またいつか
数日後、廊下にて。
先生がこずえに話しかけます。
「若草、いい知らせがあるぞ」
「え? もしかして」
「ああ、入賞おめでとう」
こずえは満面の笑みで喜びました。
「本当ですか! やったぁ!」
「ずっと気にしてたから先に教えておこうと思ってな。今日の集会で発表されるから楽しみにしていなさい」
「はい!」
学校が終わった後、こずえは絵と賞状を抱えて老婆の家に走りました。玄関は閉まったままで、こずえは庭に回ります。
「おばあさん!」
息を切らしながら、こずえは老婆を大きな声で呼びました。老婆も慌てて軒先にやってきました。
「おお、よく来てくれた。本当に入賞するとはのう。よく頑張った。 おぉ、そうじゃ、この前は冷たいことを言ってすまんかった。決して嫌った訳ではないんじゃ。分かっておくれ。さっ、そんなところで立ってないでこっちにおいで。さぁ」
こずえは立ち止まったままでした。
「ほれ、どうしたんじゃ?」
こずえは独り言のようにつぶやきます。
「……おばあさん?」
老婆は息を呑みました。静寂を破るようにこずえの声が響きました。
「どこにいるの? おばあさん!」
こずえは目に涙を浮かべながら老婆を呼び続けました。
老婆は震える手で顔を覆いました。老婆の手からボロボロのお守りが落ちます。もうこずえには老婆の姿は見えず、声も聞こえなかったのです。
「天はあたしの願いを叶えてくれたんじゃ……」
「おばあさん! ずるいよ! 約束したじゃない! 入賞したら会ってくれるって!」
老婆はかすれた小声でした。
「ごめんよ。約束を破ってしまったのう。じゃが、これでよかったんじゃ。これでよかったんじゃよ」
老婆の目から涙が落ちて、床に染みていきました。それがこずえの目に留まりました。
「おばあさん? そこにいるの?」
老婆は伏せていた顔を上げます。
「もう会えないの?」
「そうじゃのう。あと80年、90年したら、もう一度会おうかのう」
こずえは駆けつけると、軒先に絵を広げました。
「見て! おばあさん。頑張って描いたのよ。天国ってこんな所かしら?」
そこには朝顔の咲く地面から、楽しそうに笑う老婆とこずえが、一緒に手をつないで明るい空へと向かう天国の絵が描かれていました。