恐れなくても大丈夫
「お前ほどじゃないが実は俺もポンコツでな、ここに来た当初は手際が悪くてよく怒られてたもんだ。まぁ今でも態度悪かったりで怒られてはいるが、最初の方はすごかったんだぜ?
いつも前向きな俺でさえへこみそうになったからな。」
ハハハと笑いながら語るブレイズとは対称的に、田天はかなり真剣な表情で考え込んでいた。
向こうの方でカレアが心配そうな顔で田天を見ていた。彼女も励まそうとその場を離れようとしたが、それをマルクが止める。彼は黙って首を振り、この場をブレイズに任せた。
「誰だって最初はポンコツだし、怒られるのだって当然だ。
だからある程度は割りきった方がいい。
とりあえず今のお前の状況で絶対しちゃいけないことを二つ言ってやる。」
「・・・・・。」
「『すぐに諦めること』と『気にしすぎること』だ。
仕事なんて慣れたら終わりだ。人間がでかい化け物と戦えっていうのは無茶な話だが、人並みの仕事をすることに関しては慣れてしまえばこっちのもんじゃねーか。」
「慣れ・・・」
「ああ。
例えば今日はお前は一時間で一メートルしか進まなかったな?だが一週間、一ヶ月間、一年間これを続けたとする。それでもお前は一時間で一メートルしか進めないと思うか?」
うつむいている田天の目の前にアロマが作ったお菓子が現れた。
その菓子を乗せている手はブレイズのものだ。
「気楽に考えていいと思うがな、俺は。
さっきフレイラがマグニさんと言い合ってたが、あれくらい強気でいくつもりでやったらどうよ。お前はその方がよさそうだ。」
「ブレイズさん・・・。」
「あと敬語とかやめてくれ。聞いた話お前の本当の歳は俺と変わらないみたいだし。」
「・・・うん。ありがとう。」
ついにお菓子に口をつけた田天。それを後ろから安心しきった親のような雰囲気で眺めているマルク。
他の仲間たちもやれやれといった表情を見せているが内心喜んでいた。
そこへマグニが戻ってきた。荷車に不思議な色の壺をいくつか乗せている。
「よーし、では次の作業に移るぞ。」
休憩明けのメンバーに渡された壺。その中には虹色に光る液体が入っている。無臭だが、どう見ても普通の水ではなさそうだ。
「あの・・この水は?」
「ワシの魔力を水に練り込んでおる。この水をかけるとルビーンが早く育つんじゃよ。」
「へぇ。でもさっきの種は魔力で変性するんだろ?いいのかそんな水使っても。」
「よい質問じゃな。ワシが練り込んだ『虹色』の魔力は例外でな。種の質を一切変えずに、その成長スピードだけを早くすることができるんじゃ。」