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机と椅子

(授業が午前で終わる日は、特に予定がなくてもスカートの丈を少し短くする。

 

 チャイムが鳴り、おっつかれー! またねー! と、クラスメートが出て行くと、教室から日常のざわめきは消え、一気に静けさが訪れる。


 それぞれの思い出が詰まっている教室。


 そこにひとりでぽつんと私がいる。


 時々こうして、みんなの笑顔を思い出しながら、深呼吸する。


 カーテンが揺れて、運動場では運動部が部活の準備を始めている。


 私は自席から、汐海 クリスティーナ 凪沙さんの席に向かい、彼女の椅子に手を伸ばした。


 こそこそ隠れて、いけないことをしているようで、思った以上に心臓が早くなる。


 汐海 クリスティーナ 凪沙さんの席に座る。

 

 彼女が使っている机と椅子。

 彼女が見てる黒板。

 彼女が見ている教室の景色。


 ここには彼女の世界が詰まっている。


 私と同じ机だけど、汐海 クリスティーナ 凪沙さんが毎日使ってるってだけで、すごく特別。)




(授業が午前で終わる日は、特に予定がなくてもスカート思い切って短くする。


 チャイムと共に、おっつかれー! またねー! で、教室を飛び出した。

 けれど、スマホを忘れたのを思い出して、教室に戻った。


 そっと教室を覗く。

 

 放課後の教室は、カップルがイチャイチャしているので飛び込みは注意。


 やっぱり誰かいる。


 っ――女の子がひとり、私の席で寝ていた。


 近づいて見ると、すやすや気持ち良さそうに眠る鶯菜乃葉さんだった。


 前に席に座って、思考を巡らせる。

 私の席に座って寝てるってことは、嫌われてるってわけじゃなさそう。


 こんな可愛い寝顔を見せられると、ちょっと……。


 寝てる人を邪魔する趣味もないので、こっそりとおでこにキスをした――。)




「あのぉ、鶯さんだよね……?」


(しばらくして声をかけると、ねぼけた目つきで、鶯菜乃葉さんが顔を上げた。)


「ここ私の席、なんだけど。」


「ぁああああっあああぁぁっあっだ。すぐに退けます。ごめんなさい! 私自分の席を時々忘れちゃう病気なんです。」


「って、何もそんな慌てて逃げなくても……。私、スマホ忘れて取りに戻ってきただけだから、座ってても良かったのに。」


「そうじゃなくて、この前…………。トイレであんなことがあったから。体が勝手に距離を置いてしまうというか……。」


「私のこと嫌いになった訳だ。」


「違います、全然違います! 好きとか、嫌いとか。そういうのじゃないです、けど。けど……。」


「私ね、可愛い女の子を見るとキスしたくなる病気なの。」


「ぁぁあ、それなら仕方ないですね。」


「納得しちゃうんだ。」


「私も、病気はいっぱい持ってますから。アニメを見たくなる病気とか、ライトノベルを読みたくなる病気とか。」


「やっぱり鶯さんって面白い。……あのさ、このあと時間ある? 私、友達とタピる予定だったんだけど、友達が忙しくなっちゃって、良かったら、一緒にタピオカ飲みに行かない?」


(友達の予定がキャンセルってのは、嘘。こういう方が誘いやすいし。きっと誘われた方も、気楽だと思う。)


「ええええええええええ……私が、汐海 クリスティーナ 凪沙さんとタピる? そんな一大イベントを乗り切る自信はありません。」


「スカートの丈が、いつもより短いのは、気合が入ってる証かと思ってたけど。キスのお詫び。おごるね!」


「……分かりました! 汐海 クリスティーナ 凪沙さんとタピらせてもらいます!」


「じゃ、決まりね。っあ、ひとつだけ! 私の名前をフルネームで呼ぶのは、禁止。同じクラスな訳だしさ。」


「じゃ、なんて呼べば……?」


「普通に、凪沙でいいよ。」


(一番高いハードルがキタッ!)


「明智光秀が、本能寺の変で謀反を起こして織田信長を襲撃した時の気合で、汐海 クリスティーナ 凪沙さんを下の前で呼べるように、頑張ります!」


「私、鶯さんに夜道で襲われたりしないよね? 不安になってきたよ。」


「心配しないでください。私アイドル殺しに、興味なんてありませんから!」


「アイドル殺し……。なんか余計に心配だよ。……でも、良かった。こうしてお話できて。」


(そこまで言うと、仕切り直すように汐海さんは微笑んだ。)


「鶯さん、宜しくねっ!」


「はい! 凪沙さん、宜しくお願いします! 私も凪沙さんに、下の名前で呼んでもらいたいです。お願いしてもいいですか?」


「もちろん。えぇっと、ノノハ、さんだよね。」


「ナノハです……。」

(名前知られてなかったぁぁぁ!)


「冗談冗談!」


(絶対、嘘。やっぱり認知されてなかったよね。キスしたくせに……。)



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