表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

交差点占い

 「絃ちゃん、なにかアイデアなぁい?」


 居酒屋「四つ角」の女将おかみが、カウンターの向こうで溜息ためいきいた。

 コロナでの御多分ごたぶんに漏れず「四つ角」も経営が厳しいらしい。


 滅多めったなことは言えないな、と思いつつコップ酒をあおり

「神様にでもすがってみるしかないかねぇ。」

こたえていたら、ふとひらいた。


 「そうだよ女将、辻占つじうらでもやってみたら?」


 辻占というのは夕方の交差点で、道行く人の声に耳を傾けるという、平安時代から続く占いだ。

 四辻よつつじは人通りも多いが、逢魔おうまときにはものや神も通る。

 有益な御神託ごしんたくが得られると、長く信じられていたのだ。


 女将はあまり気乗りしない表情で「ま、絃ちゃんが言うんだから試してみようかな」と頷いた。

「表に立っていればよいだけだし、店はひまだしね」


 数日後、「四つ角」の暖簾のれんくぐると

「あ、いらっしゃい」

と女将が、なんとも奇妙な表情で迎えてくれた。今日も他には客が入っていない。

「やってみたよ。辻占。」


 「どんなが出た?」とたずねると

「二人連れの男の人が通ってね。『全殺しだったな』なんて気味きびの悪いことを言ってたのよ。」

身震みぶるいする。

「そしたら、もう一人が私の顔をチラ見してね、『半殺しに、しとこうや』だって」


 思わずプッと噴き出して

「そりゃあ、御萩おはぎの話だよ」

と指摘する。

「半殺しは糯米もちごめを軽く潰したもので、全殺しは完全にもちにまでいたものさ。ホラ、昔話や落語であるネタだよ。方言ほうげんあるあるの一つだね」


 女将は「なあんだ」と胸をで下ろした。

「メニューに和菓子を加えとけ、ってお告げかぁ」


 「だろうね」と女将に相槌あいづちを打つ。

「軽く飲んだ後なら、甘い物を食べたくなるのはよく有ることだ。客単価が上がるだろうし、子供連れにも受けるんじゃないかな? 案外、的を射たお告げかもね」


 暴走車が突っ込んで来たのは、この時だった。


 店はメチャメチャに壊れ、私は女将と一緒に入院することとなった。

 二人して骨折の重傷だが、不幸中の幸いで命に別状はない。


 リハビリ室で顔を会わせた女将の顔は明るかった。

 「辻占、当たったねぇ。通ってたのは死神と疫病神だったのかも知れないけれど」

 そして「やってなかったら、私ら全殺しになっていたんでしょう? 生きているだけで、もうけものだよねぇ」と笑った。


 もうけたのは命だけではない。女将のふところには保険金と示談金、まとまった金が転がり込んだ。

 あの時、辻占をしたら? の替わりに「強盗でもやってみるか」なんて言わなくて、本当に良かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 通りかかった人たち、お菓子の話をしていたわけではなかったんですね。現代の和風ホラーという感じだなと思いました。
[良い点] これは上手い! 古典の知識や雅な言葉遣いを使いつつ、古くからの習慣を大切にすることで神様に助けてもらうという展開を、美しくまとめています。最後のオチも良いし。 事故という不幸な話なのに、何…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ