表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

秋の桜子の物語集

寒い日

作者: 秋の桜子

 雪降る前には風が来る。



 ヒュゥゥゥという音が当てはまる風、マフラーを忘れた、今日。耳が切れそうな冷たい風が、進行方向から嫌がらせの様に向かってくる。


 すっかり習慣となった不織布一枚が、結構な防寒対策になっていると、思うこのごろ。目から下を覆うのはかなり具合が良いのだが、目に染みる冷たさは避けられない、滲みる冷たさは涙目を誘う。


 ヒュウゥゥゥ


 一層強く風。合わせて、


 クゥ~。


 声が漏れそうになる。首を竦めた。マフラーを忘れた事を大後悔。首元を温めるって、案外保温効果があったんだと実感。


 靴の中で足先がジンジン冷えて来た。家に居てこたつでぬくぬくしたいと、切実に願いながら先に進む。


 髪は風に乱され、冷たくひえてボサボサ。幼い子どもの毛糸の帽子が目に入り、少し羨ましくなる。すっぽり被っている。耳たぶは帽子の内側に。


 耳たぶが痛い。そこに低温が集中するような気がする。そして温かい部屋に入ると痛痒くなる。今はとっても冷え冷えしてると主張。


 毛糸の手袋はしている。でも……。


 毛糸よりもフリースの方がマシか、網目の隙間から結構な外気が忍び込んで来る気がしている。指先が冷たいと言い出している。


 何時ぞやスノボーに行った折のミトンを思い出す。

 あれはぬっくぬく。


 だけど街ではめて歩く勇気は無い。


 そういや靴下。もう、一枚重ね履きをするべきか。着膨れてコロンコロンしていた、田舎の祖母がやっていたみたいに。でも。


 朝から幾枚も重ねて着替えるのは、とてつもなく億劫だし、洗濯物が地味に増えるし、自分はまだ若いと思ってるから嫌だ。一応、男子だし。なんか変なこだわり。


なのでこれもそれも今の寒々は、マフラーを忘れたからだということにしておく。



 ヒュウゥゥゥ



 革靴の中。かじかんだ足元を風が抜ける。ペットボトルがコロカラ転がる。


 チラリと、鼻先に落ちてきた一片。雪。  


 ああ、降ってきた。今日に限ってフードが無い上着を着込んで来てしまった。後悔がぷくぷく、最大限迄膨らんで行く。


 チラリ、ハラリ


 視線を天に向ける。分厚い鼠色の雲、千切れる様に薄くなっている部分は白い雲、割れた隙間は青い空。そこから、ひとひら、またちらほら、白い存在。


 雲が空を覆いつつある、今夜は積もるのだろうか。春に降るしっとりとした羽根のような、はなだれ雪ではない。軽い軽い欠片が、フウワフウワと舞い始める。


 ヒュウゥゥゥ


 風が雪を舞わす。


 ――、風が音立て吹いて、空が鳴くと雪が降るの。


 昔、知り合いがそう話していたのを思い出す。


 小さなひとひらは、よくよく見るとカスミ草の花の様。天使が花園で摘んだそれを、ぷちぷち千切って花だけにしたのを、地上に向かって撒いているのか。


 花の名を知っていたのは、あちらこちらでよく見かけるから、知り合いに聞いたから。小さな花が集まるそれが、かわいいから好きだと言っていた。


 ハレの日に髪に飾り通り過ぎた知り合いは、今はどこで暮らしているのか。見上げる先は千に万に、重い雲から静かに落ちてくる白い存在。


 ヒュゥゥゥという音が当てはまる風、マフラーを忘れた、今日。耳が切れそうな冷たい風が、進行方向から嫌がらせの様に向かってくる。


 目に染みる冷たさは避けられない、滲みる冷たさは涙目を誘う。



 雪降る前には風が来る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて耳が冷たくなりました ><。 ……おお、寒い (;'∀') でも、面白かったです ^0^/
[一言] 身を切るような寒さと雪。描写がお見事です。 そして、お知り合いさんに対する妄想が捗りますねー!
[良い点] 寒さが沁み入りました。 [一言] 美しい文体。「ほうっ」とため息です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ