クッキーを作ろう
夜。
老婆は大きな鏡で空の満月を映し出しました。するとそこに鬼のような顔がぼんやりと現れて、しだいにはっきりと見え始めました。
「大王様! 大王様!」
『大王』と呼ばれた鬼のような大きく真っ赤な顔が現れます。
「なんだ、死神か。どうしたのだ」
「お願いがございます」
「何だ?」
「聞いていただけるでしょうか?」
「どういう願いかによる。申してみよ」
「はい、実は・・・・・・」
こずえの家。
こずえはこの頃ふとんに寝そべって料理の本を読んでいました。クッキーのページを広げます。
「あ、あった、あった。うん、うん。これなら私にだって出来そうだわ。そうだ、おばあさんにも食べてもらおう!」
死神の家。
「何!? その子を救いたいだと!?」
「はい、お願いします!」
「お前は死神だぞ! わかっているのか!」
「それを承知でお願いしているのです。お願いします、大王様」
「できん」
「どうしてです! お願いします! 一生のお願いでございます」
「人の運命はわしが決めるのではない。わしの役目はただ死んだ人間を受け入れ、見守ることだ」
「では誰に頼めばいいのです?」
「誰でもない。人の運命を決めるものなどこの世にはおらん。その子は産まれた時からそういう運命だったのだ。これは誰であろうと、どうにも出来ないことだ。あきらめろ」
「そんな・・・・・・ あたしは、あの子はどうすれば! お願いします!」
「わしに頼んでも仕方ないと言っておろう!」
老婆は力無く肩を落として、ひざまずきました。
「お前は立派に勤めを果たせばそれでいいのだ。死神が人間に肩入れしてはならん。分かったな」
大王は鏡から姿を消しました。老婆はひどく落ち込みました。
「あたしは、なんと無力なんじゃ・・・・・・」