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あの日からたびたび殿下の襲撃を受けています。
「マリーンドロス」
「ごきげんよう、アードル殿下」
「今日も中庭で昼食をとるのであろう。紹介したものがいるので一緒に来い。」
「わかりましたわ。」
厄介ごとが増えそうです。
イケメンは遠くから眺めるのが一番なのに、YESイケメン・NOタッチです。
私は殿下に促され、中庭に移動します。
そこには悪役面のイケメンがいました。
「彼は私の側近第2号のオズワルト公爵の嫡男ワーレンだ。」
「わたくしマリーンドロス侯爵の娘、フィルスリィーナと申します。」
「マリーンドロス嬢のお噂はかねてより伺っております。」
なんだろう、何か嫌なぞわっとする笑みを浮かべる方です。
しかし、側近第2号とはこれいかに・・・
「アードル殿下、側近第2号とはどのような意味なのでしょうか?」
「そなたが第1号なのだから、オズワルトが第2号なのは当然であろう。」
今嫌な言葉が聞こえたような気がします。聞き違いだったらいいな・・
「アードル殿下、いつからわたくしは側近になったのでしょうか?」
「何を言うか、出会ったときに運命を感じたのだ。そなたは面白いと。」
質問の答えになってない!殿下の側近はお笑い芸人ですか、なぜ面白いで側近なのですか。
「左様でございますか。」
私に返せる言葉はこれが限界です。
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今日も殿下と側近の3人は、中庭で昼食です。
側近は3人です。第3号が先日任命されました。男爵家子息のテラサルド・リッツです。
「テラサルド、最近城下で詐欺まがいの商法が横行していという噂があるが知っているか。」
「アードル殿下、詐欺とは言いにくいのですが、契約内容に手数料等をいろいろばれないように含ませる商人がいるようです。」
「オズワルト、これはなんだかの処置が必要ではないのか。」
「おっしゃる通りです。すでに配下の者に調べさせております。今しばらくお待ちください。」
3人が面倒くさそうな話をしている横で私は黙々とお弁当を食べています。
だって今日のお弁当は唐揚げです。テンションマックスです。
「おいしー!」
「「「・・・」」」
「そなたはいつもどおりだな。」
「はい、アードル殿下、おいしいです。」
殿下が私のお弁当を見ています。なんでしょうか?
「その小麦色の肉はなかなか美味しそうだな。」
「おいしいですよ♡」
そう言いながら残り2個の唐揚げをまた一つ食べました。
「おい、なぜ食べた。」
「え、なぜって今はお昼でお弁当の時間ですよ。」
「アードル殿下、この者に遠回しな言葉は通じません。マリーンドロス嬢、殿下はその小麦色の肉をご所望である。」
「あ、唐揚げ食べたかったのですね。では、あーん。」
私は最後の唐揚げを殿下の口元に運びます。
なぜでしょうか、殿下が固まっています。あ、今度は赤くなりました。面白いです。可愛いです。やっぱりイケメンは絵になります。
決意したような顔をしたのちに殿下は唐揚げを口に入れました。
「確かにこれはうまいな。」
そう言って殿下は微笑みました。
ドキッとします。殿下は私を萌え殺すつもりでしょうか。きっとそうなのでしょう。くっ、殺せ。・・・・・少しいけない想像をしてしまいました。私は、だいぶ動揺しているようです。
周囲を見ると、なぜか生暖かい目をしている。
これはもしやフラグが立っているのか。いや相手は殿下、成績優秀のイケメン、高収入の有望株です。安心しろ、私はわかっています。勘違いなんかしないし。
その後、食事も終わり殿下と別れて私は実習服に着替えるために更衣室に向かっています。
あ、進路前方に敵集団です。両翼を展開しわが方を半包囲のするつもりです。
「あら、ごきげんようマリーンドロス侯爵令嬢、今日も殿下とご一緒だったようですけれども、そろそろご自身の御立場をご理解なさって、同席をご遠慮なさるべきではありませんこと。」
今日も来ましたよ、ローランド侯爵令嬢のエリザベス様です。
とりまき4人を左右に展開していじめの陣形です。
これは退路を断たれる前に早々に離脱せねばなりません。がんばれ私
「ごきげんようローランド様、今日も大変お美しいですね。わたくしも殿下がローランド様にお声をお掛けにならないことが不思議です。気後れしていらっしゃるのでしょうか?」
油断を誘うために、ご機嫌取りをします。
2人のとりまきがその間に後方に回り込みました。包囲網の完成です。
敵の練度が高い、困りましたね。ふと右前方の令嬢が目にとまった。よし、いける。私は活路を見出しました。
「悪天候のためシュタインベルガーの納期が遅れるかもしれませんわ。」
どうだ、あなたのところが急ぎで、私の商会に注文した商品ですよ。
周りのご令嬢は、何を言っているのだという顔をしておられますが、右前方のご令嬢はハッとして一歩後退る。
今だ、右前方、敵の包囲の間隙をついて強行突破です。
「それでは急いでおりますので、ごきげんようローランド様」
脱出成功です。
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「・・証拠を・・」「・・騙されたことを隠して・・」「ここは強硬策で・・・」
あ、また面倒くさい話をしている。私はいつもの場所で昼食です。
どうも詐欺がどうこういっています。む、詐欺・・・
わが家も詐欺にあったのだった。そうか、みんな引っかかったのだね。
「おい、マリーンドロス、そなたも被害にあったのか?」
あ、声に出ていたみたいです。面倒だな。
「少し前に商品を買ったときに、手数料をぼったくられたことがございますの。ホホホ」
あ、殿下と2号が悪い顔をしている。怖いぞこれは・・・
その後、殿下の権力と2号の裏工作と3号の・・いや3号は何もしていない、の力によって商人は罰を受け、繋がりのあった高位貴族も周囲からの信頼を失ったようです。
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お昼です。私はいつもの場所に行くために廊下を歩いています。
あ、進路前方にローランド侯爵令嬢です。とりまきはおらず敵は1人のようです。強行突破か後方に向かって前進かを悩むところです。
少し悩んだ隙に敵はこちらに気付いたようですが、なんと反転離脱をはかっています。
なぜ・・とは思いますが、このまま中庭に行けそうです。
「アードル殿下、今日のお弁当は唐揚げですよ。しかも鳥だけじゃなくてイカとホタテもあります。半分こしてもいいですよ。」
「そうか・・では、もらおうか」
私は、バスケットから予め別に用意していた唐揚げ入りの銀食器を殿下に渡します。
「・・・なぜだ。」
「なぜとは?毒入りとか気にされるかと思いまして今回はちゃんと銀食器にしましたわ。」
前回のあーんは毒入りとか警戒されるかもしれませんし。よく考えたら恥ずかしいので銀食器に入れてきたのに何がご不満なのでしょうか・・
そしてこの、周囲の方の何とも言えない顔はなんなのでしょうか。わかりません。
「お嫌いなものがございましたら、残していただいてもかまいませんのよ。」
「・・問題ない、うまいぞ。」
その後、食事も終わり殿下と別れて私は実習服に着替えるために更衣室に向かっています
なにかデジャヴュを感じます。現れました進路前方に敵・・じゃなくて隣国の王女様を発見しました。急速に近づいてきます。
「ごきげんようマリーンドロス侯爵令嬢」
「お初にお目にかかります。アデーレ・イースガルド様」
商売上、お偉いさんの名前は憶えておりますとも。完璧です。
しかし、どのようなご用件でしょうか?
もしや・・などと考えたりもしましたが、杞憂に終わりました。
少しお話をして、お友達になりました。はい、それだけでした。