃさんは、てちてちと歩き出す……なよ!


 どこ行くんだよ! 風呂か? 風呂なんだな?!


「え、服とか、ないんですか?」


「……無くはないぞえ。」


 お、あるのか。

 じゃあ早く着ておくれよ。焦らすんじゃあないぜ……。

 裸族の星に落とされたのかと疑ったじゃないか。


「ふむ。」


 九尾は、右手の人差し指を立て、頭上に掲げた。

 すると、指先に火が灯る。

 その火は、みるみる大きくなり、一瞬パッと閃光を放ったかと思うと、赤い粒となって、ゆっくりと舞い降り、九尾を包んでいく。


 徐々に形作られていくそれは、白衣(しらぎぬ)緋袴(ひばかま)を成した。


 巫女装束……!


「神狐の長に、代々受け継がれる神具ぞえ。

 この神具はの、こなたの神力を高めるのえ。」


 そう言って、九尾は少し得意気な笑顔を見せる。


 え……?


 この世界での服って、まさか……そんな扱いなのか?


 えぇ……。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ