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私の名前は、志摩エリカ・・じゃなくてフィルスリィーナ・マリーンドロス12歳です。
「いざ行かん麗しの学園生活、ヒャーホー!」
「お嬢様、もうすぐ学園に到着しますので侯爵令嬢らしく、そろそろ猫を被ってください。」
「だって学園生活ですよ。ぴちぴちの若者がキャッハウフフですよ。楽園ですよ。」
「学園でも残念令嬢の称号を得たいのですか、お嬢様」
「む、それは困りますわ。ありがとうセリナ、少し落ち着きましたわ。」
「10歳の時に商業ギルドではしゃいだせいで商人の間では黙っていれば麗しの令嬢で、言葉を交わせば神童の残念令嬢と呼ばれるようになったのを、お忘れにならないようお願いいたします。」
浮かれていた気持ちが、ちょっとしゅんとなりました。
「お嬢様は、シャンプーやクロスボウを発明した神童で、注目されているのです。気をつけてください。」
私は侍女の言うとおり、いろいろ発明してお金を稼でいる。
だって、この世界は娯楽が少ないの、もっと楽しくなくちゃやってられない。
だけど城下は危ないだとか、はしたないだとかいろいろ言われたので娯楽用品から武器までいろいろなものをお父様やお兄様に提案して私のワガママを認めさせました。
イケメンを従えて城下で豪遊ヒャッホーです。
(本人はそう思っているが、護衛を連れて屋台で串焼きを食べたり露店で小物を買ったりしているだけである。)
そして今日は同年代の貴族が集まる学園への入学の日、テンションマックスです。
遊ぶ準備は万端で、リバーシ・将棋・トランプ・チェス等いっぱい持ってきましたよ。フフフ・・
「お嬢様、お顔があちらの世界に行っておられます。学園に到着しましたので馬車の扉を開けますよ。」
「セリナ少し待ちなさい。今顔を戻します。」
「お早くお願いいたします。」
「私はお嬢様、私はお嬢様・・」
冷静になれる魔法の呪文を唱えます。
「さあ行きますわよセリナ」
「はい、お嬢様」
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「ごめんなさい、リィーナ・・」
「大丈夫ですローゼお姉さま、この程度ポケットマネーで賄えますわ。」
入学早々なぜこんな話をしているのか、それは姉が詐欺にあってしまったからです。
珍しいものが好きなお父様への誕生日のプレゼントを知人に紹介された商人から買ったのですが、契約書の引っ掛けがあってぼったくられたのです。
「妹にお金を借りるなんて、情けない姉でごめんなさい。」
しゅんとしたお姉さま可愛すぎです、守ってあげたい系です、ご飯三杯はいけます。
「ローゼお姉さま気にしないで下さい、足りない分はわたくしが払いますので元気を出してくださいませ。」
「駄目よ、リィーナ「いいのです。」」
「実はわたくし・・お父様の誕生日を忘れていて今からではプレゼントが間に合いませんの。ですからこれは二人からのプレゼントという事にして頂ければ万事解決ですの。」
「・・・」
「ちょっと学園生活が楽しみで忘れてしまっただけですわ。この事をお父様に言わなければ、ばれませんわ。」
「リィーナ・・」
「お嬢様・・」
私は姉と侍女に少し悲しい目で見られました。
「来年の分は今から準備しておきますわ。」
私は、小さな声で呟きました。
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今日は晴天、ここは学園の中庭、楽しいお昼の時間です。
「じゅるり」
大好物の唐揚げを前にしては、令嬢としての所作が出来なくなるのは仕方のないことなのです。たぶんしょうがない、たまにはしょうがない、しょうがないはずだ・・・
「ご馳走様でした。」
この世界では、食事の前には神に祈りを捧げますが食事後は何もしません、これは前世からの癖です。
そんな事はどうでもよいのですが、少し離れた木陰にイケメンが座っていて、何か難しい顔をしています。
あ、見ているのに気づかれてしまいました。
「マリーンドロス侯爵令嬢」
あ、私のことですね。
「ごきげんよう、アードル殿下わたくしに何か御用ですの。」
「少しそなたの意見が聞きたくて呼んだのだよ。」
いやな予感がします。笑顔が悪い顔です。政治的な話でしょうか、それとも金銭関係でしょうか、面倒です。聞きたくないです。帰りたいです。後方に向かって前進です。素直に退却していいですか。
いろんなことを考えましたが、当然口には出しません。
「わたくしでよろしければ何なりと」
「うむ、これなのだが。」
「へ、知恵の輪・・・」
これは何かのなぞかけでしょうか、ちゃんと裏を読まねばなりません。
だけど何でしょうこれは、お手上げです、降参です、わかりません、ヘルプミーです、助けてください、知恵の神ミネルウァのご加護を我に!
「あ・・」
風色の光が私に降り注ぎます。本気で神に祈ってしまいました。
「ほう、そなたでもこの知恵の輪は難しいのだな、神々のご加護を願うとは思わなかったぞ。」
あれ、これって普通に知恵の輪を外すだけでよかったのではないでしょうか・・・
「今すぐに解かなくてもよい、解けた時にまた来てくれぬか?」
そう言って知恵の輪を渡してくれます。
なんとあの悪い顔はデフォルトだったのか・・
「解けました!」
「へ・・」
殿下のお顔が間抜け面です。面白いです。可愛いです。イケメン最高!
「ほかに御用はございますか?」
「そなたは面白いな」
これが殿下と私のファーストコンタクトでした。