ルシフェルとゆかいな仲間たち
「なにをしょげてるんだよ。お前の話が本当なら、それのどこが絶望なんだ?どこに嫌な要素がある?」
岩場からフライラが立ち上がり、田天のほうに歩いてくる。
「仕事先でミスするからなんだ?怒られるからどうした?仕事から逃げたからなんだというのだ?
そんなことで悩んでたら、お前これから生きていけないぞ。」
「・・・。」
「そんな経験、私は腐るほどしてきた。最も私の場合、殴られたり殺されそうになったこともあったな。」
笑いながらそう語るフレイラを前に、田天はまだ下を向いていた。
田天にも分かっていた。自分の悩みがとるに足らないものだということは。こんな程度のことじゃ、他の人はそこまで悩まないということは。
分かっていたが、仕方がなかった。田天はそういう性格だから。たいしたことないことでも不安になり絶望し、自分をとことん追い込んでしまう。そういう性格だから。
「フレイラの言うとおりだな。田天、お前は小さなことで悩みすぎだ。精神が弱すぎるぞ?」
魔物もフレイラに同意し、田天に近づいた。魔物は田天の膝くらいの身長であったため、田天は下を向いたまま魔物の方を見る。
「お前はまだ若い。しかも全然恵まれた環境にいる。
やりなおせるぞ。戻っても、十分やっていける。」
「でも・・・。」
「しょうがない。つきあってやるかー。」
手を頭の後ろに組み、空を見上げながらフレイラはそう言った。田天はやっと顔を上げる。
「へ?」
「お前の精神を鍛える!そしてお前を元の世界に戻す!そのために協力してやろうって言ったんだ。」
「え・・でもあなた悪魔軍じゃ・・・」
「辞めてるんだよ、実は。あまりに私が作戦に従わないから、クビになってしまってな。だから今はニートさ。」
「は、はぁ・・・。」
「そうと決まればさっそく出発だな。冒険の始まりだぁ!」
「ちょ、ちょっと待ってくだ・・」
「その冒険、俺も手伝おう。」
魔物が田天の膝をトントンと叩く。
「なんだかお前がかわいそうに思えてきたしな。
そもそも俺も元のルシフェル様に帰ってきてもらわないと困るし、俺もその冒険は参加せざるを得ないだろう。」
「いやでも、冒険って言っても具体的になにをどうするんです?」
「とりあえずいろんなとこで情報集めて、セブンスペルズに勝てるように戦いを重ねる。で、やつらを倒して戻る方法を聞き出す。以上。」
きっぱり言い放つフレイラに、漫画のような大粒の汗を流す田天。
「戦いって・・まさか私はたたかいませんよねぇ・・。」
ハハハと苦笑いをする田天の方をフレイラと魔物が振り向き、同時に喋った。
「「いや、お前が戦うんだよ」」
「ヒエッ・・」
「いいか田天。お前は本来さっきの私の一撃で死んでいたはずなんだ。それが奇跡的に能力を発動させ、奇跡的に生き延びた。
つまりお前はまだ生きるべき人間だということだ。」
「生きるべき・・。」
「これからどんなやつが襲い掛かってくるかわからない。そもそもお前をここに送ってきたやつらとも戦わなきゃならない。
今のままじゃ、いつか死ぬぞ。」
厳しく言い放つフライラにうんうんとうなずく魔物と、ごくりとつばを飲み込む田天であった。
「しかもラッキーなことにお前の体は今、あのルシフェルのものだ。使いこなせば最強の力をバンバン放出できる。」
「そうだぞ田天!ルシフェル様の超高位魔法をタダで使えるなんて羨ましい!その体、無駄にするなよ!」
「は、はぁ・・。」
「さっきの私の斬撃で”弱い田天”はいったん死んだものと思え。そしてこれからは”ルシフェル”として生きていくんだ。意志が強く、何事にも屈しない最強の天使として・・。」
「何事にも・・屈しない・・・?」
「ああ。」
田天は下を向き、数秒何かを考え込む。
そして再び、顔をゆっくりとあげる。
「わかりました。頑張ってみます。
このままじゃダメなことは、自分でもわかっていますから。」
「よーし決まりだな。
感謝しろよ?この最強悪魔フレイラ様が同行してやるんだからな。」
ニシシと笑うフレイラ。
「俺は戦闘では役に立たんだろうが、いろいろ助言をしてやれると思う。ルシフェル様と200年も一緒にいるからな。
ゴブリン族の”マルク”だ。よろしくな。田天。」
田天はこの状況下だが少し安堵していた。
(こんなに人の優しさに触れたのはいつ以来だろう・・・)
「よろしくお願いします!
田天改め・・堕天使・ルシフェル様だぁぁはっはっはぁ!!
さぁ始めよう、ルシフェルとゆかいな仲間たちによる復讐劇を!!」
「調子に乗るな。」
フレイラとマルクに殴られ、地面に埋まる田天。
「さっきルシフェルとして生きろって・・・言ったじゃん・・・」