天からの刺客
その銀髪の天使はつかつかと田天に近寄っていく。黙ってみているフレイラに、邪険な顔をするマルク。
そして険しい顔で固まる田天。
「ルシフェル様、私はあなたを心から尊敬していました。その圧倒的な力と絶対的な自身、そして下界の者たちへの気配り、優しさ。ずっとあなたは私の目標でした。」
銀髪の天使は田天の目の前で話を続ける。
「なぜあのような過ちを犯したのです?神様にはむかい、下界で暴れる・・なにか理由があるに違いありません。
しかし理由がどうあれ、あなたはもう悪人です。そして、もう私の尊敬するルシフェル様ではなくなってしまいました。天界のルールを大きく破ったあなたを生かしておくわけにはいきません。
天使・サラ、これより堕天使ルシフェルの処刑を執行します・・!」
サラと名乗る天使は持っていた杖を構えた。冷や汗をたらし固まる田天の横で、マルクが割って入る。
「サラ!ちょっと待ってくれ!今のルシフェル様は、ルシフェル様ではない!」
「・・マルクですか、あなたもいたのですか。」
サラとマルクに認識があるとわかり、しゃがんでマルクに話しかける田天。
「え?知り合い?」
「天界ではよく会っていたんだよ。こいつは天使サラ。俺と同等かそれ以上の・・ルシフェル様のファンだ。」
「はぁ・・なるほど。」
「なにをこそこそ言っているのです?それにルシフェル様ではないとはどういうことです?」
「実は今、その体には別の世界の人間の魂が入り込んでいてな。見た目はルシフェルだがそいつは別人だよ。」
黙っていたフレイラが口を開いた。そこでようやくフライラに気付いたサラ。そして顔色が変わる。
「あなたもしや・・悪魔軍のフレイラ?」
「へぇ、よく知ってるじゃないか。」
「当たり前です、天界の平和を脅かす悪魔軍の情報は頭に叩き込んでいますから。
・・しかしなぜ悪魔軍とルシフェル様が?」
「それには事情があって・・。」
慌てて弁明しようとする田天を無視し、考え込むサラは一つの答えを出した。
「なるほど、ルシフェル様は悪魔軍に洗脳されていたのですか。」
「は?」
「だとしたらつじつまが合いますね。
ならば弱っている今が仕留めるチャンス・・!」
「待てサラ!」
「マルク、あなたも洗脳済みなのですね・・わかりました。ルシフェル様のあとはあなたを・・」
「なんでそうなる!!」
激しくつっこむマルクの横を、なにかが素早く通過した。それはサラに向かい突進していく。
そして杖と剣がぶつかり、キィンと大きな音を立てた。
「血の気が多いですね、悪魔軍フレイラ。」
「なあに、ただ今はルシフェルに死んでもらいたくないもんでね。」
「・・ふん。」
杖を振るいフレイラを払うサラ。そして両手で杖を握り、詠唱を始めた。
「守護術・第28番、”遮断の円”」
気づくと田天は、うっすら虹色をしたドームの中に閉じ込められていた。ドームの中には田天とサラだけが立っており、マルクとフレイラはドームの外にいた。
そしてマルクたちは何かを喋っているようだったが、ドームの中の田天には全く声が届いていなかった。
「ルシフェル様ならわかっていると思いますが、この”遮断の円”の中にいる者は外からの声がいっさい届かない。そしてこの円の外と中を行き来することは不可能・・。
この円を突破する方法は二つ。一つは私よりずば抜けた魔力をもってこのドームを攻撃し破壊すること。もっともそんな魔力、今のあなたが持ち合わせているとは思えませんが・・。」
「・・・。」
「そしてもう一つは、私を倒すこと。
やっと二人きりになれましたね、ルシフェル様。」
サラは優しく微笑んで見せるが、やはりその目に優しさは無く。
(こ、こんなことになるなら、一応マルクに技の一つでも聞いておくべきだった・・)
この日二度目の命の危機にさらされ、田天の心はなにかで締め付けられた感覚に襲われていた。