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即位30年記念式典 初日 ~謁見式 プロローグ~

 キューキュー

 キューキュー


 白いカモメたちの鳴く声が聞こえる。

 春の訪れと共にやってくる彼らは海辺を旋回しながら飛び回っている。ほとんど水平に近い水面に、ごくわずかに見える波が、キラキラと日差しを眩しく反射する。


 陸にも届いた光は、山辺に立ち並ぶ漆喰の白壁に反射し、町全体を光に溢れさせていた。その光を青いドームの屋根が和らげ、同じくコバルトブルーの海へと返す。


 港湾都市 ミゼルファート。

 山に囲まれた入江の街。天然の良港。

 大型船が多数停泊し、様々な荷物を積み下ろししている。


 船から様々な荷物が降ろされる。

 スズキやタイ、サーモン等の魚介類。

 レモン、イチヂク等のフルーツ。

 鮮烈な色、形、芳香を放つ香辛料。

 細やかな宝飾がなされた工芸品。


 南北、地域を問わずやってくる様々な物品が、この街の交易の広さと豊かさを示している。特に、ここ1週間はいつもに増して品物が溢れかえっていた。今日から10日間にわたって、現国王陛下の即位30周年記念式典が行われるからだ。


◇◇◇◇◇


 謁見式は正午少し前に始まった。


 場所は、王宮前の大広場。

 王宮は山沿いの町全体が見渡せる高台にある。大広場は通常、軍のパレード等で利用されるが、本日だけは一般参賀客が特別に入ることを許される。すでに広場は主賓の登場を待つ人で満たされていた。


 街の建物と同様に、真っ白な漆喰を持つ王宮、そのバルコニーに、今回の主役が立ち並んだ。


 現国王  フレデリク・ミゼルファート陛下

 第一王女 エミーリエ・ミゼルファート王女

 第二王子 ギオルグ・ミゼルファート王子

 第三王子 ユリウス・ミゼルファート王子


 最初に、フレデリク陛下が従者に手を取られながら、集まった群衆を見回し、ゆっくりと手を振った。歓声が沸く。同じく支えられながら、ゆっくりと後ろに下がった。

 その後、エミーリエ王女、ギオルグ第2王子、ユリウス第3王子の順番で、手を振った。


 歓声がある程度おさまったのを見て、エミーリエ王女がすっと流れるように立ち上がった。


 真紅のドレス。

 透き通るような白い肌。

 プラチナブロンドの髪をくるりと丸めたシニヨンヘア。

 整った目鼻立ち。

 全てが王女とは何かを表現していた。


 群衆から再び拍手が起こる。

 後ろに控えるギオルグ第2王子は、王女と同じブロンドヘアを短く刈り込み、細くもガッチリとした体格を持つ軍人然と座っていた。整った顔を少し歪めて王女の姿を眺めていたが、後ろに控えていた宰相に声をかけられ、居住まいを正した。

 その隣にはユリウス第3王子が座る。ブラウンヘアに少しカールがかかり、少し日に焼けた彫りの深い顔が、海の男感を出していた。興味がないという顔を隠すことなく披露している。


 鳴り止まない拍手を、エミーリエ王女は右手を挙げて静止した。静かになったことを確認した後、声をあげた。


「本来であれば、我が父 フレデリク陛下が挨拶するところですが、(わたくし)が代わりに皆様に挨拶いたします。」


 澄みとおる声。

 美しいというよりも深遠な声。

 人々を一瞬で魅力する声。


 一拍間をおいた後、王女は話を続けた。


「ご承知の通り、ミゼルファートの道程は、決して平坦ではありませんでした。」


 エミーリエ王女が語ったのは、この街の歴史だった。

 北と南の国々の中間に位置し、地理的に商業の土地として発展した。人が集えばルールが必要になる。自然と商人たちによる自治が始まり、更に街は拡大した。しかし、富が集まれば、それを狙う輩も増えてくる。

 利権を欲した北国からの圧力。

 南国の政情不安に乗じた海賊の跋扈。

 自治組織では全てに対応できず、軍事力と統率するリーダーが求められた。そこに颯爽とあらわれ、全てを撃退した英雄王 アーベル・ミゼルファート。先代の立国王だ。その後、共和制から王制へと移行し、現在に至る。そんな英雄譚が語られた。


 まだ記憶に新しい者もいるのか、それとも王女の語り口によるものか、群衆の中には涙する者もいた。


「、、、しかし、この街の平和と繁栄は、決して一人の力で成し得るものではありません。ここに集う皆さん一人一人の力の集積なのです。」


 王女が両腕を大きく開いた。まるで群衆を包み込むように。

「もし我々を、そして我々の自由を脅かすものがいたならば、我が軍が全身全霊を持って阻止しましょう。」

 最後に、開いた右腕を前に差しだし、大きく宣言した。


「永代に、皆の忠誠を求めます。」


 万雷の拍手。歓喜の声。

 鳴り止まない拍手を受けながら、エミーリエ王女は下がっていった。

ギリシャ領のサントリーニ島をイメージしました。

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