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即位30年記念式典 5日目 〜第2王子ギオルグの憂鬱~

【 前回までのあらすじ 】

婚約披露パーティーでの暗殺に失敗したものの、エミーリエ王女が婚約者をのしてしまい、婚約が破棄になってしまった。それを喜んだ商人ウルリクだったが、ウルリクと組み、王女暗殺を望んだ第2王子ギオルグは暗殺が失敗したことにいら立ちを感じていた。

第2王子ギオルグは、イライラしていた。

特にここ数日は、爪を噛む頻度が増えてしまい、血が出るほどだ。


 あの忌々しい姉の顔を思い出す度に、つい爪を噛んでしまう。側近には、王族に相応しくないと咎められるため、極力人前ではしないようにしているが、意思だけで止められるなら癖とは言わない。


 2つ年上の姉は、子どもの頃から何でもできた。算術も、語学も、武術も。物心ついた時には、姉は、父にも、家庭教師にも、素晴らしい才能だと、褒めそやされていた。


 自分も褒められたい、姉のように。

 そう思って、自分なりに頑張った。

 そう、頑張ったのだ。

 でも姉のようにはできなかった。


 姉様のように頑張りなさい、姉様の真似をなさってください、姉様は同じ歳の頃はできましたよ、なぜ姉様のようにできないのかしら、姉様、姉様、姉様、、、


 頑張ってるんだ、俺も!

 そう言いたかった。しかし、結果がそれを示してくれることはなかった。10歳になる頃には、もう姉と顔を合わせるのも、姉という言葉を聞くのも、嫌になっていた。


 勉強からも逃げた。算術など商人の真似事ができるか、と言って授業は受けなくなった。左右上下の数値を合わせるとか、緻密な作業は苦手だった。


 語学は途中まで頑張れた。ところが、今度は3つ下の弟が、その分野で才能を発揮しはじめた。弟は、北の言葉も南の言葉も、あっという間に覚えてしまった。しかも、生来の交渉力と合わせて、商人や官吏とも関係を作ってしまった。俺はもうコミュニケーションを取ることそのものが嫌になった。


 武術は良かった。特に剣術は好きだった。

 剣を無心で振っていると、嫌なことを一瞬忘れられる。師範も『剣の才能がある』といって褒めてくれた。俺は剣術にのめりこんでいった。来る日も来る日も剣の修行をした。それなりに自分も強くなったという自負ができた。姉は女性だ。この分野なら勝てるかもしれないという期待もあった。


 その期待を打ち砕いたのは、やはり姉だった。

 ある日、剣の師範から体術の試合に連れていかれた。体術と剣術は異なるが、体の使い方等は参考になるので見た方がいいということだった。あまり気乗りはしなかったが、確かに参考になるかもしれないと見学した。そこに出てきたのは、姉のエミーリエ王女だった。


 いっても、姉は王族。しかも女性だ。どうせ手加減されたお遊び程度の体術だろうと高をくくっていた。しかし、姉はあっという間に相手を倒してしまった。体術の素人目にでも分かる。いや、自分が剣術を生半可にやっているから分かってしまった。


 姉は、強い。

 恐らく師範と言われてもおかしくないレベルだ。姉は体術の分野でも天賦の才能を見せていたのだ。武術でも、勉強でも、俺は何一つ姉には勝てない。そう思うと、俺は何もやる気が起きなくなってしまった。


 そんな鬱とした日を過ごしていた時、商人のウルリクが声をかけてきた。約1ヶ月前だ。ウルリクは倉庫業を中心に最近力をつけてきた商人で、高利貸しとして、あくどいことに手を染めているという噂もある人物だ。正直、あまり良い印象は持っていなかったが、やることもなく、時間もあったので、会って話を聞いてみた。


 ウルリクの言っていた内容は、大まかにしか覚えていない。


 北にあるブィヴォルク王国がミゼルファートとの取引を増やしたいらしい。北との取引は、この街に莫大な利益を生むはずだ。が、現王と現ギルド長が反対しているらしい。姉が王位を取れば、流れは変わらない。なので、私のところに話を持ってきた。そんな感じだった。数字とか色々言って話していたが、数字のことはよく分からないし、なにより、コイツの話は無駄に長くてイライラする。しかし、最後の言葉だけは鮮明に覚えている。


「エミーリエ王女様を追い抜き、上に立ちたくはありませんか?」

 ウルリクは俺の心を見透かすように聞いてきた。


 王女を、姉を、超える。

 姉の顔を久しぶりに思い浮かべた。

 俺は、、、


 俺の返事を聞き、ウルリクは嬉しそうに出ていった。『今後とも宜しくお願いします』と。


 そうだ、北との取引は、この国のためなんだ。俺の為じゃない、民のために、俺が、俺だけが、、後から言い訳のように、理由が浮かび、俺を鼓舞した。


 俺が、やるしかない。現王フレデリクと、姉、いやエミーリエ王女を、討つ。

【お休みのお知らせ】

本日の筋肉の出演はございませんでした。

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