序章
202X年、格差社会はさらに深刻化し、かつてないほどの貧富の差を生み出した。
親の年収によって子供の人生が決まってしまうという状況になり、『親ガチャ』なる言葉まで生まれた。
そんな中で、最悪といえるのは虐待が趣味のような親もどきだ。
たとえば、この少年。アランは、その虐待によって殺された。父親には熱湯を浴びせられ、日常的に殴られていた。母親も父親を制止するどころか、一緒になって暴行していた。
しかも、泣き叫ぶアランを、スマホの動画で撮影し、ハハハと笑っていた。
ところが、アランの死後、この親もどきたちには、悲劇が訪れる。夜な夜な悪夢にうなされるようになり、そこには血まみれのアランが毎晩現れる。
「うわあああっ!」
そこで目が覚める。その繰り返し。
そして、虐待が発覚する。まず父親は無理矢理に家の中に踏み込んできた刑事に殴り飛ばされ、その弾みでタンスに頭を強打、そのまま死亡した。
しかしその刑事には何の処分も下らず、むしろ適切な判断として評価され、表彰までされた。
母親はそれを聞いてますますノイローゼになった。もともと育児ノイローゼだったことが一因だったともされたが、母親はその後、留置所内で首を吊り、自ら命を絶った。
その両親を、マスコミは更に叩き、ネットでも誹謗中傷が絶えなかった。
さらには、3人の住んでいた家を取り壊そうとしたところ、解体業者の関係者に病人やけが人が相次いだ。
さらには肝だめしだと言って、寝泊まりしようとした若者たちも、翌日から高熱にうなされるといったこともあった。
さらには適切な対応をしなかったとしてネットやマスコミに叩かれた児相の職員数名と、さらには市役所の担当職員までが、次々と変死してしまい、コメント欄にコメントが殺到してサーバーがダウンするという事態に発展した。
これら一連の出来事は、『アラン君の呪い』としてオカルト雑誌に取り上げられ、それ以来、アランの住んでいた家は、心霊スポットとして取り上げられるようになったという。
「ここはどこだ…?」
アランは気がついた。そこには、プロ野球のドラフト会議の会場のような場所があった。
「アラン君、気がつきましたね。私は全てを司る者。あれをごらんなさい。」
そう言うと彼女は、ドラフト会議の会場のような場所を指差す。
アランの家の前には、今も花やお菓子などの供え物が絶えなかった。せめて、天国で安らかに眠ってくれ、という思いは消えないようだ。
天国で安らかに!?冗談じゃない、安らかになんか眠っていられるか。
アランは神様も信用していなかった。だいいち、本当に神様が助けてくれたなら、もっと早く、誰かが助けに来てくれたかもしれないのに、結局誰も助けに来てくれなかったじゃないか、そのせいで俺は死んだ。
そんな神様のいるような天国になんか行かれるか!それなら地獄に行って、悪魔に魂を売り渡して、復讐してやるよ。
あいつらには、地獄すらなまぬるい。
お前もその神様の差し金だろう、とアランは思った。が、次の瞬間だった。
「この場所は、アラン君のように、何らかの事情で親を選べなかった子どもたちに、逆に親を指名してもらう場所なのです。
選びたい親を指名するのは、子どもたちである、あなたたちなのです。」
一方で、親もどき2人は、賽の河原で、石積みをさせられているという。
賽の河原は本来、親より先に死んだ子どもが石積みをさせられるところなのだが、あまりにも昨今は、親の虐待死で死ぬ子どもが後を絶たないということで、閻魔大王と大魔王ルシファーとの話し合いの結果、ルール改定を行うことになったという。
鬼族でさえ、他の種族の子を殺したりするのは、我が子に食べさせるため、ライオンなどの肉食動物が草食動物の子を殺し、我が子に食べさせ、狩りのしかたを教えるのと同じこと、あの人間たちは、それ以下だ。
全てを司る者と名乗った女は、アランに言った。
「さあ、ドラフト会議に行きましょう。あなたと同様、さまざまな事情を抱えたお子さんたちが待っていますよ。」
ドラフト会議というものがどういうものなのかもわからないまま死んだ、プロ野球というものがどういうものなのかもわからないうちに、死んだ子どもたちをこの場所に集めて、要するに形を変えた『親ガチャ』をやってもらおうということなのか。
この人物が、神の使いなのか、悪魔の使いなのかも、わからないまま…。