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第十一話 その勇者は我の物だぞ!

リリアを連れ、王城を駆ける我の背後からは衛兵が追ってきていた。流石に無断で行動する事を許さないか。本当なら魔王城でも無断で行動する者を許さない幾万の軍勢が……なんて言ってる場合か!


「止まれ! 無断で王城を出歩くことは許可されていない!」

「魔術師を呼べ! あの女の足止めをするのだ!」


魔術師なんぞいくらでも呼ぶが良い。我に魔法は効かん!


「矢を放てええ!」


地下牢あると言う別当への渡り廊下に差し掛かると王城から離れた櫓から一斉に矢が放たれた。


「でえええい!」


無詠唱による矢避けの魔術を発動させ、迫りくる矢の軌道を捻じ曲げ退かせていく。我が立ち止まろうが、タップダンスをしようが、矢は当たらない。


「クソっ! 矢が当たらんぞ!」

「人間どもめ! 舐めるなよ!」


走りながら左手を振るい、風魔法による突風を弓兵に叩きつける。弓兵は櫓ごと吹き飛んでいった。


「ついでに!」


追手にも同じ魔法を繰り出し、我に追いつけないよう吹き飛ばした。


「さすが魔王様。部下が居れば勇者にも勝てたでしょうね」

「その部下を放逐したのはリリア! 貴様であろうが!」

「あ、その話蒸し返しますか? 止めちゃおっかなー。魔王軍やめちゃおっかなー」


憎たらしい棒読みで立ち止まってしまった。なんて魔法少女だ。こいつは。


「すまん。我が悪かった。あれは誰のせいでもない」

「はい。知ってました。何をして居るのですか? 勇者助けに行くんですよね?」

「あ、ああ……」


なんか釈然としないなぁ! もう!

いつかこの魔法少女と名乗る女にぎゃふんと言わせたいものだ。


「ぎゃふん」

「……」

「ぎゃふん。満足ですか?」


そうか。もうリリア自身の身体だから念話が通じてしまっていたのだな。はぁ。

しばらく念話してしまわないようにしながら走っていると不意にリリアが立ち止まった。


「こちらです。この階段下に地下牢があると私のマスコットが言ってます。ね、クルピー」

「クルピー!」


突然、リリアの肩で苦しいー! を無理矢理可愛く言わせたような鳴き声で喋る……顔だけの兎が現れた。いや、怖くないか? リアル兎の生首なんだが。


「マス……なんだって? 我には悪魔召喚にでも使われそうな兎の生首が浮いているように見える」

「いえ? マスコットです。見た事ありませんか?」

「そんなマスコットは見た事が無い。というかそんなの居たか!?」


初見でしかない。こんな気色の悪い生物がリリアの周りに居れば一目でドン引くはずだ。しかしその記憶が無い。


「このクルピー君はですね」


あ、誤魔化したな。


「なんと魔力のある生物を探知できるのです。パチパチ」

「クルピー!! クルピー!!」


魔力探知に優れているのは素晴らしいが……赤い目を剥き出しにして生首でクルピー! と叫び奇怪生物。これをマスコット判定しても良いのか? 魔王城グッズで売り出した場合、利益は出るのか?

だが、どれだけ贔屓目に見ても化け物だ。


「やっぱ怖いわ。ていうかクルピーって苦しいって意味だよな?」

「違いますよ。くるしゅうないの意味です」

「無理ありすぎだ! 絶対苦しんでるよ! この兎!」

「クルピー! クルピー!」

「ちっ。もっと可愛い断末魔に変えてきますよ」

「え? 断末魔って言った? 断末魔だったの!?」

「はいはい。さっさと下に降りますよ」


リリアが鬱陶しそうに指を鳴らすとクルピーはまるで霧のように消えていってしまった。もう二度と出さないで欲しい。製造方法も聞く気無いから。


「しかしジメジメして暗い場所だな。我は魔族ゆえにどんな場所でもよく見えるがリリアは大丈夫か?」

「はい。魔法少女はいかなる場合でも戦えるように目を改造していますから」

「そ、そうなんだ」


先ほどの兎と言い、魔法少女の業が深い。


「誰か居るの!? さっさと出しなさいよ!」

「シンフォニーですか!」

「ノーネさん!? どうしてここに!?」


階段を降りた先にある石畳の奥に並んだ鉄格子からシンフォニーの声が聞こえる。他の仲間は居ないのだろうか。


「今行きますから! リリアは透明化しとけ」

「はい」


まだ魔王だと正体がバレたら面倒だ。今はまだ記憶喪失の少女ノーネとして居る事にした。


「大丈夫ですか!?」

「へへっ。兄様にも困るよね。権力なんか要らないって言ったら急に怒り出してさ。こんな場所に閉じ込めて……」


この王城に入る前と打って変わって煤汚れてしまった純白のマントと鎧が痛々しい。まだ拷問のような物を受けた様子では無い。ここから出してやらねば。


「今、ここを開けますね!」

「で、出来るの!?」

「は、はい! 魔法を使えるのが分かったので!」

「そういえば宿屋でよく眠らせてもらってたね」


気づかれていたのか。やはりあの程度では魔王とは気づかれなかったのは幸いだ。我は鉄格子の錠前に触れた。瞬間――――鉄の何かが我の身体に直撃した。まずい! 


「う、うわああああ!?」

「ノーネさん!」


あんな攻撃ではよろけもしないがノーネという体でそんな芸当をすれば怪しまれてしまう。我は自ら横に吹き飛ぶことにしたが、運悪く別の鉄格子にぶつかってしまった。


「おえっ!?」


腹部に鉄格子が!? これはガチである。

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