1 定番ロマンスは
月の光が天窓から差し込んでいた。大理石の床に格子状の影が出来た。わたしの歩む小道の頭上に差し交わした細い枝の形が、くっきりと足元に浮かび上がる。
空気は揺らがない。全面が硝子に覆われた温室に、風は吹かないのだ。
――だからわたしはいつもここにいた。何者もわたしを傷つけないからだ。
「アラル・スィア、ラ・フェーソナ、リディエ、」
古語の歌を口ずさみながら、わたしは静かに温室を歩いていた。裸足のままの両足は、音も立てずにわたしを運んだ。
「クィリアルテ・シーア・フアフローティエ、ミティア、」
意味も分からない古語は、しかし不思議と落ち着くような響きをしている。それ以外にこの歌を歌う理由はなかった。逆に言えば、わたしはこれ以外の歌を知らないのだ。
温室には数多くの草花が置かれていた。中にはわたしの背丈をずっと越して、高い高い天井まで届きそうに大きな木もある。ただ、風がないだけ。それを除けば、ここはまるで屋外のようだった。
色とりどりの花。温室でしか生きられない花。あまりに美しく儚い花。
息が詰まりそうに暖かい部屋の中でも、夜ともなれば床は冷たい。素足の裏が、ひた、ひたと床にくっついては離れた。
そのとき、風が吹いた。
わたしは息を呑み、体を硬くして息を止める。
風が吹くことはありえなかった。温室に変化などもたらされることはなかった。
わたしも同じだった。温室の中の花瓶でしか生きられぬように茎から切られて育てられたわたしも同じだった。それなのにわたしは温室の床に打ち捨てられ、ただ踏みつけられるがまま。そんな境遇に、変化など、決してあるはずもない。
温室に風は吹かないのだ。そのはずだった。
「誰だ……?」
温室の扉が開け放たれる。潜められた声は、他に物音のない温室に響いた。
冷たい風が温室を横切る。渦巻く空気がわたしの髪を揺らした。
「あ……、」
何も言えず、わたしは立ち尽くした。温室の奥、とりわけ花々の多い区画に佇んだまま、わたしはその影と対峙した。
「も、うしわけ、」
言葉はうまく出てこない。息が詰まったようになって、わたしはただ唇を震わせる。
「あ、謝らないで」
逆光を受け、真円の輪郭を描く月を背負ったまま、その人は慌てたように告げた。びくりと体を竦ませ、口を閉じると、その人はなおさら焦ったように手を伸ばした。
こつ、と、その足音で、その人が上質な靴を履いていることを知った。床に描かれた格子の上に差し掛かったときに、その人の髪が照り輝いた。穏やかな顔立ちをした、年上の少年だった。
「どうしたの?」
花の中に立ち竦んだままのわたしの前に立ち、彼が微笑む。薄暗い温室、静かな部屋、湿った重い空気。息遣いまで届くような至近距離で、彼が囁いた。
「君の名前は?」
わたしは黙ったまま、目を見開く。
誰も、そんなことを、聞いてくれた人はいなかった。ずっと、みんなが、わたしをいないものとして扱った。
「わたし、」
よく見てみると、彼の目は見たことのない色をしているようだった。鮮やかな赤色。
どうしてその名を名乗ろうと思ったのかは分からない。気がついたときには、口をついて出ていたのだ。
「――リア」
呟くと、彼はいとも容易く、華やかに笑った。
「初めまして、リア。僕はアラルだ」
わたしの唯一のおともだち。わたしに唯一微笑んでくれたひと。本当に久しぶりに、こんなにたくさんお話をした。けれど自分の正体を明かしてしまえば、きっと彼も離れていってしまうだろう。だから何も言わなかった。彼も何も訊かなかった。わたしも彼の正体を知らないまま。
また明日、この時間、ここで会おうね、と、指切りをした。
ささやかな児戯。可愛らしい戯れ。子供の約束とは得てして守られないものである。大人の約束とて果たされないのに、どうして子供の言葉が信じられる。
けれど彼は次の日もまた訪れた。また指切りをして別れた。その次の日も、次の次の日も。
あるとき、彼は無言で立ち上がった。指切りの呪文は無しだった。
「じゃあね、リア」
アラルはそれだけ言って、わたしから離れた。わたしは言葉もなく、それを見送った。
何て分かりやすく誠実な人だろう。守れない約束はしない。あまりに潔くて、涙も出なかった。
そんな彼は最後に言ったのだ。
「待ってて、いつか必ず迎えに行く」
その頃、隣国の第4皇子が城を訪ねてきていたことを知ったのは、ずっと経ってからだった。それはわたしに――最後の言葉を、ずっと信じていたわたしに、強い衝撃を与えた。
あの約束が果たされることは永遠にないだろうという予感を伴って、事実はわたしを殴りつけた。
***
「……めっちゃド定番じゃん」
鏡台の前、背後で髪を結う侍女を気にも留めず、私は腕組みをして呟いた。鏡の中から、西洋人顔をした女が真剣な顔をして私を見返した。
「クィリアルテ様、あまり変なことは仰られませんよう」
「私も場を弁えるくらいはするわよ」
「そうではなくて、常にお願い致します」
注意を取り合わずに受け流し、私は再び思考を巡らせた。あれ? 気のせいか、髪を結う手が先程より雑になった気がする――。
***
変なことを思い出したのは、私がおよそ13歳の頃だった。確か。先述の、やたらと妙に感傷的な回想が、10になるかならないかという頃なので、あのときの私に妙なところはなかったということになる。
庭の落ち葉を集めていたとき、唐突に私は思った。
「ポテチが食べたい」
思ったというか、言った。そしてその思いは抑えきれずに噴出し、ポテチという三文字から芋づる式に、(ある程度)ありとあらゆることを思い出した。
「スマホがいじりたい」
「マンガが読みたい」
「コーラ」
「こたつ」
「ラノベが読みた……」
ありとあらゆること(様々な煩悩リスト)を思い出した私は、はたと動きを止めたのだ。
「ラノベ、読みたい……。例えば王国もので、主人公が虐げられてきた王女様で、昔会った皇子と再会する系の定番ロマンス小説、とか……」
そのとき私は自分の立ち位置を思い出した。軽くおさらいしてみよう。
はい、父王がいます。妃がいます。その娘が私。
ところが妃が急死します、後妻来ます、はい。はいはい。見たことある展開ね、はいはいはいはい。
腹違いの弟が生まれます、私の王位継承権が雲散霧消します、なんでだろね、はいはい。
それから程なくして父王亡くなります、てかぶっちゃけ暗殺です、はいはいはいはい、はいはい。
覇権を握るのは後妻の妃とその一族。はいはい、はいはいはい。
ここで問題です! これはサービス問題ですよ……!
邪魔な王女はどうなるでしょうか!
1、殺される
2、いなかったことにする
3、皆に愛される
4、妃(後妻の方)によって手厚く保護される
1番でなかったことはせめてもの救いだが、2番を選択した上で「使用人としてこき使う」という5番を上乗せしてくるところに、妃(後妻の方)の、妃(前妻の方)に対する強い敵愾心を感じる。
何はともあれ、あるあるの展開である。詳細は違えど、少女が継母によって虐げられる展開ってのは古今東西共通だ。西の古典的童話、シンデレラや白雪姫に始まり、東のラノベに至るまで。
そこで私は考えた。ポテチとスマホを筆頭とする、この溢れかえって止まらない煩悩を鑑みるに、もしやこれは、輪廻転生という例のアレではないか、と。どうやら流行りの悪役令嬢ものを外してしまった様子なのは残念だが、恐らくこれはそれより昔から幅広く門戸を広げている、健気な虐げられ系少女ものではないか、と考えたのだ。
私は考えた。それこそ必死に考えた。チキューのニポーンという国のスーパーにハイなテクノロジーのナレッジを駆使して無双出来るのではないかと頭を悩ませた。あれ、そんな国名だったっけ? 確かそんな感じ……。
庭に立ち尽くしていた私に、誰かが城の中から雑巾を洗ったっぽい水をかけても気付かないくらい考え込ん、……いや、流石にそれは気付くわ!
ようやく至った結論は、恐らく前世の私は煩悩に塗れていたため、そちらばかりが印象に残って、重要事項を思い出せないのではないか、という、あまりに残念すぎるものだった。魂にまで煩悩が刻み込まれているって、一体どんな人間だったのだ。
しかし、技術チートや内政チートの可能性が絶たれたとしても、やりようはまだいくらでもある。
……そう、第2の可能性、『前世で慣れ親しんでいた創作物の世界に転生』である。悪役令嬢ものでお馴染みのあれだ。ヒロインのときもある。
これは、この先起こりうる展開を予め知っていることにより、最悪の展開を避けようとした結果、原作にはない結末(悪役令嬢が幸せ)に落ち着き、「やっと気付けたわ。……この世界はゲームなんかじゃなくて、現実だってこと」とか何とか、悟ったようなことを言って終わるやつである。ちなみに多分に偏見を含んだ意見だ。
その裾野は広く、主要登場人物の大半がニポーンからの転生ものや、電波系ヒロインもの、中の人ネタ、チートものとの兼任もあるし、結局運命は覆せずに終わるものもある。途中でいつの間にか転生設定が消え失せて、その割に最終回でいきなり思い出したように言及するものもあったりする。
この可能性に食いついた私は、必死に記憶を浚って、自分のいる世界観と一致するものを探した。
しかし私の名前を記憶と照合しようとしても、思い当たる節はなく、国の名前も、前世に触れた創作物の何ともヒットしない。
あるいは、印象の薄い何かの創作物の中かもしれないが、覚えていないのなら同じことだ。
……つまるところ、私は第2の可能性も絶たれた訳である。
その夜は荒れた。寝床(馬房の隣の納屋)で散々に暴れ回った。ちなみに朝起きたら藁とおがくずが一面に飛び散っていたので悲しかった。
せっかく前世(の煩悩)を思い出したというのに、何も役立てられないのだ。何たる悲劇だ、と、私は幾度となく頭を抱えた。
しかし前世を(薄らぼんやり)思い出したことは、私にとってもいい影響を及ぼした。一言で言えば、自尊心の大いなる欠落である。
現状、使用人としてこき使われ、しかも給金が出ないし城に住み込みとして入れてもらえないという様々な苦難に陥っているが、それを耐え難く思うのは、数年前まで王女として傅かれていた経験があるからだ。
ところが、何ということでしょう! ニポーン人としての自我も兼ね備えた私は、屈辱を屈辱と判断する閾値が猛烈に上がり、ちょっとやそこらの理不尽も、笑って受け流せるように……
「なるかー!」
雑巾を床に叩きつけ、私は地団駄を踏んだ。
ちなみに、雑巾を洗うためのバケツを蹴り飛ばされ、犯人が角を曲がってから30秒後の叫びである。
そう、驚きなのは、私が前より怒りっぽくなったという点である。
思えば生粋のクィリアルテは、淑やかな王女で、何があっても穏やかに微笑む、心優しい少女だったように思う。何か嫌なことがあると、「私が全部悪いの……」と、さめざめと人知れず泣くタイプの女の子だった。ストレス耐性低そう。
ところがどっこい、そんなクィリアルテの自我に飛び蹴りを食らわせ、侵入した挙句、のうのうと居座ったニポーン人の前世が拳を振り上げるのだ。
「こんな理不尽、許してはいけないわ!」
その日から、私の口癖は「労基に訴えてやる」になった。まあこの世界に労働基準監督署はないんですけど。
***
「定番、よねぇ……」
顎に手を当て、私はしみじみと呟いた。
「クィリアルテ様?」
「おわっ」
物思いにふけっていた私は、唐突に話しかけられ、飛び上がった。侍女が怪訝な顔をして、鏡越しに私を見る。
「申し訳ございません、ご様子がおかしいように見受けられましたので」
「え、ええ、いや、大丈夫よ」
フォレンタという名の侍女は、何とか取り繕った態度の私に不審な目を向けた。危ない危ない。彼女の前で変なことをすると、直通で継母のところへ連絡が行くのである。
「再三申し上げますが、くれぐれも、突飛な行動や、礼儀を欠いた態度はお取りになられませんよう」
「分かってるわよ」
「相手は大国の皇帝です。この婚姻が我が国にとってどれほど重要なものかお忘れですか」
「はいはい、覚えてるわ」
きっちり、一筋の乱れもなく結い上げられた髪を鏡越しに眺め、私は思わず感嘆のため息を漏らした。フォレンタは妃……現在は女王として即位している、例の継母の手先ではあるが、彼女自身の手先はとても器用で、素晴らしい腕を持っている。
しかし今はフォレンタの技術について言及している場合ではない。
現在論ずるべきは、何故先程から、私がド定番ド定番と繰り返し呟いているかの問題である。
「あの、ディアラルト皇帝との初めての顔合わせです。そこでの言動は、印象のほとんどを決定づけましょう」
だから決して粗相のないように――。フォレンタに繰り返し言われ続けた小言だ。
そう、めでたいことに、今回私の結婚が決まったわけだ。女王は正気か?
そして何より注目すべきは、相手となる皇帝。隣国の国主である。年齢は私より4つ上らしい。
少し考えるなり調べるなりすれば分かることだ。十中八九、というより確信しているが、ディアラルト皇帝とは、私の幼少期の記憶にあるあの少年、アラルである。
大体名前が安直すぎである。生粋のクィリアルテなら九分九厘気付かずに、「私には心に決めた人がいるのです」とかほざいて、皇帝を拒んで、こじれにこじれる様子が目に浮かぶけれど、……いやその皇帝の名前の中に、あなたの想い人の名前が入ってますよー!
まあ、それがロマンスものの醍醐味とも言えようが、……しかし。
「無用な苦労は避けるに越したことはないわよね、フォレンタ」
「え? ああ、はあ、そうですね。何の話ですか?」
失礼な侍女フォレンタを従えた、(自称)フラグクラッシャー・クィリアルテの婚姻の支度は着々と進む――。
***
「女王陛下がお呼びだ、立て」
「……は?」
納屋で、藁の中に転がっていた私のところに、王国の騎士が現れたのは、つい数ヶ月前のことだった。
前世をアバウトに思い出してから、はや4年。食料は城の残飯。流石は王城である、残飯とは言えども高級食材だ。毎日労働でしっかり体を動かし、栄養たっぷりのご(残)飯を食べて成長した私は、すっかり健康優良児に育ち、ただ致命的に常識と礼儀を兼ね備えていないだけの、一万年に一人の美少女(私調べ)になった。
最近では廊下を馬鹿みたいに磨き上げて、道行く人が踵から滑る様子を見て楽しむという、何とも画期的な遊びを新たに考案し、毎日地味に楽しくやっていた頃のことだったので、私は心底困惑した。女王が私の存在を覚えていた、ということが、何より恐ろしいホラーで何より不可解なミステリーだ。
「人違いではないでしょうか」
「女王陛下がお呼びだ、立て」
「うわ、この人語彙が文節三つしかない」
「……立て!」
毎日人と関わらずに過ごして来たため、どこまでが口に出して良いレベルか、どこからが心の中で思うだけに留めておくべきレベルかが掴めない。しかしどうやら私は失敗したらしかった。
両脇を引っ捕えられ、強制連行された私は、すごすごと納屋を立ち去り、そのまま玉座の間まで連れていかれたのだった。
「久しぶりね、クィリアルテ」
「はい、女王陛下」
応急措置的に藁を払い落とされただけの私は、玉座に座る女王の前に膝をつき、頭を垂れた。
「どうやら、その……息災なようで何よりだわ」
どこからどう見ても健康優良児の私に、女王は当惑したような顔をしていた。恐らく城内で虐げられて、醜くやせ細った姿を想像していたのだろう。
私をいないものとして扱え、しかし見かけたらいじめろ、という指示は、やはり女王自身のものだったらしい。
「女王陛下のご采配のお陰です」
認めるのは癪だが、敏腕政治家たる女王が振るう辣腕は、この国に明らかに利益をもたらしている。政治の面で言えば、死んだ(殺された)父王より余程上だと認めざるを得ないし、だから父も殺されたのだろうとおおよそ見当はつく、が。
個人的な感情のままに出した、私に関する命令は完全に失敗である。あまりにあからさまな「王女を虐げろ」発言を受け、私に同情した使用人は多かった。
もちろん、私に雑巾を投げつけると1ヒットにつきボーナス6銀貨という特典もあるため、同情しつつも小遣い稼ぎに勤しむ使用人が大半である。ちょっと、それ半分寄越しなさいよ。
しかし例えば、王女擁護派の料理人に至っては、どう見ても使用人のものより豪華な夕食を、皿ごとゴミ箱にそっと入れるといったような、分かりやすい気遣いをしてくれる。ちなみに、他に何も入っていない、新品同様、磨き抜かれて小綺麗な、取ってつけたように「ゴミ箱」と書かれた、繊細な細工付きの真鍮製のゴミ箱である。形は大きな宝石箱に似ている。隣に食器返却口のついたゴミ箱(という名の何か)である。分かりやすい。時々、他の使用人が入れてくれていると思しきスキンケア用品や、諸々の生活必需品、新しい服(哀れにも圧縮されて詰め込まれていた)などもあったりして、なかなかに快適だ。しかし誰もかれも、表面上は「え、王女? 知らない」みたいな態度で、私が近付くと箒でつついて追い払ってくれるので、礼のしようもない。なんか見えない妖精さんみたいな扱いである。
何はともあれ、認識はされていないものの、私が元気に生活を送っていられたのは、まあ巡り巡って女王の命令のお陰だろう。
「……そう」
女王は歯ぎしりでもしそうな顔をして呟き、私を見下ろした。よく分からないが母との因縁があったらしいけれど、それを私に押し付けるのはやめて欲しいものだ。
「え、ええと、本題に入るわ」
「クビですか?」
「違います」
ぶっちゃけ貯金(差し入れを売っぱらった分)も貯まって来たことだし、そろそろ城を出て独り立ちしても良い気がする。特技も何も無いけれど、まあ何とかなるだろうと踏んでの計画だ。今も快適だけどねー。
「貴女には結婚して貰います」
「無理だと思います」
頭の中に浮かび上がる、正気か? の一文。
「貴女に拒否権はありません」
「おぅ……」
私は二の句も継げずに女王を見上げた。
「ちなみに、どちらに……?」
「隣国の皇帝陛下、ディアラルト様です。幼い頃にこの城を訪問したこともあって、目をかけて頂いているのよ」
事も無げに言ったその言葉に、私は目を剥いた。その名を数度反芻し、幼い頃にここを訪れた他国の王族をリストアップし、私はその正体を、一瞬にして(やや誇張あり)突き止めた。
かつてお互いに正体を知らないまま仲良くなった異性ってのは、得てして気付かないまま結婚することになるものである。ちなみに高貴な存在だと確率は激上がりする。
その瞬間、私の目の前に光が射したように錯覚した。
転生による技術チートは叶わなかった。未来予知に近いような、既知の世界に転生することも出来なかった。
……しかし、これに近いストーリーなら、何度も読んだ。どのようならトラブルが一般的に起き得るか、その予測なら出来る。
――――それにしたって、
「ド定番だわ……」
「はい?」
「いえ、何でもございません」
胡乱げな顔をしている女王を尻目に、私は急速に頭を巡らせた。ここから起きる可能性のあるテンプレ展開をいくつか思いつき、紙を手に入れ次第書き留めようと心に決める。
「……何も訊かないのね?」
「恐らくこの展開、初めは認識してもらえずに、『俺がお前を愛することは絶対にない、ただの政略結婚だ』とか言われて捨て置かれるのが定石ね。どうせ女王が無理やり押し付けた結婚だわ、うちとあの国はそこまで仲良くないもの、政略結婚は確定よ。だとすれば取るべき行動は耐え忍ぶことではなくて、」
「質問はないようね」
私が必死に考えている間に、女王が何か言っていたようだが、まあ関係ない。そのまま再び両脇を抱えられて連行され、裸足の踵が床を擦る音を高らかに響かせながら、私は玉座の間を辞した。
***
「フォレンタさんフォレンタさん」
「はい?」
「この馬車、もしかして、超高級なやつじゃないですか」
馬車に押し込まれてから、はや3時間(体感)。あまりにいきなりのことに呆然としていたが、ようやく我に帰ったのは、およそ1時間前のことである(体感)。
とんでもない事実に気が付き、私は前のめりになってフォレンタに顔を寄せると、声を潜めて囁いた。
すると何ということだろう。フォレンタは心底呆れたような目をして私を眺め、無礼にも長いため息をついた。
「最も良い馬車ですよ」
「やっぱり……! 馬車を間違ってしまったのね、戻って乗り直さないと、」
「間違ってはおりませんよ」
「うそぉ」
私は驚愕してひっくり返った。しかし流石は高級馬車、ぽふ、と軽い音を立て、クッションが私の背を受け止めた。
「暴れないでください、お化粧やドレスが乱れます」
「着いてからにすれば良かったんじゃないのかしら」
「馬車を降りれば恐らく誰かしらが待ち構えていると思われますが、クィリアルテ様はそこにパジャマで先陣を切るおつもりで?」
「げっ」
それは確かに気を張らねばならないかもしれない。納得して大人しくなった私を、フォレンタが凪いだ目で一瞥した。
隣国パンゲアに向けて城を発ち、およそ一日経った。すっかり日も暮れて、私は馬車の中でぐったりとしていた。
不意に、フォレンタが馬車の窓にかけられた布を持ち上げ、当然のように呟く。
「着きました」
「つ、つつつつ着いた!?」
「はい」
「良い馬車って、はははは速いのね!」
「どちらかと言えば馬が良いのではないかと」
「あわわわ」
私は泡を食って飛び起き、慌ててドレスを撫でつけ、背を伸ばして座り直した。そんな私をフォレンタが冷たい目で見ていた。
「貴女は愛されて育った王女よ、ずっと体調が悪くて外交が出来なかったと言いなさい。変な王女を押し付けたと突き返されてはかないませんからね」
「わざわざそんな言い訳をしないといけないのに、何で婚姻なんて決めちゃったんですか?」
出発する直前、城の入口で私を呼び止めた女王は、階段の上でつんと顎を上げた。
「私は何としてでもパンゲアと密な国交を結びたいの。他に王家の女児がいないのなら仕方ないでしょう」
私は思わず笑ってしまった。
「だから、暗殺するの早まったって、ずっと思ってたんですよね。あと二人くらい、少なくとも女の子も産んでからにすれば良かったのでは?」
そう言ってから、私は失敗を確信した。女王の顔色が一瞬にして白くなり、それから青くなったかと思うと、じわじわと頬から赤みが射してくる。
「あ、……暗殺!? していないわ、そんなこと!」
言葉も出ないらしい。何度も、選んだ言葉を唇に乗せかけ、その寸前に飲み込むように、口を開閉させる。
「貴女まさか、ずっと、私が国王陛下を弑したと、」
ついに激昂も振り切れ、震えながら見下ろしてきた女王に、私は冷ややかな目を向け、低い声で吐き捨てた。
「……だったらどうして、お父様を看取ってはくれなかったの」
城の玄関。吹き抜けのホール。正面階段を上がった先の壁には、まだ昔の肖像画が飾ってある。恐らく、新たな女王は、新たな肖像画を誂えるような贅沢を好む質ではないからだ。
穏やかな顔をした父、目を細めて微笑んだ母、その腕に抱かれた私。
眩い金色の髪も、鮮やかな青色の目も、全て定番だ。そして私が母にこの上なく似ているというのも、抗いがたい定石だった。
「だいっきらい」
妙に舌足らずな言葉は、静まり返った玄関に落ちて、低く、跳ねた。
「ええと、私は愛されて育った王女です。みんな優しくて、いつも残飯……素敵なご飯を食べさせてくれました」
「お言葉ですが、一国の王女が、いきなり食事問題に言及することには違和感を覚えます」
「あら、そうね」
それから何度も練習を重ね、ある程度自信がついた頃、馬車が止まった。扉が軽く叩かれ、開く。
「お待ちしておりました、クィリアルテ様」
茶色い髪をした、人懐こそうな青年が、馬車の中で硬直したままの私に微笑みかけた。
「ようこそ、パンゲアへ」
お恥ずかしながら、ときめいた。王女扱いをしてくれる人はずっとおらず、侍女たるフォレンタもこの通りなので、丁寧に扱われた経験がここ数年全くないのだ。
しかも、前世の性癖のど真ん中を突き刺す青年に、私はこの国での生活の苦難を予感した。
***
「どういうことだ」
ディアラルトは執務室の机に頬杖をついたまま、低い声で呟いた。
「結婚がいつの間にか勝手に決められたことも、その犯人が部下であることも、今のところ結婚する気はないと宣言していたにも関わらず無視されたことも、相手が今更断りを入れられないような大きめの王国であることも、相手が既にこちらに発っていることも、全て、一旦見逃すとしよう」
隠密を睨みつけ、ディアラルトは提出された報告書をぺらぺらと振った。隠密は哀れにも冷や汗を流して唇を噛んだ。
「しかし、その相手が既に死んでいるはずの王女とはどういうことだ?」
「わ、分かりません……!」
「分からないで済ませられるか。大問題だぞ」
ちゃんと調査したのか? と改めて問うも、隠密の返事は変わらない。
「本当に、何も掴めなかったんです! 誰に聞いても『王女は死んだ』と言いましたし、王族のみに立ち入りが許可されている禁書の棚に忍び込んで家系図も調べましたが、既に朱で消されておりました!」
「それは……」
ディアラルトは言葉を切り、報告書を再度見下ろした。
「……死んでるな」
「はい!」
力強く頷いた隠密に向かって溜息をつき、ディアラルトは深く椅子に腰掛け、足を組む。腹の上で指を組んだまま、机の木目を眺めた。
「しかし、実際にその王女はこちらに向けて発っている。存在しているんだ」
隠密が、ごくりと唾を飲んだ。ちら、と机の脇にある剣に視線を投げてやると、面白いほど竦み上がる。
「ローレンシアは何を考えている……? 王女でない者を王女と仕立てあげてパンゲアに送り込まんとしているのなら、これは許し難い裏切りだ」
「ででででですよね、悪いのはぼくじゃなくてローレンシアですよね、」
「刺客か……? にしてはあまりにも杜撰な計画だな」
隠密が、閃いたように人差し指を立てた。
「へ、陛下を骨抜きにしようとしている、とか。それでパンゲアを中から操ろうと」
ディアラルトは、その言葉を、ゆっくりと反芻した。刺客という説に比べれば、余程可能性が高いように思う。
「無理だな」
静かに目を伏せ、彼は呟いた。瞼の裏に蘇るのは、はるか昔、ローレンシアを訪れたときの記憶だ。青白い月光の射した、冷ややかな温室を思い出す。
「俺には心に決めた人がいる」
隠密が目を見開き、信じ難いと言わんばかりに絶句した。その視線を心の端で愉快に思いながら、ディアラルトはかつての約束に思いを馳せた。
「必ず迎えにいくと約束したんだ」
だから、別の妻を迎える気はない、と、そう呟いた。
***
これは自論だが、こういうロマンスものは、一切、一っっっっっ切複雑でない問題を無駄にこじらせるものである。現代幼馴染ものとかももちろん、王国ものも、全ては大体変な勘違いにより生まれるすれ違いがメインである。
ずっと、「あの人は私のことなんて好きじゃない、好きなのは私だけなの……この想いは秘めるわ……」とか言ってたけど、いざ何かハプニングが起き、蓋を開けてみれば両思い。よくあるやつだ。
あとこれは完全な偏見だが、主人公が王女あるいは貴族の令嬢の場合、心が通じあった時の言葉は「お慕いしております、○○様」である。なお、完全な偏見だ。
このような思考回路を鑑みるに、私が前世、評論系クソオタであったことは明白である、多分。
「パンゲアまでは遠かったでしょう、さぞかしお疲れかと」
「いえ、それほどでもありませんわ」
言語も文化も、ほぼ同じ。この辺りも、ゆるいロマンスものを思わせる。食文化の違いにヒロインが苦しむことはまずないのだ。……まあ私は何でも食べることが出来るとは思うけれど。
私は半歩先を行く、前世の性癖にドンピシャの青年をちらちらと見ながら、城の廊下を歩く。
「……好き…………」
人となりは分からずとも、見た目だけで好きになれると確信できるキャラってのは、一定数いるものである。
少し垂れ気味の丸い目と、柔らかめの茶髪。身長は一般的だけど可愛い系の青年だ。断言しよう、一人称は恐らく「僕」だ。
「あ、すみません、名乗っていませんでしたね」
ふと彼が立ち止まって、照れたように頬をかく。よしよし、可愛い。
「僕はメフェルスといいます、皇帝陛下の側近で、乳兄弟なのでずっと一緒に育ったんですよ」
予想が見事的中したことに、内心喝采を上げながら、私は控えめに微笑んだ。僅かに首を傾げ、メフェルスを見つめる。
「皇帝陛下はどのようなお方なのでしょうか。何せ突然のお話だったもので……」
するとメフェルスは、きょとんとしたように足を止め、怪訝な目をして私を見返した。
「クィリアルテ様のたってのご希望による婚姻とお聞きしておりましたが……。皇帝陛下をご存知でないのですか?」
私は顔面蒼白になり、咄嗟にフォレンタを見やった。彼女も引きつった顔をしている。あてにならない。女王、そういう設定資料はちゃんと用意して下さいよ。
「え、ええと、……その通り、私の希望よ。でも、ずっと側にいたあなたにもお話を聞いてみたいと思って」
狼狽えつつ、何とか取り繕うと、メフェルスはにこりと笑った。客人に対する礼儀を叩き込まれているのはよく分かるのだが、考えていることがいまいち読めない笑顔は少し怖い。
「そうですね、うーん……。皇帝陛下は少し厳しい人です。自分に対して厳しいのと同様に、他者にもそれを求める性質のあるお方ですね」
心中では「何だその性質、勘弁してくれ」と思いながらも、私は軽く頷きながら、わざとらしく感心したような表情を浮かべた。
「私もあまり甘えてはいられないようですね」
「しかし自分の同胞と認めて下さった相手に対しては、非常に情の篤いところもありますので、あまり警戒なさらずとも良いのではないかと思いますよ」
あーはいはいはいはい、と胸の内で全力で頷きながら、私は安心した体で胸を撫で下ろした。
よくあるやつね、主要男性キャラによくいるやつね、敵には厳しいけど仲間には優しい人ね、あーはいはい。
私の中のニポーン人が「定番じゃないか」と石を蹴ったが、無論ローレンシアの王女たる私は大人しく廊下を歩くだけだ。
「皇帝陛下」
メフェルスが扉を叩く。廊下を散々歩いた先の、大きな扉である。いかにも厳かで、入るのを思わず躊躇ってしまいそうな雰囲気。
「入れ」
扉の向こうから聞こえた声に、私ははっと目を上げ、息を呑んだ。そうだ、私の記憶の中のアラルは少年、あれ何歳だ? ……14の少年だ。でもあれから既に7年経った。うわ、じゃあもう成人してるのか。
思いのほかただの男性の声だったので、動揺した。よくよく考えれば当たり前なのだけれど、まあ、その、つまり……。
「これからロマンス展開に繋がると分かっている人に会うのは恥ずかしい……!」
「はい?」
「何でもありませんわ、くしゃみです」
メフェルスが隠しきれない微妙な顔をして「そうですか」と呟いた。
「失礼致します」
軽く一礼しながら扉を開き、中に足を踏み入れたメフェルスについて、私も部屋の中へ入る。二歩目で私の足は止まった。
どうやら皇帝の執務室か何かのようだが、これは一体……。
「凄まじく厳戒態勢ですよ」
こそ、とフォレンタが囁いた。何でい、言われずとも分かってら!
正面の大きな机の向こうで椅子に腰掛け、頬杖をついている皇帝も目を引くことは引くのだが、普通なら目が吸い寄せられて少しくらい何かの予感を感じてもいい場面なのだが、「アラルに似てるわ」くらい思ってもいいかもしれないのだが、いや、今はそんな場合ではない。
ずらりと両脇に並んだ兵士たち。三列横隊が2つである。計6列。全員が剣を構え、中央の通路を見ている。
ちょ、ちょっと斬新なお出迎えですのね……?
分かっている。分かってるさ、ここは皇帝の描写をするべき場面だって。しかし駄目だ、どう頑張っても視線が兵士の剣に行く。な、何で抜き身……!?
下がれ、と皇帝の合図でほとんどの兵士が部屋を出たが、それでも片手の指を超える人数が残った。ぱっと見た感じでも、結構地位が上っぽく見える強そうな人ばかりである。
「クィリアルテ・ローレンシアか?」
「は、はい!」
銀色に光り輝く剣の先を見つめていると、唐突に声をかけられ、私は飛び上がった。何とか視線を刃物から引き剥がし、正面で座ったままの皇帝に目をやる。
しかし、どうしても、視界にちらつく剣が、……待って! 皇帝の机の脇にも剣が!
「ローレンシアの第一王女か?」
「はい」
物騒な部屋だ。出たい。今すぐに出たい。
「妙だな……。ローレンシアの王女は、八年前に亡くなったと聞いていたが」
「なくなっ……!?」
私は凍りついた。二の句が継げないまま、皇帝を見つめる。
「確か弔辞も贈ったが」
「女王、詰め、甘すぎ……」
あの女王と来たら、私を死んだことにしていたのに、すっかり忘れて私を嫁がせたらしい。設定がガバガバだ。
「そ、それは、私の姉です」
「ならお前は妹か」
「はい」
誤魔化す気満々で答えると、皇帝は少し考え込むように視線を床の方に流し、それから瞬きと同時に私を見る。
「しかし、お前は数秒前に、『第一王女だ』と言ったな」
「うっかり間違えてしまいました、第二王女でこざいます」
フォレンタが音もなく退室しようとして、メフェルスに笑顔のまま腕をガッと掴まれていた。あれ、これやばい状況?
「俺はローレンシアの第一王女が来ると伝えられていたが」
「すみません実はさっきのは嘘です」
背中を、汗が伝った。心臓がばくばくと体の中を暴れ回り、私は指一本動かせないまま答える。
「じ、実は……生き返って」
「は?」
「葬式を上げてから生き返ったんですけど、もう死んだことになってしまっていたので訂正も効かず、しかもつい最近まで体も弱っていたので、その……」
「病み上がりにしては健康そうだな」
「んんん、……私もそう思います」
一切信用していない目付きで、上から下まで眺め回された。一度逡巡したように額を押さえ、それから苦悶の表情で頷く。
「……そうか」
「そうです」
何とか丸め込んだ予感(多分気のせい)に私は表情を明るくし、胸の前で握っていた拳を下ろした。
そのとき、皇帝が、細く息を吸った。僅かに伏せられていた瞼が擡げられ、その瞳が、真っ直ぐに私を見据えた。
「言っておくが」
来た、と私は身構える。
「これはあくまでも政略結婚だ。俺がお前を愛することは決してない」
私は体の脇に下げたままの拳を握った。それは恐らく周りからは、衝撃を受け、屈辱に耐える仕草か何かに取られただろうが、……否、私は感動していたのだ。
ま、まじで言った…………。
「そ、うですか」
ぎくしゃくと答えた、その言葉に、皇帝が眉を上げる。私の表情を確認した瞬間、ぎょっとした顔をした。それに気が付いて、私は緩みに緩んでいた頬を引き締める。
……いや、これはニヤつくでしょう。このテンプレ発言が、いざ生で聞いてみると、こんなにも痒くて面白いものだとは、言われてみないと分からないものである。良い経験をした。
しかしここで退いては駄目なのだ。幾度となく見てきたパターンから察するに、このまま私と皇帝の接点は一切なくなる。多分。婚姻の儀式をぱーっと終わらせ、初夜は一人ですやすや眠って、そのまま捨て置かれるんだけどあるとき庭かどこかで遭遇して「あんたの言いなりになんてならないんだから!」と叫んで去ったあと、「面白い女だ」と呟かれるまでが一連である。あれ、今ちょっと学園ものが混じったかもしれない。まあとにかくそんなまどろっこしいことなんてしてられない。
面倒事をショートカットするためには、そう、いち早い身バレである! これを散々隠すからこじれるのだ!
「皇帝陛下!」
さあ出てけと言わんばかりに目を逸らした皇帝に、私は呼びかけた。気合が入りすぎて叫んでたけど。
視界の隅でフォレンタが目を剥き、唖然として私を見ていた。
「私のこと、覚えてませんか……?」
渾身の潤んだ瞳で囁きかける。胸の前で指を組み、僅かに身を乗り出しながら首を傾げた。
「覚えていない」
「うそぉ……」
一秒も待たずに帰ってきた返事に、心がほとんど折られかける。膝から頽れる直前、気合で踏ん張り、私は鼻息荒く告げた。
「ローレンシアに来たとき、私と会ったことを覚えていないの!? 私よ、思い出して、アラル、」
皇帝が、目を見開いた。その瞳が、眼窩の中で震えた。
「投獄しろ」
う そ だ ろ !
皇帝は立ち上がり、表情の抜け落ちた眼差しで私を見据えた。その手が机の脇の剣に伸びる。
「お前がローレンシアの王女として来た者でなければ、今すぐその首を断ち切っている」
早く連れていけ、その言葉に、両脇にいた兵士が私を取り囲み、しっかと腕を掴む。あれ? 自国ローレンシアの騎士よりちょっと優しい気がする? おかしいな? 私ローレンシアの王女ぞ?
「二度とその名を口にするな」
噛み締めるように、皇帝が低い声で唸る。私は絶句したまま、答えられない。
執務室から引きずり出されながら、私は落とし穴に気がついた。心の叫びは何度も木霊した。
――――で、でたーー! これ、再会したらヒーローが何かトラウマ抱えてて人格変わってるパターンだー!
お読み頂きありがとうございます。
上記の通り、この小説には、ちょいちょいどこかで見たことがある展開などを、「でたー」などと言って取り上げ、俯瞰的に表現する場面がございます。これは決してそのような展開などを批判したり馬鹿にしたりする意図によるものでは一切なく、ただ「あるある」のようなものとして、笑って見て頂けると幸いです。
やや見切り発車であることや所用により、完結まで時間がかかると思いますが、完走はしたい所存です。頑張るのでぜひ暖かい目でご覧下さい!!
2018/02/03 管理のため第1章タイトルにそれぞれ数字を付記
02/19 矛盾が生じたため訂正