即位30年記念式典 9日目 ~ブィヴォルク王国の侵攻~
【 前回までのあらすじ 】
拘束されていたエドヴァルドとエミーリエ王女は、ハンスによって助けられた。しかし逃走中にまたもやラースと出くわしてしまう。会った時には、恐れるばかりだったラースを、エドヴァルドは倒すことができた。しかし逃げてきた海辺で見たものは、ブィヴォルク王国からの侵攻だった。
「あれは、何だ!」
ギオルグ王子は、王宮のベランダから見える光景に自分の目を疑った。
入江の中に、二段櫂船が10隻横列で侵入してきている。あの形は、ブィヴォルク王国の輸送船だ。貨物はおそらく「兵士」。
1隻に100人として約1,000人。小国の我らには十分な数だ。
クーデターは上手くいった。王と王女は拘束。王宮含め、主要な場所は押えた。弟のユリウス王子はまだ見つからないが、ほぼ成功と言っていい。
当初の予定では、私が国内の体制を整えた後で、ブィヴォルク王国は正式に支援するという話だったはずだ。ウルリクは、貿易の障害になるので、ブィヴォルク王国からの攻撃はあり得ないとも言っていた。どういうことだ。
支援を早まったか?いや、あの大国が、政権交代が決まってない曖昧な状態で、あんな大軍を、派遣するはずがない。何より、航海日数を考えると、話を聞いた時には出航してなくてはならない。
となれば、答えは一つ。
侵略だ。混乱に乗じて、ミゼルファートそのものを乗っ取るつもりだ。
クソっ!
今、指揮系統が混乱していて、全軍を動員できない。俺の親衛隊はいるが、今国内をおさえるので手一杯。そもそも人数が足りない。
クソっ!クソっ!クソっ!
ギオルグ王子は強く爪を噛んだ。どうすれば、どうすれば、、そうだ、ウルリク!ウルリクはどこに行った!ひとまずアイツに説得させれば、、
「ウルリク!ウルリクはどこにいる!」
こんな肝心な時にどこへ行った!
◇◇◇◇◇
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
太鼓の音が遠くからこだましながら聞こえてくる。今度は何だ。バルコニーから音のする方に身を乗り出すと、小さく船影が朝日を背負って近づいている。
輸送船より小型。竜頭を持った船。太鼓の音に合わせて、オールが規則正しく前後に動く。縦列で正確には分からないが、20隻近くいるか。ラグセイルの帆をたたみ、高速でこちらに向かってくる。
あれは、、南の海賊船だ、、ブィヴォルク王国に続いて海賊まで、、万事休す。もう、もう、この国は終わりだ、、
ギオルグ王子はヒザをついた。オレは、オレは、何をやってたんだ。王位についても国が無くなったら、意味がないではないか。
ブィヴォルク王国の輸送船は、岸が近づき速度を落としていた。海賊船の速度は倍程度ある。徐々に、しかし確実に近づいている。
近づくにつれ、北の船から矢が黒い塊のように放たれた。しかし、元々北の輸送船は、横列、しかも海賊船に対して後ろ向きの状態。北の船は回頭すらままならない。矢はほとんど届かず海に吸い込まれた。
先頭の海賊船が真ん中の輸送船に接近。海賊船は止まることなく、最も近くにいた輸送船に突撃した。海賊船の衝角は、輸送船後方、櫂の下を貫く。
バキバキという音を立て、1隻目の輸送船が体勢を崩す。沈没。
1隻目の沈没で開いた空間に、海賊船の2隻目が突っ込んでくる。隣にいた輸送船に、更なる衝角攻撃を喰らわせた。
沈没しかけている船が邪魔して、他の船は回頭できず、ほぼ停止している。そこに、海賊船3隻目が高速で突っ込む。
ぶつかるかぶつからないか、ギリギリの距離ですれ違う。王宮まで聞こえる鈍い音を立てて、櫂船の全オールが順番にへし折られていく。おそらく中の漕手は全滅だろう。
それ以外の船も、瞬く間に沈没した。
全滅。
船の大きさ、種類の問題もあるが、操船練度が段違いだった。
周辺には、割れた木片が浮かび、一部には北の兵士が木片につかまっている。海賊船側の完全勝利といっていい。
「何だ、何が起きた、、」
「あれは、俺が手配した仲間の船だ。」
目の前で起きた状況が摑めず、混乱する俺の後ろから、冷ややかな低い声が投げかけられた。振り返ると、そこには堂々とした海の男然とした男が俺を見下ろしていた。
「ユ、ユリウス!!」
なぜ、なぜここに!俺の親衛隊が探していたはずなのに、、
「あぁ、兄貴の親衛隊ね?アイツら、もう降伏してるから。」
「!?はっ?な、何を言ってるんだ!」
な、何なんだ、こいつは。俺の心が読めるのか?!
「だからぁ、兄貴の魂胆はもうバレててさぁ。」
ユリウス王子は、説明するのが面倒という気持ちを隠さず、顔に出したまま話を続けた。
「兄貴が攻め入って、オヤジと姉貴を捕まえた後、タイミングみて俺の兵で王宮を包囲したのよ。あの二人は捕まってくれてないと、逆に面倒だしね?」
「じゃあ、俺の兵は、、、」
「だから全員降伏したの。これから、北が攻めてくるのに、内輪で喧嘩してる場合じゃないだろ?!ってね。」
誰が見ても心の籠もってないウインクをよこしやがった! なんだ、なんなんだ!コイツは!だいたいなんだ!北が攻めてくるって、、、なぜそれを、、
「あぁ、それでね、北が攻めてくるっていう情報をつかんでたから、何とかしようと思ってな。記念式典中も準備してたんだよ、間に合わせるの大変だったよ。」
ユリウスはニヤリと笑うが、目が笑ってない。背筋が凍る。こんなヤツだったか?ユリウスは、、コイツは本当に俺の弟か?
「アイツらだって、好きで海賊してたわけじゃねぇ。南のノイシュタットが政情不安になってしまったんで、食い扶持のためにやってたんだ。だから、うちの海軍の遊撃部隊として雇ってきたのよ。食い扶持と、戦って死ねる名誉を得られて、アイツらスゲー喜んでたよ。」
「そんな、、ウルリクは、ウルリクは、北が攻めるなんてこと、一言も、、」
「あぁ、アイツ?アイツ、北と通じてるぜ?」
『何を今更』と小馬鹿にした顔で言ってやがる、クソっ!クソっ!クソっ!
「ほらほら、兄貴、爪噛まない、噛まない。兄貴は、アイツに騙されてたから、悔しいのは分かるけどさ。」
違う!違う!
俺が!俺が!、、、お前を、、
「とはいえ、だ、、、」
ユリウスは鯉口を切り、スラリと打刀を抜く。打刀は朝日を浴びて、キラリと光をギオルグ王子に当てていた。
「このままでは兄貴は反逆者だ。王族から反逆者を出すのは忍びない。ウルリクに全部罪をおっかぶせるからさ?兄貴は、安心して逝ってくれ。」
まるでお使いにでも行くかのように、、
「俺は、俺は、どうすればよかったのだ、、、」
ユリウス王子は、何も言わずに、跪く俺に、剣を振り下ろした。
本日は海戦中心でしたので、筋肉はございませんでした。