漫画の世界ではヴィラン・トリオ
謎の転校生ヒロイン、メアリーさんが来て早三日になる。メアリーさんと私の間に会話は特にないが、ノア様には頻繁に声をかけているようだ。アレかな、ノア様が孤立しているところをヒロインが気にかけている回想。今のノア様は愉快な友人がきちんといるけれど。
この転校生のノア様べったり度は学園内でも噂になってきていると一学年下の情報通な美少年が教えてくれた。別学年にも広まっているとなると、黙っていないのではないかあの人は。
「最近、ノアに妙なモノが付き纏っているらしいが……シャルロッテはノアの隣の席だったな。お前は大丈夫か? 」
やはり来た。ノア様はメアリーさんのいない所、おそらくは体育館の二階の手摺りのある場所へ行ったため、メアリーさんはよく分からないが何処かへ行っているため当事者不在のAクラスにルーク様はやって来た。
しかし開口一番、予想していた内容ではない! ノア様の心配はどこへ行ったの!? 言葉通り、私の心配をしてくれているのか眉を下げて、水面に映る月のような瞳が私を見つめている。
「え、あの、そうですね……。私は何も」
想定外の事に動揺してしまう。まるで胸を銃で撃たれたかのような衝撃。
ノア様を愛でる会の仲間だと密かに思っていたのに、裏切りにあった気分だ。そんなショックを受けた。
「そうか。お前が無事であることはわかってはいたが、直接聞いておかなければ安心できなくてな」
「あっ、そうですか……。心配してくださってありがとうございます」
私には何もわからないのですが。何だか物凄く落ち着かないので帰っていただきたい。
「…………。」
「…………。」
無言。そもそも私とルーク様が二人で話すことはなかったので会話は続き難い。ノア様関連の話題も今は何故か浮かばない。どうしよう、と手を口にもっていく。
すると、ルーク様は話を変えようと口を開いた。
「シャルロッテ。俺たちは他人ではない。もう少し柔らかな態度を……そうだな、親しみを込めてルークと呼んでみたり、せめてノアに接するような気安さで話してくれないか?」
良い提案だ、と笑顔を輝かせるルーク様。話が変わり過ぎだ。そして内容がまたも爆弾のようだ。ノア様のお兄様であるからか、ルーク様は美少年ではないのに偶に心臓に悪いのだ。美少年のキラキラ!な胸の高鳴りではなく背後から胸をナイフで刺された!なバクバクした胸の高鳴り系なのだ。なので親しげにはなれない。恐ろしい。
「何故そんな話に……?ルーク様を呼び捨てにはできませんし、ノア様は私のアイドルであり天使であり、そして友人の様でいてやはり天使なのでちょっとそれは無理な相談なのですが、そうですね……善処します」
「お、おお……ん?全く何も変わってないぞ」
「また今度」
ノア様とのコミュニケーションを見るに頑固そうなので曖昧にしておこう。
「シャルロッテ……。昔はもっと、こう、距離が近かったというのに……!」
「昔っていつの話ですか?」
謎の作り話をされた時、ノア様が教室に戻って来た。……後ろに黒い骸骨を連れて。
ダークサイドの美少年のようでこれはこれで素晴らしい。夕暮れか月夜の下で見たかった!!
「ちょっと、あんた。こんなガイコツずっと僕に張り付かせて何のつもり」
「ノア様!!」
普段は中立的な位置の敵とも味方とも言えない位置の美少年系みたいなノア様が!一回仲間になって裏切ったとみせかけて本心では味方になりたかった系の美少年に見える!尊い……。
「兄と呼べ弟よ。ジョセフは執事歴が長いからよく働いてくれただろう?」
「煩い魔王。そんな問題じゃないんだけど!シャルロッテも止めてくれない?この変態ストーカー」
言葉を強めて話すノア様は珍しい。どうやらあの骸骨はルーク様がノア様に付けた者のようだ。ノア様を守るために、なるほど。
ルーク様はノア様を愛でる会の会員だったのだ。むしろ会長。流石です……。
「ふむ。確かに俺の職業故に魔王と呼ばれはするが、弟ならば兄と呼ぶべきではないか?なあ、シャルロッテ」
「せっかくなので写真撮っていいですか?」
懐に潜むカメラを取り出す。滅多にないレアなシャッターチャンス。撮らずにはいられない。
「話ちゃんと聞いてよね」
ノア様にジト目で見られましたが、ルーク様の協力のもと良い写真が撮れました。