先輩からの励まし
「アロマ、こういうのって誰かに教わったりしてたの?」
「ええ。お店の店長さんからよく教わってたわ。パン屋さんなんだけど、パン以外も作るのうまくてね。」
「へぇ。今度私にもなにか教えてよ。」
お菓子作りの指導を頼むカレア。彼女はもともと傭兵でありたまに自分で食事を作ることはあったがそれはあくまでも空腹を満たすためのもので、美味しさはあまり重視していなかった。ましてや”かわいらしさ”などは皆無。
(今まで意識したことなかったけど、お菓子作りなんて女子力アップへの最短ルートじゃん!これを身に着ければ・・田天はよろこんでくれるかな・・?)
こうしてアロマがカレアにお菓子作りを教えるという「女の子らしい約束」が交わされたのであった。
みんながお菓子で盛り上がる中、田天だけは一切お菓子に手を付けない。心配したアロマが近寄っていく。
「だ、田天?もしかして苦手なものでも入ってた?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ・・。」
そんな落ち込みモードの田天を黙って見るマグニ。そして彼は席を立ち自分の腰をぽんぽんと叩く。
「・・ワシは向こうで水の用意をしてくる。田天たちは後からまた手伝ってくれ。」
マグニの姿が見えなくなったところで、ブレイズがお菓子を口に放り込んだ。よく噛んで飲み込むと田天のところへ駆け寄っていく。
「田天、どうだ?農業体験は。
といってもまだ種植えただけなんだけどな。」
「・・改めて自分のポンコツ具合が確認できましたよ。」
「たしかに一時間であれだけしか進んでなかったからなぁ。仲間の連中も呆れてたぜ。もちろんマグニさんもな。」
(・・・・。)
死ぬほど落ち込んでいる田天。
廃墟ではあれだけやる気を出していた彼だが、『仕事』となれば話は別。自分の無能さ、迷惑をかけた数々の経験、そして社員の人に怒られたトラウマ。
これだけはなかなか克服できるものではなかった。正直、今すぐメリアーマたちを倒して現世へ帰ることができるとしても彼はそれを望まないだろう。
もちろんこの世界に来て少しは成長しているだろう。メンタル面も当初に比べれば強くなっているはずだ。
しかし帰るにはまだ早い。少なくとも田天自身はそう思っている。
そんな田天に、ブレイズは彼なりの励ましを送る。
「呆れてはいたが、嫌ってはいないみたいだけどな。」
「・・え?」
「マグニさんだよ。たしかにお前はポンコツ中のポンコツだった。マグニさんが蹴りあげるなんて久々だったからな。
だがあれでお前に嫌悪感を抱いたかと言われると、ノーだ。あの人は本当に嫌いなやつには声もかけん。」
「・・・。」
先程マグニに「田天たちは後からまた手伝ってくれ」と言われたことを思い出す田天。その間にブレイズは田天のぶんのお菓子を半分ほど食べてしまった。