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苦手な方はご注意ください。

勇者と魔王の最終決戦

作者: ゼシル

どこの世界かも分からない、世界の果ての果ての果て……。 無限に広がる空間にただそびえ立つようにして顕現している城、魔王城。

その玉座の間に居るのは勇者と魔王。


「魔王……俺はお前を殺しに来た」


低く、唸るように絞り出した声を放ったのは勇者。多少の宝飾が施された鎧と剣を纏い、常人なら一瞬で塵になるであろう膨大な殺気が玉座の間を支配する。 それを魔王はまるでそよ風のように心地良さそうに目を細めると嗜虐的な笑みを浮かべ答えた。


「我も待っていたぞ勇者よ。 さぁ、ここまで来たその実力を以ってして我を楽しませてくれ」


瞬間的に放たれた魔王の殺気はその余波だけで玉座の間を魔王城の一角もろとも消し飛ばす。 それを戦闘の合図とした両者は刹那の間に剣と拳が轟音を奏でる。 勇者の剣が軋み、表情が一瞬歪む。 勇者が攻撃に移るよりも速く魔王の音速を軽々と超える蹴りが勇者のこめかみを捉え、魔王城を突き破る勢いで無限に広がる空間まで勇者は飛ばされてしまった。


「その程度では無いだろう? 勇者」


「ああ……俺はお前を超える」


勇者の背後からの奇襲は惜しくも躱され魔王の嗜虐的な笑みがより一層大きくなる。 そして魔王は間髪入れずに蹴りや拳を超音速で繰り出してくる。 それを勇者は人智を超越した速さで躱し、いなし、受け流す。 いなすたび、受け流すたびに地面が大きく陥没し、空間を震わせる。そして両者はさらにギアを上げた。


勇者が持つのは女神の加護。 全スペックの向上と全ての魔法が行使可能の力。 その全能たる力で勇者は魔王に肉薄する。 だがその力を以ってしても魔王の肉体には傷1つつけられない。


「ははは!!! 我をここまで楽しませるか! だが神すら超えるこの我の力には全てが無力! 地に還るが良い!」


愉悦の表情を浮かべ魔王は手を突き出す。 膨大な魔力が渦巻き、禍々しい程の闇が凝縮された大玉を顕現させる。 臨界点を迎えて居るのか黒雷が迸っている。 そして魔王はそれを全力の速度で射出する。 魔王の放ったそれは既に音速を超え、本来到達し得ない光速に至り、着弾した瞬間に100倍以上に膨張し、全てを呑み込んだ。 魔王は自身を呑み込んだソレを片手の一振りだけで搔き消すとすぐさま回避行動を取った。


一瞬前まで魔王が立っていた地面は抉られており、それが如何に強大な一撃かを物語っていた。 そして自身の速度に並走する勇者にさらなる笑みを浮かべると腕を薙ぐ。 勇者はそれを真上に飛んで躱すと振り向きざまに一閃、さらに勇者の真上に移動していた魔王へと猛威を穿つ。


「ふん、ぬるいわ!!」


片手で相殺するや否や空を蹴りさらに加速して勇者を殺す為に拳を振るった。 しかしそれは勇者に届く事はなかった。


「女神の加護を忘れたのか……? 魔王」


勇者の冷静な声音が魔王の耳へと反芻する。 それはまるで警告に似たそれだった。 魔王は拳を突き出したままその動きを停止していた。 時空間魔法……時空間に干渉する事で魔王の時間と空間を停止に追い込み、無限の停滞へと誘う魔法。 勇者は強化魔法を施すと動きの止まっている魔王に刺突攻撃を繰り出した。


「ぬるいと言っている!!」


時空間の干渉を無理矢理解いた魔王は勇者の剣が肉薄する瞬間、勇者の認識の外へと移動し、認識の外から攻撃を繰り出していた。


「がっ!!」


今の魔王の一撃は宇宙ですらガラスを割るような感覚で軽々と破壊出来ると言っても過言では無い。 その一撃をまともに喰らった勇者だったが大した外傷はせずに衝撃を地面へと流すと即座に魔法を発動する。 無限速の境地へと至った魔王よりも速く。


「無限の次元へ渡っていろ魔王……! お前に、無限次元を破る力が無ければお前はそこまでだ!」


勇者は間一髪で魔王を無限次元へ転送するが魔力の出力はまだ抑えない。 何故なら無限次元へ送った程度でやられる魔王では無いことを勇者は確信していたからだ。 勇者は保険を掛けて無限に時間と空間を引き延ばし、少しでも時間を稼げるように魔法を発動する。


「改変魔法……この世界を俺の有利な世界へ改変し、起こり得る全ての事象と認識出来る全ての概念は俺の有利な事しかならないように操作する」


勇者は静かに息を吐きながら魔法を行使し、世界を改変する。 その一瞬後だった。 空間に穴が開き、無限次元を破った魔王が勇者を一閃した。 勇者は全身から夥しい程の血を流し、力無く倒れる。 魔王はそれを一瞥すると一片の細胞も残す事なく消し飛ばすには充分過ぎる程の力を込めた闇の大剣を具現化させると空間ごと勇者を抉り取った。立ち上る砂塵と揺れ動く空間。


「……手こずらせおって。 だが、これで」


手応えを確かに感じた魔王は勇者の死と自身の勝ちを確信した……はずだった。 その膨大な殺気が魔王の背筋を凍らせるまでは。


「これで、何だ? 『我の勝ちだ』とか言うつもりは無いよな?」


魔王がその声を認識した瞬間、魔王の半身が消し飛ぶ。


「がぁぁぁっ!? っっっ───!?」


激痛に全身が警報を鳴らし本能も警告していた。 この男は危険だと。 神ですら干渉する事を許さない魔王の身体に簡単に干渉するだけに留まらず半身を消し飛ばしたのだ。


「ふっ……ふははははは!!! 面白い─────面白いぞ勇者! 我がまさか本気を出そうとはな。 貴様はもはや女神の加護を受けた勇者では無い。 我と同じ境地へ至った者……貴様を強者と認め敬意を払おう。 そして、我に本気を出させた唯一の相手として貴様を称え、貴様を屠ろう!!」


全てのストッパーを解除し全開の魔力を解放する。 それは勇者が改変した世界を震わせる程の異常な力だった。 勇者はそれに眉1つ動かす事なく一瞥したが全ての魔法を同時多発的に発動させる。


そして2つの強大な力がぶつかり合った。 その際限ない強大な一撃は無限の並行世界を消し飛ばし、無限に広がり続ける無限個の宇宙すらも破壊した。 がその直後には既に復元されており勇者の力が全てを内包する。 しかし魔王も負けず劣らずの力でその全てを破壊する。 際限無く繰り返される破壊と内包。先に音をあげたのは魔王だった。 ほんの少しだけ軌道のズレた一撃が魔王の右腕を消し飛ばし、その拍子に世界が割れる。


「がっああああああああ!!!」


苦悶の表情が広がるがすぐに身体が再生し、勇者の行動に干渉し、動きを限定的にだが止めた。


「はぁ……はぁ……はぁ……ぐ、この魔王が押されて……」


魔王は憎々しげに勇者を睨む。 初めて解禁した本気ですら超えてくる勇者の力。 止めている時間も惜しいとすら感じた魔王はこの一撃で終わらせる為に力を溜め始める。


「貴様に勝つには全てを超越した一撃で終わらせるしか他無い。 それには我自身が全てを超越した存在にならなければならないが、今の我なら可能だ……勇者よ、貴様との勝負楽しかったぞ!!」


魔王は今この瞬間、全てを超越した世界へと足を踏み入れ、次元すら超越した世界から振り下ろした一撃で幕を降ろした。 勇者の気配が完全に消えた事を確認した魔王は戦闘状態を解除しようと力を抜こうとした瞬間、とてつもない力が魔王を刺激し、本能で全力の攻撃をその元凶へと放った。


「ふっ、所詮はなり損ないか……」


魔王の全力の一撃をまともに受けてもなお健在のソレ……1人の老人は魔王を憐れみの目で一瞥する。


「なっ……あっ、あっ……!?!?」


魔王は悟ってしまった。 どれだけの力を得ようと、この1人の老人に傷1つ負わせる事は出来ないだろうと。 それだけの差を感じてしまった。 魔王は本能的に恐怖した。 老人はただそれを憐れんだ目で見るのみ。そして嘆息すると魔王の前に手を翳す。


「なり損ないとは言え曲がりなりにもこの世界へ到達した事は褒めてやろう。 じゃが、その力はあまりに脆弱。こうして儂が最小限まで力を抑えていなければ存在を保つ事すら出来ん」


謎の老人は唾棄するように口を開くと翳していた手を降ろす。 魔王はあまりの恐怖に口すら聞けずに震えていたが、唐突にその震えが止まる。


「……ほう?」


老人は面白そうに眉を吊り上げ、魔王を射抜く。 魔王は意を決したようにその老人を射抜く。 お互いに流れる沈黙。 その沈黙に耐えきれなくなったのは老人の方だった。


「主のような雑魚を殺すのは造作もないが冥土の土産に教えてやろう。 儂は超越神と呼ばれる存在じゃ。 主の力を極限まで高めた存在じゃな……さて、何か言い残す事はあるかの?」


魔王という存在そのものが震える。 比喩では無い。 この圧倒的な力の前では魔王であろうと塵か埃に過ぎないと痛感した。 魔王は己の出せる全ての力を解放すると存在の揺らぎすら最早気にも止めずに大声で叫んでいた。


「貴様の……目的は何だ? 何故それ程までの力を持ちながら高みの見物をしている!!」


「全てを超越した儂に、主達の世界が耐えられんからだ。 さらばだ。 名も無き魔王よ」


「うっ……うおおおおおおおおおおおお!!!」


老人より一瞬早く、全ての力を振り絞った魔王渾身の一撃を見舞う。 が、超越神の老人には露ほどのダメージも無く、超越神の前に名も無き魔王はその存在を消されてしまった。 呆気なく、本当に呆気なく。 まるで塵を払うような感じのソレは如何に魔王が老人にとって価値の無い存在なのかを示していた。 そして1人となった老人はつまらなさそうに嘆息を零すとポツリと呟いた。


「塵を払うのに全力を使う馬鹿はいまい……ホント、つまらん世界じゃわ」

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