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図書館でアルバイト始めます

わたしの名前はリティア・アクラット。

つい先日、聖トウィスト王立学園に入学したばかりの、とりえもない、ただの本好きの女の子…

のはずだった。


なのに、あいつのせいで‼︎

あいつ、リーヴル・エストレジャのせいで、わたしのわたしの楽しい学園ライフは儚く崩れさった。

こんなの八つ当たりだとは思う。

だが彼にも責任はある。

主な原因を作ったのは彼だ。



なんでこんな目に合わないといけないんだ。わたしが入学してからの一ヶ月は、その一言に尽きる。


元はと言えばこの学園に学年2位で入学したわたしがいけないかもしれない。

ここ聖トウィスト王立学園は、成績が上位3位以内の人には特別な制服と生徒会役員という地位を与えらえる。だから、2位だったわたしは問答無用で生徒会に入らされた。

そこに、学年3位のリーヴルがいたのだ。


リーヴルの何がわたしに関係しているのかというと…

彼に話しかけられたせいで、わたしがいじめられたのだ。

なぜだと思う人も居ると思う。

原因は、非常にめんどくさくくだらないことだった。

リーヴルの顔だ。


リーヴルははっきりいって割とかっこいい部類の人だ。

そこまではわたしにもわかる。だがそこまでだ。

だがかっこいい人に話しかけられた、ということ故に、嫉妬した令嬢たちにいじめられた。


私は今まで異性というものに興味を持ったことがない。

根っからの本好きとして、本一筋で生きてきた。

だからわたしは正直どうでも良いと思ったが、顔がいいということは令嬢たちにはとても重要なことらしい。


リーヴルの顔が良かった。

そんな馬鹿らしい事でわたしはいじめられたのかとおもうと情けなくなる。


きっかけは生徒会だ。

生徒会の用事でいくつか質問をされた。

近くの席にいたためだ。

ただ質問に答えただけだが、それを見たリーヴルのファンたちはわたしを目の敵にし始めた。


学年2位という肩書きで初日からにらまれていたが、ここで初めて実力行使に出られた。

足をかけたりするだけならいざ知らず、

殴られたり蹴られたりということまでもはや日常茶飯事だった。

わたしもそこそこ腕っ節は良い方だが、数には勝てなかった。

毎日いじめられるだけの日々で嫌になってしまう。


リーヴルがなんだって言うんだ。

話しかけられたのがなんだって言うんだ。

たまたま同じ生徒会に入っただけ。

たまたま質問されたのがわたしだっただけだ。

それだけだ。


そう、本当に偶然が重なっただけなのに、こんな壮絶ないじめにあうとは誰が想像するだろう。

さっきいったような殴られたり蹴られたりというのはほんの最初の話。

次第にエスカレートしていった。

そして今日、今日命を狙われた。

私としてはそこまでのことをしたとは思っていないし、そこまでのことをされるともおもっていなかった。

どうやって命を狙われたのかというと、令嬢たちの従順なペットをけしかけられた。

オオカミ、タカetc。

こんなことならわざわざ家を出てまで来なきゃよかった。

切実にそう思う。


そして現実を見る。

まだおいかけてきているようだ。

本当にしつこい。

しばらく走り続ける。

5分ほど全力疾走をつづける。

息が荒くなり、心臓が早鐘を打つ。

これ場走ったらむしろ走りすぎで死にそうなきがする。

止まっても、走っても死ぬ!私、齢16にして絶体絶命の危機!


…と言うところで、わたしにけしかけられていた動物たちの鳴き声がようやくやんだ。

令嬢たちの声もしなくなった。

令嬢も犬もようやくまけたようだ。


逃げ切れたと思うと安心して腰が抜けた。

堤防がきれたように涙が溢れてきた。

しばらく泣きじゃくった。こんどは泣きすぎでしにそうだ。

そう思うとなぜか少し楽しい気分になった

ふと我に帰った。

サーっと血の気が引いていくのがわかる。

ここ、どこだろ。






さて、令嬢たちからにげられたのはいいが…

ここがどこなのかさっぱりわからない。

お気に入りの本はちゃっかり持ってきているくせに、使えそうなものはほかに一つもない。

そして本は今この場ではなんの役にも立たない。

犬は撒けたし令嬢たちからも逃げられた。

それはとてもよかったと思う

だが、かえれなくなったら元も子もない。

ここでのたれ死ぬだけだ。

それだけはさけねばいけない。

そして少し黙考する。


いや…いっそこのままでもいいような気がしてきた。

かえってもまた令嬢たちにいじめられるだけだ。

楽しいことなんて一つもない。


それならば、少々ここで読書をしても良いのではないか⁉︎



…すみません。

ただのわたしの願望です。

いじめがうんたらという大義名分をくっつければいいような気がしたんです。

唯ここで本を読みたかったんです!


コホンコホン!

だってここはとても美しいのだ。

ここで読書をしたい!と思えるほどに。

きらりと揺れる木漏れ日、

サラッと頬を撫ぜる風。

はらりとおちていく葉っぱに反射して、目の端にちかちかとした光が宿り、飛び立つ蝶はまるで天女の姿を眺めているかのよう。


いくら言葉にしても足りないだろう。それほどに美しく眩い光景なのだ。

ここで読書ができたら、きっと図書館10軒のほんを読み漁ったくらいの価値があると思う。

この中で読書をすることがどれだけ素敵かわかっただろうか。


なのでわたしは読書をするためのベストポジションをさがしにいくことにします!




わたしは森の中を歩いていく。

しばらくさく、さくと落ち葉をふみしめる音と葉擦れのおとだけが響く。

無言で歩いていくこと数分。

すると、とてつもなく大きな木を見つけた。

大きいなんてものじゃない。

まさに「巨大」だった。

ゆうに縦1000メートルは超えているだろう。

横も300メートルはあるのではないのだろうか。


また一歩踏み出す。

木にちかづいていくたびに、周りの景色は一層美しくなっていっていて、目がくらみそうだ。

「おおっ…」

思わず声が漏れた。

それは大いにわたしの興味をそそった。

その木にはうろがあったのだ。

すこし、中を覗き込む。

ちょうどよく光が差し込んでいるようで、それほど暗くない。

次の瞬間にはもう、遅かった。


このとき引き返しておけば、この後わたしにに災難がふりかかることはなかっただろう。

だが、わたしはもう、足を踏み出してしまっていた。



「なっ…」

そこは外から見ていた景色とまるで違った。

本棚が壁一面にずらりと並び、かすかに埃の匂いが漂う。


そこは、図書館だった。



何千冊、何万冊という本が、私の視界を埋め尽くす。

そこはまさに桃源郷。

私の理想そのものの光景が広がっていた。

ドキドキと胸が高鳴る。

私はそうっと一冊の本を手に取った。

そして、ゆっくりと表紙をひらいていく。

ふわりと紙の匂いが漂う。

私の鼓動はさらに速くなって、その衝動を抑え込むことはもうすでに不可能となっていた。


私は本を読み始めた。


本を読み終わり、ほうっと息をついた。

そして顔を上げる。

と、なぜかたくさんの人に囲まれていた。

私が首を傾げていると、一人の人が前に歩み出てきた。

「あなたはそこで何をしている‼︎」

その男の人は厳しい顔をしていた。

「何って…本を読んでいるだけですが。なにかいけないのでしょうか?」

「しらばっくれるな!入館手続きは行われていない!」

にゅうかんてつづき?なんだそりゃ。

図書館って公共の施設で、誰でも入れるところ…よね?

「なにそれ、どういうことなの。あの…一度全てせつめいしてもらえませんか?」

はあっと男の人はため息をつくと私に言った。

「本当に何もしらぬようだな…。いいだろう、ついてこい」


そして事務室っぽいところに連れていかれた。

そして男の人が重々しく話し始める

「ここは図書館だ。そこは貴様もわかっているだろう。

ここは国家機密級の場所だ。国の要人たちがたまに訪れる。

だから一般人は入れないし、入るとしても、国王の許可と莫大な金がいるし、そもそも知っているものが少ない上、厳重な箝口令が敷かれる。貴様はこのどれも満たさずにここへ入った。

とてつもない重罪だ。


そしてここは普通の図書館とはおおいに違うところがある。

これも国家機密の一つ。ここの本が『生きている』ということだ。

ここにある本たちは、自ら物語を紡ぐことが出来る。

調子がいい時もあれば、悪いときもある。

健康な時もあれば、病気にかかることもあるのだ。

そして人間に触れられたものは確実に、ある病にかかる。

貴様の触れた本もそろそろかかっていることだろう。

それは、「歪」というものだ。

それにかかっているものは、使い物にならず廃棄するしかない。

この本には、人間のみが干渉でき、干渉することによって「歪」にかかるのだ。


…つまり君は不法侵入をした挙句、高額な「生きている本」を一冊ダメにしたのだよ。

この落とし前をどうつける気かい?

そして私は君に2つの案を提示しよう。

入館料と罰金、そして本代を加えた200万を払うか。

このまま警察に突き出されるか。

さあ、どっちを選ぶかね?」


「っ…」

私はあの本がそんなに高額なものとはしらなかった。

それに入り口をわかりやすいところに設置していたそっちも悪いのではないか?

まあ、今そんなことを考えていてもどうにもならない。

私は必死に頭を巡らせる。

そもそも今、私に手持ちのお金は無いし、200万だなんてバカみたいな金額払えるわけもない。

だが、警察に突き出されるのだけは勘弁だ。

どうすればいい?


…そうだ!

「私には今、手持ちのお金がありません。ですので、ここで働いて返すというのはいかがでしょうか」

これは我ながらナイスアイデアでは無いだろうか。

「はあ?なにいってるんだ。人間が触れたら病気にかかるといっているだろう。話しをきいていなかったのか?ろくに仕事もできずただ足を引っ張るようなやつを雇ったりするわけがないだろう」

…即答だった。確かにそうだが、そこまできっぱりと言われると悔しい。

何がなんでもここで働いてやる!

すると

「館長様!取り込み中失礼いたします。先程から10分ほど経過致しましたが、本に干渉はされているのは確かにもかかわらず、ほんが歪にかかる様子は一向に見られません!」


とだれかが駆け込んできた。

あの人館長だったのか。

そしてその館長は目を見開いている。

私にとっても衝撃の報告だ。

ふふ、私のいないところで言えばいいのに。バッチリ聞こえてしまいました。

口の端が自然と釣り上がってくる。

どうやら仕事のあてはできたようだ。

ここまではっきりといわれたら、この発言を利用しない手はない。

「どうでしょうか?館長サマ?」

わたしできるだけ満面の笑み浮かべて、にこやかに微笑む。少し皮肉な笑みに見えてしまうかもしれないが 致し方なし。

うふふふふ、と笑みがこぼれる。

こうなったらもう、断る理由なんてないだろう。

館長はぐっと顔を歪めると、絞り出すように声を出した。

「…いいだろう。せいぜいこきつかってやるさ。時給は700円でいいな」

やった!これでお金を返せる!

「はい!」

悔しげに俯き、肩を震わせる館長。

ザマアミロと思っていると、館長は俯いたままポケットから何かを取り出しボタンを押した。

んん?なんだろうか。

マイクとスピーカーらしきものが付いている。

私の頭はもう回転し一つの答えを出した。

…まさか!録音機⁉︎

そして館長が顔を上げると、館長は笑っていた。

それはもう、にこやかに。

報告に来た人の肩に手を置くと、こういった。

「ご苦労。なかなかの名演技だったぞ?」

そうか…わかったぞ…。

館長、貴様謀ったな‼︎

もともとこのことを知っていて、私をできるだけ安く雇うため、こんな演技をしたんだろう!

よくよく考えれば、700円なんて安すぎる。

今度は私が声を絞り出す番だった。

「館長…雇ってもらう立場でなんですが、もう少し時給をあげていただけないでしょうか?」

そして館長は、録音機の再生ボタンをおす。

私と館長の、

「時給は700円でいいな」「はい!」

という会話が再生される。

そして館長は言った。

「人間の君みたいな者を雇ってやるのだから、君にしかできないことをやってもらうぞ?」

館長は満面の笑みを浮かべていた。

私の上司となる男は想像以上に強かだったようだ。

「今日から、君は、この図書館の物語修理人だ」

私はぐっと唇を噛む。

館長はまだ微笑んでいる。

その憎たらしいほど整った笑みは、少々皮肉めいていた。

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