表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/114

1.6話 蟷螂と狐

 

 うっかり狼のルビィを狼耳美少女(神化)にしてしまったオレ。


 あの大きかった背中には、ひとまず乗れなくなった。


 だが、目的地はもう少し先だ。

 とはいえ、狼のルビィはかなり速かったから、恐らくはもうそんなに距離は無いだろう。


 それにしても、急に身体が変化したルビィは、慣れない二足歩行に、足取りすらも怪しいが……。

 まぁ、そりゃそうだよな。

 無理せずぼちぼちと進むしかない。


 そんな風に沢を越えて森を進む、簡素な白布に身を包みきれていない半裸の二人。二神? 二柱? 前世だったら、かなり強烈な絵面だが……。


 うん、まぁ、こっちでは、標準かも知れない。

 周りは太古の森って感じだし。縄文時代だとでも思えば、ね。普通……のはず。知らんけど。


 うーん。

 とはいえ、神狐の民に着る物とか履くものとか、もらえたらいいな。

 さすがにこの格好のままでは、防御力が低過ぎる!色んな意味で。


 そういえば、半裸のわりに不思議と虫刺されとか無いけど、この世界、虫はいないんだろうか?


 虫は別に好きじゃないから、いないならいないに越したことはないのだが。


 いや、むしろいない方がいいな!

 Gの付くアレとか、特に要らないよな!

 もうなんというか、奴等の存在が恐ろしいもんな……。



 ――ガサッ


 前方の茂みが、不意に動いた。


 そしてそこから、1mはあろうかという鎌状の何かが覗いた。ゆっくりと前進してきたそれは、行く手を阻む様に、こちらを見据える。

 その――緑の逆三角形をした顔付きは、前世で見た事があった。


 うーわ。なんか出たよ。蟷螂(かまきり)? 虫、いるのかー。


 でも、こいつ……3mくらいあるぞ?

 おいおい、デカ過ぎんか? 勘弁してくれよ……。


 その巨大な蟷螂は、顔、鎌、そして上半身上部は緑色をしている。それ以外の下半身や胸部などは、濃さの斑な茶色だった。


 保護色なのか、狩りの為の擬態なのか……。

 じっとして構えていれば、樹木の様にも見えた事だろう。


 そんな謎の巨大生物が、こちらの様子を観察するようにして、少しづつ距離を詰めてきていた。



「……ルビィ、アレなに?」


「えーと、もでりす?」


「そうか。まぁ、ソレはいいや。

 で、こっち見てるよな、アレ。」


「みてるねー」


「勝てるかな?」


「んー。いつもならー」


「そうか。じゃあ走ったら、逃げ切れるかな?」


「ルビィ、はしれないよー」


「ん。だよな。おけー。」


 そうだよなぁ……。

 只今絶賛半裸美少女だもんなぁ。


 初の二足歩行でまともに動けないのに、強いどころかって話だ。


 ルビィには期待出来ないし……というより、むしろ護ってやらねばって話だわな。


 とはいえ、武器っぽい物は、杖代わりに拾った木の棒のみ……か。


 うん。困った時は、神スマホ!

 って事で、杖代わりの棒を、右手で中段に構えつつ、アプリ的なものを一通り見てみる。


 うーん。何があったんだっけー……。


 通話、着火、撮影、地図、方位計……。

 お? サイレンってなんだ? サイレントじゃなく?


 使えるか?!

 とりあえず、ポチッとな。


 ヴィーン!ヴィーン!ヴィーン!

 ――耳を(つんざ)くサイレン音。


 防犯ブザー?!


 あまりの音量に、ついスマホを落としそうになった。


 デカい蟷螂を見れば、鎌を振り上げて威嚇のポーズを取っていたが、ジリジリと後退していく。


 効果はバツグンだ! とまではいかないが、この隙に逃げれないか? と、ルビィを見たら、耳を押さえて蹲っていた。マジか。


 仕方ない。


 ルビィを抱えて逃げるのは、ちょっと無理だ。

 どこまでやれるか分からんが、戦うしかない!


 よし! 覚悟は出来た。

 サイレンを止め、棒を両手で構え直す。


 ジワジワと前進し、動けないでいるルビィとの距離を空け、蟷螂へと近付く。


 蟷螂は鎌を拡げ、上段に構えている。

 あの体躯なら、振り下ろしは、速いんだろう。

 地球のと同じパターンで動くとすれば、鎌で挟まれる事もあるかもな。


 ここは、回り込んで……


「うぉっ! 危な!」


 ピュっと風切り音がしたと同時に、棒が半分になっていた。


 マジか、こいつ。地球のと全然違う! 主に切れ味が!


 木の棒の切り口が、物凄く綺麗だ。

 目の細かいサンドペーパーで仕上げたかのようになっている。

 誰が光沢仕上げにしろって言ったんだ。もっと遠慮してくれ……。

 これ、身体に当たれば、当たった部分は無くなるだろうな……。ヤバ過ぎるだろ……。


 こうなったら、卵に戻す!

 無力な状態までリセットするしかない!


 何とか死角に回って触れないと、転生早々THE ENDだぞ……?


 よし!

 ブンっ! と棒を投げ付ける。

 蟷螂は、投げ付けられた棒を、鎌を戻してガードした。


 ――いける!背後に走り……

狐炎(こーん)!」

 こん……で……?


 燃えとる! 蟷螂燃えとる! えぇぇ……?! なにごと?


 隙を突いて背後に回り込もうとした刹那。


 巨大な蟷螂は、金色の炎に包まれ、細長い手足や鎌を振り回し、バタバタと(もが)いていた。


 そして、直ぐに力尽きたのか、そのまま崩れ落ちる様に地面へと倒れ込んだ。


 発声器官が無いのか、断末魔は無い。


 しばらくすると、ブスブスと音を立てて、炎は燃え尽きる。

 そしてその跡には、ボロボロの黒い炭の破片の様なものだけが残っていた。

 それは、一つ一つが随分と小さく、とても"巨大な蟷螂だったもの"とは思えなかった。


 ずいぶんと火力の高い炎だな……。

 普通の火だとは思えない。急に何が起こった……?


「大事無いかえ?」


 目の前の光景を、狐に摘まれた様な心持ちで、茫と見入っていると……


 どこからか、涼やかで凛とした声がした。


 ハッと我に返り、問い掛けに応える。


「あー、はい。無事……です。」


 ルビィは……まだダメそうだな。

 振り返って確認すると、まだ耳を押えて小さくなっていた。


「なれば駆け付けた甲斐もあったぞえ。」


 ふわっと中空に光が集まったかと思うと、それは眩い金色(こんじき)の狐になって目の前に降りた。


「先刻の大きな音は、そなたの仕業かえ?

 何事かと思うたえ。」


 凛々しい佇まいの綺麗な狐が、安堵した様子で、こちらを伺う。


 ……しまった、撮れば良かった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ