1.7話 ちょっぴり和風だった件
「うぅ……。まだみみがキーンってするよぅ……。」
すまん、ルビィ。
あのアプリ、まさかあんな大音量だとは。正直オレもだいぶ吃驚した。
蟷螂を撃退するにも微妙だったし、正直使い所が分からんな、アレ。
地球だと、子供とか女の子とかが使うような感じだよな?
この世界だと、痴漢とか居そうな感じしないんだが……。
それとも、人族の世界用なのか? うーん。
ルビィは、耳へのダメージが残っているようで、まだ蹲っている。耳が良いのも大変だ。
ま、封印だな、あのアプリ。
それはそうと、喋る狐が助けてくれたようだ。
神狐の民なんだろうか? 大狼族も喋ってたしな。
まぁ、分からんけど、助けてくれたお礼は言っておかないとだよな。
「あー、狐さん。とにかく助かったよ。ありがとう。」
「なに。礼には及ばぬえ。こなたも、丁度見廻りの最中での、近くにおったのえ。
そも、そなたら、何故このような所におるのえ?」
「オレはレイリィ。レイリィ・セトリィアス・ミデニスティース。アズ神族のニルヴァだ。後ろで蹲ってるのはルビィ。大狼族。よろしく!
オレ達は、大猪族の件で、神狐の民を訪ねるとこでさ……。」
金色の狐に、手短に説明する。
「ふむ。」
くるりと身を翻し、金色の狐はてちてちと歩き出す。
「案内致そうかえ。こなたは神狐の民、リンコぞえ。」
うーん。喋り方独特だな。方言的な感じだろうか。
方言はいいよなぁ。なんというか、とても魅力的だ。
他地域の可愛い娘とかが方言を使ってるのとか、とっても良かった。そんな記憶があるな。
「ルビィ、乗りな。」
動けそうにないルビィをおぶって、リンコの後をついていく。
あと少しで着くらしいから、それまでくらいはオレの体力も、なんとか持つだろう。
そこまで疲れてる感じもしないしな。
「わぁー!ボスにだっこ、ひさしぶりだー!」
ルビィよ、抱っこじゃない。おんぶだ。おんぶは、初めてだぞ。犬の時におんぶした覚えはないぞ。
ルビィの説明で要領を得なかった事を、リンコに聞いてみる事にする。
「リンコさん、さっきのデカい蟷螂は、なんなの?」
アレは中々の体験だったな。
少なくとも、前世では経験した事無かったし、あのまま長生きしてたとしても、経験する事は無かっただろう。
そもそも、地球の環境では昆虫のサイズは、あまり大きくなれないらしいしな。
「リンコはリンコぞえ。リンコサンでは無いぞえ。
先刻のあれは、モディリスカぞえ。火に弱いのえ。」
「おけー、リンコ。
そういえば、リンコは火を出せるのね。なんで?」
「神狐の民で、力強き者は、火の力を操れるぞえ。
詳しくは、こなたは語れぬ故な、おひぃ様にお訊ねしえば良き。」
おひぃ様……。御姫様? 神狐の民って、ちょっと和風っぽいな。
それに、火の力ね……。
やっぱり普通の火じゃなかったんだな。
まぁ、あんな蟷螂だけを綺麗に燃やし尽くす火なんて、明らかに普通じゃないしな。
「そら。もう着くぞえ。」
「おぉ……。」
蒼深き森の木々の隙間に、赤い巨大な石柱が二本、堂々とそびえている。
門柱の様な配置のそれは、元日本人の感覚としては、鳥居の柱部分の様にも見える。
ただ、笠木や島木は無いので、鳥居そのものという訳では無いのだろう。
だが、意味合い的には似た部分はあるかも知れないな。
「ここぞえ。これよりは、こなたらの地ぞえ。」
二本の石柱の間を抜け、奥へと進む。
広場の中央に、これまた巨大な岩があり、注連縄らしきものが巻かれている。
更にその少し奥の左右には、赤い柱、白い壁の平屋造りの建物があるが、残念ながら瓦葺屋根では無い。
黒っぽい一枚岩の様に見える。切妻や寄棟造では無く、片流れになっている。
木造建築ではないのが残念だが、それでも配色的に、神社なんかのイメージに近い気がする。
厳かな雰囲気だが、元日本人としては、親しみを覚えるデザインだ。
「惚けておらんと、早う来りゃえ。」
おっと。後で撮るか。とりあえずおひぃ様? に撮影許可貰わないとな。撮影禁止マークは無いけどさ。
リンコに促され、歩を進める。
建物の間を抜け、更に進むと、小高い山に続く道が造られていた。
坂は階段になっている。
そこそこ長い階段を登っていくと、立派な門構えが見えた。
その門は、門柱と笠木らしきものはあるが、門扉は無い。
そしてそこから延びる長大な塀は、広々とした庭と屋敷か城かというサイズの建物を囲っている。
その建物は先程下で見たものと同じく、平屋造りではあるが、昔見た二条城の様に広い。
そして、やはり赤い柱と白い壁で構成されていた。
各所の屋根も、ほぼ片流れの様だが、正面奥の一際大きな部分の屋根だけは、中央が高くなっていて、切妻の様に見える。
門柱の両脇に、それぞれ赤い狐が侍っていた。
「リンコ様。お戻りですかえ。」
「うむ。大狼の遣いぞえ。おひぃ様に御目通し致すぞえ。」
なんか、大狼族より格式高いような……上品な感じのやり取りだな。
こういうのは、ちょっと苦手だぞ。
オレ、ど庶民ど平民デスヨ。
赤い狐達に、ぺこりと会釈だけして、リンコの後を追う。
建物までは、門と同じ幅で黒い石畳が綺麗に敷いてある。
そこ以外は、白い砂利敷きか。美観と防犯を兼ね備えた仕様だな。和庭園っぽくて、中々良い。
ただ、惜しむらくは、松とか有ればもっと雰囲気出そうだ、というところ。
とはいえ、森の中では松らしき植物は見掛けてない。
この世界には、無いのかも知れないな。
建物入口前に着くと、その両脇にも、赤い狐がそれぞれ侍っていた。武家屋敷か。
リンコが赤い狐達と、先程と同じ様な問答をして、建物の中に入る。
中は、木造や畳では無かった。やっぱり石畳。
うーん。
もしこの先、家を造る時がきたら、内装は木にしたいな。
憧れの和風建築……というか、お城の様な外観にしたいと思う。
とはいえ、建築とかその辺の知識や技術は無いから、実現するのは大変そうだがな……。