約束だよ
次の日、学校にて
こずえのクラスメイトの『春日ゆかり』。入学式以来、こずえとは大の仲良しです。外見がとても似ているので、二人は髪型を変えて(こずえはポニーテール、ゆかりはツインテール)ちょっとした違いをアピールしていました。そんなゆかりが、こずえに話しかけてきました。
「おはよう、こずえちゃん」
「あっ、ゆかりちゃん。おはよう……」
いつもと様子の違うこずえに、ゆかりは心配そうに言いました。
「どうしたの? 元気ないよ?」
こずえはごまかすように答えます。
「あっ、ううん。そうかな?」
ゆかりは不思議に思いましたが、話を続けました。
「ねぇ、こずえちゃんはもう決まった?」
「えっと、何だったかな?」
「絵のコンクール。 テーマは自由だったじゃない?」
「あっ、もうそんな時期なんだ」
「なーんだ。こずえちゃん絵が上手だから、もう決まってるのかと思ってた」
「まだ決まってないよ。ん? そうだ!」
「何? 決まったの?」
ニコニコしながらこずえは言いました。
「ううん。まだだよ」
「えっ? じゃ、何?」
「ふふーん」
こずえは学校の帰り道、老婆の家に立ち寄りました。
「庭に入ったら、また怒られるかな?」
こずえは扉を開けず玄関の前で話します。お互い姿が見えないまま、言葉を交わしました。
「おばあさん、こんにちは」
最初は無言の老婆でしたが、あきらめたように言いました。
「また来たのか……」
「あの、今度絵のコンクールがあるんです」
「それがどうしたんじゃ?」
「もし入賞したら、もう一度会って欲しいんです」
「会ってどうする?」
「会ってみたいんです。会ってお話して、おばあさんともっと仲良くなって、それから……」
こずえは空を見上げました。晴れ渡った真っ青な空です。
「……わかった。わかったよ。もしお前さんが入賞したらもう一度会ってやるわい」
こずえは弾むように喜びます。
「本当ですか! 約束ですよ?」
「ああ、約束じゃ。……じゃが、もっと他にやりたいことがあるじゃろう。もうすぐお前の運命を告げる時がやってくるはずじゃ。病気でないところをみると、おそらく不慮の事故じゃろう。死んでは何もできん。残りの時間をもっと好きなように過ごしたらどうじゃ」
「はい。でも、私の今一番のお願いはコンクールで入賞して、おばあさんと会うことです。絶対約束ですよ」
老婆は小さく鼻で笑いました。
「……そうかい。それじゃ、もう何も言わないよ。頑張っておくれ」
「はい!」
こずえが去り、老婆は手に握りしめ続けて、ボロボロになったこずえのお守りを見ました。
「まだ、あたしの声が聞こえるかい……。もうどうにもならんか。こんなことなら追い出してやるんじゃなかった。せめて今度会う時は冷たくしたことを謝らねばならんのう」
老婆は虚ろな目で静かに微笑んでいました。