即位30年記念式典 6日目 ~パレード①~
【 前回までのあらすじ 】
婚約披露パーティーでは暗殺が失敗したものの、王女暗殺計画は引き続き進む。王女暗殺を狙う第2王子ギオルグは王女という存在に悩んでいた。姉を超える、姉よりも上に立ちたい、そんな思いが、ギオルグ王子を凶行へと走らせる。
朝。
本日行われるパレードが通る沿道は、早朝というのに、人が増えはじめていた。できるだけ良い位置でパレードを見ようと、場所を確保するためだ。稀に座り込んで宴会を始めようとする輩もいるため、衛兵が追い払っている。
パレードは、王族の乗った馬車が街のメインストリートをゆっくりと進むように行われる。元々パレードは、勝利の凱旋パレードだった。しかし、戦争のないこの街では『勝利』の凱旋はなかなか起こらない。一方、凱旋は住人の不満解消だけでなく、軍の戦力誇示にもなりうる。そのため、記念式典等で行われるのが慣習となった。当初、軍の行進もあったが、現在は簡略化され、王族によるパレードのみの形に落ち着いている。
婚約披露パーティの一件で、パレードの中止を求める貴族もいた。しかし、パーティで起こったことを知るのは極一部の人間だけだ。完璧ではないとはいえ、箝口令もしかれた。ギルド長家の失態を大っぴらに語れる人間は、力あるものか、力も頭も足りない愚か者かのいずれかしかいない。
逆に、予定していたパレードを中止した場合、勘繰りと噂で、パーティでの一件が明るみに出てしまう危険性が高くなる。婚約もその披露パーティも、端から存在しなかった。という結論で落ち着きそうである。
人数と身分が制限される謁見式とは違い、パレードは身分の低いものでも、遠くから見ることが許される。そのため、式典の中で最も人出の多いイベントとなる。人出が多いということは、警備担当の衛兵が最も動員されるということも意味する。本職のオレはもちろん動員され、沿道に配置されることになっている。
こんな状態で、どうやって『暗殺』するのか?もちろんハンスの計画で、昨晩、ラース親分に説明済みだ。
◇◇◇◇◇
「今回の暗殺は、狙撃、です。」
昨夜。
いつもの小屋で、オレは「魔術師の暗殺計画」を披露していた。
「ご存知の通り、パレードは王宮の北門から出て、中央広場に向かいます。広場を一周した後、今度は王宮の南門に向って戻っていきます。」
机の上には、地図を広げている。地図を指し示しながらの台詞なので、今日はこれまでより難度が低い。
「北門から広場に向かうまでの道は直線一本道。馬車は、フレデリク王、エミーリエ王女様、ギオルグ王子様の順で一直線に並んでいます。そのため、射角をとるのは難しい状況です。しかも、警備も厳しく、狙撃するのはほぼ不可能です。」
スラスラと、調子に乗ってきた。
「しかし!広場から南門に戻る途中。ここです!」
バン!
オレが指し示したのは、南門までのほぼ真ん中付近、ルートが左手に曲がる場所。
「この曲がり角、ここでフレデリク王が乗られた馬車が曲がった時、ちょうど正面に狙撃可能な場所ができます!」
ふふん!どうだ!間違わずに言えたぞ?今回は。
「どこから、狙撃するのか。場所は、ないはずだ。」
ラース親分から質問。
しまった、、言い忘れてた、、
ですよね、そうなりますよね。
「えーっと、そのー、そう!今回火魔術を使います。狙撃場所は、約1スタディオン(注:約1.2km)先にあります。防御も予見も不可能です。」
「外す、確率は、どのくらいだ。」
よくぞ、聞いてくれました!
そう、これを言わないと、言い訳できなくなる。絶対に、外すんだから。親分は台本読み込んでいるのか?
「もちろん、超遠距離なので、絶対とは言い難いですが、外す確率は低いと思います。」
「、、、分かった、、やれ。」
「かしこまりました。」
◇◇◇◇◇
ということで、オレは今『狙撃』ポイントとなる曲がり角にいる。
どうやって『狙撃』するのか
そして
どうやって『失敗』するのか
ここからが本当の計画だ。
偉そうに言ってるが、昨日ハンスが授けてくれた計画だ。
当然だが『狙撃』はない。
約1スタディオン先から何かを飛ばすとか、本当に魔術でもなければ不可能だ。そこで、曲がり角の石畳の下、ちょうど車輪が通る左轍部分に、小さな爆薬を仕掛けた。人の重さでは働かず、馬車の重みで反応する代物だそうだ。馬車がその上を通ると爆発し、車輪と車軸を破壊。馬車が停止することになる。
これを魔術師視点で見れば、王女を狙った魔術は、王女をかすめ、馬車を破壊。いやー惜しい!惜しかった!若干ずれましたが、次回こそは!
、、、
ということになる、いや、したい。
仕掛けは昨晩ハンスと一緒に仕掛けた。
先頭をいく予定のフレデリク王の馬車が誤って踏んでしまうことを心配したが、幸運なことに(?)今朝方、フレデリク王がご病気のため、北門から中央広場までと変更になった。つまり、広場から南門まで、先頭はエミーリエ王女様の馬車となる。
オレは、この曲がり角で、馬車が確実に仕掛けを踏むように、もし馬車が想定の位置からズレそうであれば、上手いこと馬を誘導するという、また難度の高めな仕事を振られてしまった。
今度こそハンスでいいだろうと思ったが『俺は別の仕事がある。エド、お前がやれ』とのことだった。別の仕事って、、、衛兵だろ?
さて、そろそろパレードの馬車が北門を出たぐらいの時間だ。到着まで、あと小一時間はある。見物客も増えてきたので、衛兵の仕事を全うしよう。
【お知らせ】
本日も筋肉の出演はございませんでした。