ふとしたときに訪れる弱気
田天はここにきて、改めて己の置かれた状況について考えた。
ずっとニートだった彼がやっと始めたコンビニバイト。しかしそれからは苦痛の毎日。
そして今では違う世界で生きているという現実。
(みんな今ごろ何してるんだろう・・
バイト先では・・もう間違いなく俺はクビになってるだろうな。
家族は・・どう思っているんだろう・・。
俺はバイトバックレて失踪してるわけだから・・ほんとクソヤロウだよな・・・。
ほんとに俺は・・最悪の息子だよ・・。)
がらがらと周辺の壁が崩れ始めた。先ほどの衝撃は少なからず、地下室にも影響を及ぼしていたのだ。
バァンと大きな音をたてて天井が崩れた。幸いにも体操座りしている田天に被害は無かったが、崩れた天井の一部が部屋の入り口を完全に封鎖してしまった。
いつの間にか光る魔法石の数も減っており、気づくといまだに輝き続けている石はたったのひとつになっている。
完全な密室で、かすかな明かりが照らすだけの薄暗い部屋に、田天は一人ポツンと座っている。
今の彼はこの最悪の事態にビビる気持ちが半分。そしてもう半分は改めて思い直した「己の不甲斐なさ」に失望する気持ちであった。
最強の力をもつルシフェルとして過ごしている毎日。
しかし中身は未熟な人間。
みんなとの冒険で少しずつ改善しているようには思われているが、はたしてこのままもとの世界に戻っても大丈夫なのか。
仲間と分かれてルシフェルの力も失ったときに、現実世界で本当にやっていけるのか。
田天は、不安で不安で仕方がなかった。
とりあえず立ちあがり崩れた天井の残骸に手をかけてみる。
入り口を塞がれたままだと一生誰もここに来てくれない。そう思いながら力を込めて除去を試みるがびくともしない。
ルシフェルの力を解放すればおそらくわけはない。しかし意図的な解放はいまだに不可能で、この危機的状況でもそれは叶わなかった。
諦めてその場に座り込む田天。ちょうど目の前の壁に残された光る魔法石が埋め込まれていた。
それを眺めながら、田天は笑みを浮かべる。
(あの光が尽きたら・・いよいよ終わりだな。
分かってるんだ、今更こんなことで悩むなんておかしいってことは。
でも考えてしまう。悩みこんでしまう。失望してしまう。ふとした瞬間に、いきなり・・。
俺は今まで、ずーっとこんなだった。これは仕方がないことだし、たぶん一生治ることはない。
そういえばこれってリーダー決定戦だっけ?俺が見つからなかったらどうなるんだろうか・・。)
「でも大丈夫か。あの皆なら・・俺がいなくなってもルシフェルを見つけ出せる。
むしろ俺がいない方が、足手まといがいないほうが・・」
いつの間にか彼は心の中の思いを声に出してしまっていた。