メイド服の骸骨さん
夜。空にはハンモックにしたら気持ちよく眠れそうな月が浮かんでいる。側で光る星も草原に生える花のようだ。
窓に映るそれを、自室で優雅にココアを飲み眺めた。ハンモックの上で食べるサンドイッチは絶対に美味しいのだろう。
さて、リラックスしたところで思い出す。そして考える。
私はメアリーさんに謝罪すべきなのか。元を辿ればバドミントンが下手な私が悪い。しかし理由は本当にそれなのか。どうもそれではない気がする。もしそうであるならば表現が過剰すぎやしないか。でも何のために?
あの体育の授業でのメアリーさんの発言から、私はこう推理した。メアリーさんは私と同じ転生者で、同じく例の漫画についても知っているのではないか、と。それで私を悪役令嬢と言ったのだ。
どういうつもりか美形の男子にばかり近寄り女子からの反感を買っている。そして体育の授業から逃げる。これが最近の彼女の行動だ。
職業の影響でやや単純化していて気付かなかった私に対する悪役令嬢という言葉。それから注意して見た結果、やはり彼女はどう考えてもあのヒロインとは思えない。
ノア様やルーク様も性格が漫画とは違うけれど、偶にそれっぽい所がある。しかしメアリーさんは……私が言うのも何だけれど、ヒロインというよりは悪役の気配がする。純真無垢なヒロインの欠片もない。
何より漫画ならそろそろノア様がヒロインに少しデレを見せる時期ではなかっただろうか! なのに今も存在を無視されているこの現状。ノア様に認められないヒロインなんてもはやヒロインではない。
とは言え、ノア様に対する追っかけは骸骨執事のジョセフさんがいるから大丈夫として、私の虐めの噂も特にダメージはない。なので具体的にだからどうするのかというと、とくに何も思いつかない。とりあえず情報集めが良さそうだ。それまで謝罪は保留にしよう。
「ココアのおかわりは如何ですか?」
「わあ、ありがとう。……ジョセフさん?」
空になったマグカップに温かいココアが注がれる。何も疑問に思わず返事をしたけれど、そこにはメイド服の黒い骸骨がいた。
「いえ。エラと申します、シャルロッテお嬢様」
なんと。
「エラさん。すみません、間違えてしまって」
「いえ、突然お邪魔してしまいこちらこそ申し訳ありません」
ぱっと見では服装で、いや、骨格で気付けるだろうか……。
「それよりどうして私の部屋に?」
「我が王が貴女様を心配しておられまして、それで様子を見てくるようにと」
「なるほど」
我が王。ルーク様だろう。…………心配? 頭を傾げると、エラさんも頭を傾げた。
「何か気に病む事などございませんか? 例えば、目障りな女を物理的に消したいだとか、社会的に消したいだとか」
まさかの二択。物騒な!
「いえ、大丈夫。大丈夫です。安心してくださいと我が王に言っておいてください。」
そう言うと、エラさんは自身の身体に纏うように現れた黒い霧と共に消えた。
「何だったんだ……」
寝よう。ココアを飲み干し、ベッドに潜り込んだ。