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ここが仕事場だ。

騙されたことにぶすくれながらも

「早速仕事にかかってもらおう。ついてこい」

という言葉に従ってついていく私はかなりの大人だと思う。

だが本好きの私にとって、図書館勤務というのは夢のような話だ。

常に本に囲まれていれて、本と共にあれる夢のような理想郷で働け、警察に突き出されるのも回避できる。

まさに一石二鳥!

私ご機嫌で本棚に向かって歩いていく。

「おい、そっちじゃない」

額に手を当てた館長の声が聞こえた…ような気がしただけなので、私は本棚に向かって歩いて行った。

「お前は話聞く気あるのか」

なんでか館長が前に回り込んできたような気がしたので、耳を塞ぎつつ背後を振り向き、館長がいるかどうか確認する。

いないので、さっきの「おい、そっちじゃない」という言葉は空耳決定だ。

そのまま本棚に向かって歩く。

「……」

あ、館長?がキレた。館長と思われる人物の額に浮かぶ青筋を見てそうわかった。

館長っぽい人(仮)は怒ると静かになるタイプのようだ。

「おふざけが過ぎるようだな…黙ってついてこい」

自業自得…わたしをかばうものは誰もいない。

首根っこを掴まれる。ずるずると引きずられつつ私は考える。

館長は、「君にしかできないことをやってもらう」といっていたが、具体的に何をするんだろうか。

わたしにできることなどあまりない。

できて数時間ずっと本について語るとか、本を一日中読み続ける事ぐらいだ。

だがそんなことをしても意味はない。

ということは、わたしが本に触れても本が病気にならないことを利用するのだろうか。

あ、階段が見えてきた。

「ここからは自分で歩け」

不意に手を離された私はごつんと床に頭を打つ。

その音に周りにいた司書さんがキッとこちらを睨む。

館長がその顔に呆れを浮かべていう。

「呆れた、お前はなんでそんなに鈍臭い?」

自分が鈍臭いことに自覚はある。母によく言われた。

狼から逃げ切れるくらいには運動神経は良いと自負しているが、母曰く、

「運動神経が良いのと鈍臭くないのは一緒ではない」

だそうだ。

わたしに違いはよくわからないが、きっとそうなんだろう。

かつん、かつんと螺旋階段を降りていく。仄暗くて少し怖い。しばらくして館長が立ち止まる。

そこにはドアがあった。

ギイイッと軋んだ音を出してドアが開く。

思わず私は口を塞いだ。

中からものすごくドス黒い気配がした。

吐きそうになる衝動をおさえながら、私は館長に尋ねた。

「ここ…何がいるんですか?うぷ」

館長は平然としている。

「病にかかっている本が保管されている」

これが本の気配?

そんな訳ない。

うえにあった本はもっと柔らかくて暖かい感じがした。

だがここにある本の気配はどうだろう。

泥沼のように私の心を蝕んでいく。

すると突然本の気配がピタリと止んだ。

何事かと背後を振り向くと館長が立っていた。

「この気配は生身の人間にはきついだろうと思ってな」

頭に触れると、そこには髪飾りが付いていた。

手で触ってみると本とペンをかたどっているのがわかる。

少し頰に熱が集まっているように感じた。

館長はニコニコと無意味に整った顔で笑っている。そして口を開いた。

「これで仕事ができるな!」

頬の熱が急速にひいていくのがわかる。

うん、わかってました。わかってましたよ?

…ていうか、これからこんなところで仕事するの⁉︎

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