推し王子と私
私の推し王子、ノア・ルーカス・フォーサイス様は今日も可愛い。その容姿、性格からの人気で彼のファンから王子と呼ばれているだけで本当の王子様というわけではないが、家柄は由緒正しい者しか入れない学園のため良いけれど。正直、可愛ければなんでも良い。
兄であるルーク・ザカリー・フォーサイス様が話しかけるも存在を無視してお昼寝を続けたりしているところも、優雅に紅茶を飲んで同じテーブルに座るルーク様の存在をないものとしているところも、眠たげに瞼を擦りながら移動授業のため渡り廊下を歩きすれ違ったルーク様の声を聞こえないものとしているところも、心臓を巡る血液が沸き立つレベルで可愛い。
ノア様は制服がお洒落なことに定評のある以外はお金持ちやら権力がある系の家の子供達がいる事くらいしか特筆することがないこの学園の高等部に通う私と同じ第二学年で私と同じAクラスのスペシャル可愛い男の子だ。
サラサラストレートの夜を映したような黒髪にキラキラ輝く星のような金の瞳を持つ上に華奢な身体に白い肌、低過ぎず高過ぎない魅惑の少年ボイス。奇跡の美少年だ。百点満点だ。そして黒と赤で纏まったお洒落な制服を着こなしている。煌めきを撒き散らすその姿を毎日写真で撮りたい。
私、シャルロッテ・ミア・デュアルの心を飛び跳ねさせる彼は兄が大嫌いなようでいつも存在を無視している。そんなところも可愛い。
神様が清く正しく生きている私へのご褒美かノア様の隣の席になって一週間。私はよく今生きていると感動している日々。私を真正面から殺しにかかりに来ているのかノア様はよく話しかけてくれる。次の瞬間に私は生きているだろうか。いや、生きる。
「シャルロッテ、図書室行こう」
「はい、ノア様。喜んで!!」
休み時間。嬉しいことにノア様が初めて次の授業の移動を一緒に行こうと誘ってくれた。勿論即答する。私は今ちゃんと息をしているだろうか。
脳内フィーバーを収めるため深呼吸をして平常心を装い図書室へ向かう。するとクラスの移動授業を把握されていたようで、ノア様の性格から行動が読まれたのか、早めに移動をして寝ようとノア様が図書室の席に着いた瞬間にルーク様に出会った。
「ノア、シャルロッテ。偶然だな、次の授業は図書室なのか?」
何故把握されているのが分かるかというと、この偶然を感じさせない驚いた様子のない満面の笑みを見ればお察しである。
「…………シャルロッテ、何突っ立ってるの?早く座れば」
「あっ、えっと」
ノア様がいつも通りのスルーを決め込む中、ルーク様に私の名前まで呼ばれていたために対応に困る。こうして対面するのは初めてのために本当に困る。というか、あれ?私の名前をルーク様は知っていたのか。スルーされているルーク様の顔をまともに見ると物凄く悲しげに眉を下げて私を見ている。悲愴感がやばい。
「歴史の授業の資料集めで今回来てるんです……。ね、ノア様」
思わず同情して不機嫌丸出しなノア様をちら見しながら答える。普段見ていたこの空気に私が混ざった事に変に汗が出る。掌の皺がジメジメしだしている。
「え、シャルロッテには何が見えてるの?」
なんという鬼畜対応……!ノア様のスルースキルはカンストしていた。