二種類の悪魔
「・・やるではないか、フレイラ。」
煙がはれ、ベリアの姿はフレイラにはっきりと映っている。
仁王立ちするベリアにはまだ余裕が見えるが、たしかにダメージは通っている。その証拠に体のあちこちに打撃痕があるし、彼の息も最初に比べて明らかに荒くなっていた。
そしてその場に飛び散る大量の血の跡・・。
「サタンスタイルか・・正直なめていた。
だが恐ろしい技だな。その効力は数秒間しかもたないみたいだが・・その間は確実に俺よりも強かった。
想像を超えたパワーとスピード・・そして情け容赦ない残虐性。
俺をしても全く対応できなかった・・。」
「・・倒せなきゃ、意味はないけどな・・。」
「その通りだ。
やはり時間制限だけがかなり痛い。おそらく・・五秒ほどもつようだが、俺を倒すには短かったみたいだな。
やはりサタン様の名前を使うにはあたいせん。愚か者め。」
ベリアは右手に魔力を溜め始めた。黒と紫の二色の魔力が彼の手のひらで混ざりあい強い輝きを放っている。
(こりゃ・・やばいのがくるな)
危険を感じるが、疲労とダメージでその場から動けないフレイラ。
追い込まれ過ぎて、彼女は笑ってしまう。
「かはっ!!」
魔力を溜めるベリアは吐血した。やはり余裕というわけにはいかないみたいだ。
(あと数秒・・あとほんの数秒長くあの姿を保てていたら・・
いやいや、後悔しても意味ないか。さぁて、どうするかねこっから。)
フレイラはじっと、ベリアの右手を見つめていた。
「フレイラよ、死ぬ前に教えてやろう。我々悪魔は二種類に分けられる。上級悪魔と下級悪魔だ。」
「・・・で?」
「その線引きにはいろいろな説が存在するが、その中でも・・有名でわかりやすいものがある。
それは「魔人衝」という技だ。破壊と殺りくに特化したこの技は・・古来より有力な悪魔が使っていたもので、天使や人間などのほかの種族たちは・・この技の前に無残に散っていったと・・・言われている。」
「・・・。」
ベリアの右腕の魔力はどんどんと膨れ上がっていき、ところどころに亡霊の顔のようなものが見える。そのおぞましい光景にフレイラは目をそむけたくなるが、ただまっすぐにベリアの方を見る。彼女の目の光はまだ消えていない。
「さて、もう気づいているとは思うが・・いまからお前にその魔人衝を体感してもらう。悪魔族が本来使用できる黒い魔力、殺意を魔力に変換した紫の魔力。そして・・体の奥底から呼び覚ましたこの・・金色の魔力・・!!」
ベリアの右腕が金色に光り出した。黒、紫、金の三色がぐちゃぐちゃに混ざり合い、やがて白一色の鋭い光へと変化した。
「この白い輝き・・悪魔らしくないだろう?だがすぐに理解できるさ。この技の悪魔的な効果と威力が・・。
まぁ、理解できた頃にはすでに・・貴様の命は無いがな。
もう会うことはないだろう・・さようならだ・・・!!」
白の光球をフレイラめがけて全力で飛ばすベリア。振りかぶって投げられたその光球の速度は凄まじく、一瞬でフレイラの眉間まで近づいた。
(・・・・・・・・・!!!)
だがそれでも彼女は目をそらさない。ベリアが振りかぶってから今の今まで、一切のまばたきもせずただ目の前で起きている事象を把握する。
「死ねフレイラァ!!!」
ベリアの声が響くと同時に、このフロアの壁が全壊した。ベリアの目の前で、激しい音と共に大爆発が起ここったのだ。にやりと笑うベリア。
煙やほこりがやむと、爆破地点「だった」その場所には何も残っていなかった。壁、床、そして生き物の気配。全てが「無」になったその空間を、ベリアは輝きに満ちた顔で眺める。
「終わった・・。」
ふと気づくと自分の体には派手にやられた攻撃の跡が無数にあり、呼吸も早くなっていた。
(下級悪魔の身でありながら、俺をここまで追い詰めたか・・フレイラ、思っていたよりとんでもないやつだったな。。)
「さて、ではバイスに加勢してやるか。」
ぽんぽんと服を払うとベリアは何もなくなった空間に背を向け、田天のはなった光の方向に歩き出した。
「お前が行っても田天には勝てないって。」
「!!?」
ガバっと後ろを振り返る。ベリアの見開いた眼の先には・・
「よぉ・・また会えたな、ベリア隊長。」
「まさか・・そんな、まさか・・・!」
そこに立っていたのは自分が確かに葬った敵の姿。彼女は血まみれで、ボロボロで、体を震わせながら、だがたしかにそこに存在している。