フレイラの奥の手
「なんだこの光は・・?」
アムール城内では崩壊した壁の隙間から、悪魔将軍ベリアが外の様子を除いていた。轟音とともに光りだした外の様子が気になり、戦いを中断して光の方に目をやる。
「いったい何が起きている?」
「田天だ・・。」
「だてん?」
壁際に立つベリアは後ろを振り返る。そこには大ダメージを受け倒れ混むフレイラがいた。
序盤こそクリーチャースタイルでベリアに怒濤の攻撃を繰り出していたフレイラだったが、実はその時のベリアは「様子見」をしていただけであった。彼女の実力、戦闘スタイルを知るとベリアは本気になり、結果このように優勢に立つことができている。
ベリアのパワーとスピードはクリーチャースタイルを上回っており、タフネスに関してはケタ違いなほどにフレイラとは差があるみたいだ。
瀕死ともいえる彼女はさらに口を開く。
「私の仲間だよ・・。お前、本部で・・聞いていないのか・・・?」
「だてん・・。
あぁ、そういえば城で噂になっていたな。堕天使ルシフェルの体にはいま別世界の人間の魂が宿っている、と。
そいつの名前がたしか、田天だったはず。なるほど。お前、偽ルシフェルと旅をしているのか。」
「ああ・・。」
「しかし外にはバイスとその配下のドラゴンたちがいる。残念だが田天君はここで終わりみたいだぞ?もちろん、お前もな。」
ククッと笑いながら、倒れ混むフレイラを見下すベリア。
しかしフレイラのほうもその肩をふるわせ、笑いだした。ボロボロのその体で小さく笑うフレイラのその様は、ベリアの目には少々不気味に映っていた。
「何がおかしい?フレイラよ。」
「バイスねぇ、やっぱり・・見覚えがあったわけだ。悪魔軍に最近配属された人間・・少しだが私も見たことがあったよ・・、・。」
「・・・で?」
「お前は二つ・・大きな間違いをしている。
一つ、田天の実力を・・測れていないこと。お前・・・ほんと見る目無いのな。
あんなゴミども・・あいつにかかればわけはない。もちろん・・お前もな・・・!」
「・・・。」
無言でフレイラに近寄ってくるベリア。ゆっくり、ゆっくり歩く彼は殺気に満ちた黒いオーラをメラメラと放っている。
「そしてもう一つ・・。
お前は私の実力も・・測れていないぞ、ベリア!!」
「!!」
「ハァァァァ!!!」
フレイラのまわりに青く光る魔方陣が出現した。始めてみるその技にベリアはひるんだ。
さらに魔方陣の真ん中にいるフレイラに、光の玉が集まっていく。玉は彼女の傷口に集結し、そしてみるみるうちにそのケガを修復していった。
回復を済ますとフレイラは立ち上がり、ベリアをじっと見る。そして技の準備を始めた。
(この技は私の奥の手・・。
体力を全回復させた後、クリーチャースタイルとは次元違いの魔力を生み出す技・・その効力はたったの五秒間しかもたないが、その間だけ私は、“戦闘の鬼“と化す・・。
これでいかなければ・・こいつには勝てない。
この技はデメリットもでかいが・・もうこれしか、生き残るすべは無い・・!)
覚悟を決めたフレイラ。魔方陣から黒い魔力を大量に受け取った彼女は、パチンと指を鳴らした。
そこで魔方陣は弾け飛び、飛散したその光の破片もフレイラは一つ残らず体内に取り込む。その絶望的なオーラ量に、ベリアは今日初めて冷や汗を流した。
(なんだ・・なにをする気だ・・?
!!!)
そんなベリアを、フレイラは黒くまばゆく光るその目で睨み付けた。まるで獲物にターゲットを絞った肉食獣のような雰囲気で、彼女は“賭け“に出た。
「禁術 ーサタン・スタイルー ・・・発動。」